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学パロ時京・お花見

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30分ほど電車に揺られた先、その社は駅から5分も歩けば参道に入ることができた。
もともとその土地の鎮守として格が高く、参拝客も引きもきらず境内に押し寄せる。だが毎年4月の初めによりいっそうの人が集まってくるのは、参拝のためというわけではなかった。

「うわあ…」

境内に足を踏み入れた京一郎が、驚嘆の声を上げた。
思わずといったその響きに、連れてきた時雨がやや得意げな心持になる。
境内と社を囲む森、そのあたり一帯に広がるのはほのかに紅色をさした桜の巨木の群れだった。

「見事だろう。社の裏一帯がこんなふうに桜になってる」
「うん、ああ、綺麗だねえ…」

ひとまず社に参拝を済ませてから、桜の木が生い茂る裏手の方へ足を進める。
一応は静謐さを保っていた境内から離れれば、そこは神社の敷地ながら花見客でごった返す露天の宴会場のようだった。
客も多ければ、出店も多い。神社の裏手とも思えない賑わいに、京一郎はわくわくと視線を躍らせた。

「すごい、こんなにいっぱいお店が出てるよ!わあ、どれ食べよう」
「ほら、落ち着け。人が多いからはぐれるなよ?」
「うん。あ、あれ何だろ?」
「だからいきなり向かうなって!見失うだろうが*-」
「ごめん」

えへへ、と笑いながら、時雨の横にぴたりとくっつく。

「僕あんまり出店とか行ったことなかったから…つい楽しくなっちゃって。ごめん」
「祭りに行かなかったのか?村の社でもあっただろ」
「あったよ。でも祭礼には出たけど、出店での買い物とかはさせてもらえなかったなあ。母がそういうところでの飲食には厳しかったから」
「そうか…」
「服もね、キャラクターものなんて持ってなかった。ライダーのとか、ちょっと欲しかったよ」

だから、今日はあのTシャツ着て出かけてみたかった。ちょっと恥ずかしいけど、時雨と一緒ならいいかな、って思って――
そう言って笑う京一郎の顔を、そっと盗み見る。
いかにも大切に育てられたような、品の良い顔立ち。つい忘れそうになるけれど、こいつは田舎に帰れば大地主様の一人息子だ。
世に隠れた異能持ちの集団である五本刀衆の一員などと、本来であれば道が交わるはずもない。
たまたま進学のために村を出てきて、たまたま時雨と同じ学校に通うことになり、たまたま一つ上の時雨と出会った。
どれか一つでも歯車が狂えば、出会うこともなかっただろう。

いや、これからだって、わからない。
たまたま交わった道は、また逸れるかもしれない。一度離れてしまえば、二度と重なることはないかもしれない。
ふとそんなことが頭に浮かび、寒くもないのに微かに体が震えた。
隣の京一郎の手を、そっと握りこむ。人混みの多さに、目立ちもしないだろうと高を括って。

「…?時雨?どうしたの?」
「こっちだ」
「え?」

物問いたげな京一郎の声には答えないまま、ぐいぐいと木立の奥の方へ手を引いていく。
人混みと露店の連なりを抜け、さらに桜の木立を後にした。

「どうしたの、時雨…もう桜、見えなくなっちゃったよ?」
「ああ。もうちょっと…よし、ここだ」

公園になっている神社の敷地、そのほとんど端のあたり。
遊歩道を逸れて新緑の木々を分け進んだ、そこにその一隅はあった。

「うわあ…!」

先程花見客でごった返していたあたりに咲いていたのは、ほとんどが染井吉野だった。
しかし人けのないそこに広がるのは、山桜、紅枝垂れ、緋桜、八重桜、そして染井吉野。
新緑の柔らかい緑の中に鮮やかな色彩が広がり、そこにきらきらと陽光が差し込む様子は、まるで贅を尽くした日本画の一幅のようで。

「すごい…」
「ほんとは咲く時期が一緒にならない品種ばかりらしいけどな。日当たりの関係かなんなのか、ここでは一気に花が開く」
「綺麗だ…」
「だろ。ちょっと遊歩道から離れてるから、あんまり知られてないみたいだけどな」

もともとは、雄真に連れられて来た場所だ。いくつの頃だったかも思い出せないほど昔の話。
生まれつきの異能を持て余して五本刀に行きついて、やっと居場所を見つけたものの周りにすぐ馴染むことも出来ず、ささくれ立ったまま日々を過ごしていた時雨をここに連れてきたのは、何の用事のついでだったか。
いや、用事なんて口実だったのかもしれない。ただ俺にこの場所を見せたかっただけなのかも。
花見なんて面白くもない。いかにもそんな顏で連れられてきた俺は、ここでぽかんと口を開けたんだっけな。

「俺も来るのは久しぶりだ。お前と見たかったんだ、二人で」
「うん…ほんとに、綺麗だ」

半分ほんとで、半分嘘だ。
一緒に見たかった。それもあるけれど、俺はこの場所でお前のことを眺めていたかった。
色とりどりの花に囲まれ、俺に向かって笑うお前のことを。

「ねえ、時雨」
「んー?」

京一郎が、紅色の花をつけた枝垂れ桜に手を伸ばす。
摘み取るわけではなく、そっと枝先を掌に載せ、間近に唇を寄せ。
その姿の艶やかさに、時雨は一瞬どこに居るのかを忘れそうになる。
こんな夢を、いつか見た気がする。

「また来年も、ここに来られるかな。出来れば来年だけじゃなくて、その次の年も、またその次も」
「…ずっと?」
「うん。ずっと。何年先でも、時雨と一緒に、この花を見ていたい」

求婚のそれかと思えるような、甘い言葉。
とろりと花に酔ったような目で笑う京一郎を、抱きしめてそのまま押し倒したい衝動を辛うじて抑え込む。

こいつは、わかってない。
俺のことは、多分好いていてくれる。おそらくは、友達のそれよりも少しは深い気持ちで。
だけどそもそも、恋愛感情ってものがどういうものなのかについての認識が呆れるほど、ない。

俺が抱きしめてキスをして、これはおふざけだのおまじないだのそういうんじゃない、お前が好きだから、お前の恋人になりたいからそうしてるんだ、と言えば、さすがのこいつも俺の気持ちが分かるかもしれない。受け入れて、恋人になってくれるかもしれない。
でも俺は、お前の気持ちが育つのを待ちたい。
男同士だから、本来ならば道が重なることもなかったかもしれない二人だからこそ。
お前自身が俺のことを好きだとはっきり自覚してくれるまで、俺が自分にとってかけがえのない存在だと思ってくれるようになるまで。それまでは。
誰よりも俺が、お前とずっと一緒に居たいと願っているから。

「ああ。また来よう、来年も、再来年も、この先ずっと」
「うん」

お前のただ一人になるために、俺は待ってる。お前のことを守る。お前が笑うなら、おかしな服を着ることだってなんてことない。
だからこのくらいは許してもらっても、神仏の罰は当たらないだろう?
そう心の中で呟きながら、時雨はそっと桜の下の京一郎に口付けた。


作品名:学パロ時京・お花見 作家名:aya