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【ジンユノ】SNOW LOVERS

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 疑問に答えを出す前に、ユノハは不意にしゃがむと、そこに残っていた雪溜まりをひとすくい両手でかき集め、小さな雪玉を作った。
「ゆ、雪合戦、しませんか?」
 再び立ち上がったユノハの唐突な申し出に、ジンは面食らう。
「ユキガッセ……何?」
「雪合戦。ひょっとして、雪初めてなら、ジン君やったことないかなって思ったんですけど。えっと、こんなふうな小さな雪玉を作って、相手に投げ当てるんです」
 そう言って両手を開いて、作ったばかりの雪玉を見せる。
「投げるって……これをユノハに?」
 いくら雪でも、よりによってユノハにそんなもの投げつけるとか、暴力的に感じてジンが躊躇していると、それを察したのか、
「平気です。ぶつけるとすぐ壊れちゃうんですよ、これ。ほら」
 そう言って、握った雪玉をすぐ近くの壁に向けて投げてみせる。それは壁に当たると小気味良い音とともに四散して、ぶつけた場所からも剥がれ落ちてほぼ残らなかった。
「だから痛くないです。どーんとこい、です。ね?」
 ユノハは自分の胸を軽く叩いてみせた。
「折角だから、初体験ついでに雪合戦もしてみませんか? ……いえ、実はわたしがしたいんです。ジンくんと、雪合戦」
「あ、うん。じゃぁ……」
 せっかくユノハが誘ってくれてるのだから、と、ジンは自分も足元の雪を掬ってユノハに倣い雪玉を握ってみる。が、いざ投げようと振りかぶってみても、目の前に佇む、見ただけでジンの心拍数を左右するような可愛らしい少女に物を投げつけるとかできかねて、どうしても手が止まる。ユノハはユノハで、同じように雪玉を投げようとする姿勢のまま固まっていた。目と目が合う。どちらからともなく上げた手を下ろし、言葉もなく視線を逸らせた。

 先に動いたのはやっぱりユノハだった。
 くるりと背を向けて、中庭の中心へかけ出したかと思えばまた振り返る。
「ジンくんが投げないなら、私から投げちゃいますよ。えいっ」
 そして雪玉がひょろひょろとジンへ向けて飛んでくる。ただし、狙いはわざとでもあるように外れて、それはジンの右手の横を通過して落ちた。
「え。でも、君にこれ投げつけるとか……やっぱり、僕は」
「十回!」
「え?」
 また雪玉が飛んできて、今度はジンの左肩にそれは命中した。ぱしゃり、と水音に似た軽い音をたて、あっさり雪礫は割れ落ち、服に雪がこびりつく。
 痛くはなかった。欠片ほども。
「やった、当たりました! ……こうしましょう? 先に十回相手に当てたほうが、何でもひとつ、言うこときくんです」
「えっ? って、急にそんなこと言われても」
 一方的な宣言に戸惑っていると、また雪玉が飛んできた。慌てて右へ避ける。それはジンの左すれすれに飛んできて背後の雪溜まりに音もなく吸い込まれた。
「ほら、待ったなしです。わたしさっき、ジンくんに当てたから、先にあと九回当てたら私の勝ちですよ」
「えっ、ずるいよユノハ。最初のは不意打ちじゃないか。あれはノーカウントでしょ」
 負けると脅されて、反射的にジンも握っていた雪玉をユノハに向けて投げた。まだどこか遠慮の入ったそれは、ふらふらと空を過り、さっと避けてみせたユノハの足元に落ちて崩れた。
「そんなんじゃ、当たらないですよ?」
 クスッと笑って、ユノハが駆け出す。
「ほら、こっちです。早く狙わないと、また当てちゃいますよ。そしたらわたしの勝ちです」
「言ったね。そう簡単に勝てると思わないでほしいなっ」
 今度はジンも、負けずと足元の雪を掬いざま、ユノハを追って走りだす。当たっても痛くはないのだと、さっき自分で体験したから、今度は本気で逃げるユノハの背を狙う。それは見事にユノハの背のど真ん中を撃った。
「きゃっ!」
 駆けていたユノハが小さく跳ねてよろめいた。その場にしゃがむ。
「あっ、ご、ごめん大丈夫……」
 慌てて近寄ろうとしたら、振り向きざまに雪玉が飛んできて、完全に油断していたジンはそれを避けきれずに、ユノハへと伸ばしかけてた右手に受けてしまう。
「二発目! あと八回ですぅっ」
 反撃が来る前にさっと立ち上がりざま、ユノハは次の雪玉を握っている。
「卑怯だユノハっ! 倒れたふりなんか……」
「ちがいますよー? 倒れたんじゃなく、雪を掬うために屈んだだけですよ〜」
 はしゃいでユノハはジンから逃げる。そんな彼女から視線を外さず、素早くジンも足元の雪を両手でかき集め一抱えすると片手でぎゅっと小さな雪礫を握ってユノハに向けて放った。抱えた雪がなくなるまで、握っては投げ握っては投げ、連続で飛来する弾にさすがのユノハもきゃあと悲鳴を上げる。――笑いながら。
「当たった! 今当たったからね、二発! これで僕のが優勢だよねっ」
 流石にユノハも全弾は避けきらず、連撃の合間に彼女が苦し紛れに投げてきた反撃の弾の方はジンが余裕で避けてしまった。しかし、彼女もこれ以上狙われまいと、さっと植え込みの陰に隠れてしまう。
「逃さないよ? 負けたら何でも言うこときくって、言ったよねっ!」
 追って、ジンがユノハが隠れた植え込みを回りこむと、そこで待ち伏せしていたユノハが雪玉を両手でひとつづつ、立て続けに投げてきた。
「うわっぷ!」
 慌ててひとつは避けるが、続いてきたもう一つがまた直撃。
「これで同点ですぅ!」
 そしてヒットアンドアウェイでまた駆けてゆくユノハ。
「くそっ、油断した。二度目はないからねっ」
「ふふっ、安心して下さい、エレメント能力は使いませんからっ」
 言いざまに、透過する代わりにまた、ユノハはジンの死角へと回り込む。
「当然じゃないか、そんなの使われたら流石に僕も勝ち目が薄い!」
 しかし今度はジンも用心して、そのまま追わずに先読みしてユノハの正面に躍り出る。追撃ばかり警戒して前方認識が甘かったユノハに、逆にジンの雪玉がヒットした。きゃっ、と悲鳴を上げ、しかし立ち止まることなくまたくるりと反転して遠ざかる。背中からの攻撃を警戒して、やや身体を捩じり半分ジンへ顔を向けざまに、けれど彼女は楽しげに応じた。
「その代り、ジンくんだって断ち切る力で防ぐのはナシですよ?」
「りょーっかい!」
 返答と共に雪玉を投げつけると、きゃあと言いつつ軽やかな鈴の音のような歓声を連れて、ユノハはまた立ち木の茂みに隠れては、物陰から近づくジンへと反撃の礫をなげる。そうやって、ジンが後を追い、ユノハは度々素早く物陰に隠れてはジンに応戦、というスタイルのまま、追いかけっこのような雪合戦が繰り広げられた。追うだけならジンの方が歩幅からして大きく有利だったが、ユノハもなかなかすばしこく立ち回る。そうしながら二人とも、雪玉を作ったり投げたりし合っているから、単純な足の速さだけで勝負がつくものでもない。投げては避けて、当てては当て返され、先ほど雪玉を転がして回った中庭中を駆け巡ってのなかなかの接戦になった。
 雪玉の軌跡を残す中庭の雪原に、新しくまた二人の足跡が刻まれる。ぬかるんだ白い世界の上に、また新しい雪が静かに舞い落ちてゆく。

作品名:【ジンユノ】SNOW LOVERS 作家名:SORA