【ジンユノ】花びら一枚の記憶
笑いはしなくとも、ただの幻と片付けられて終わるもの、そんな風な否定を覚悟していた僕に対して、母は実にあっさりと、夢の話を受け入れた。むしろ積極的に。
「あら、信じない? 輪廻転生っていうの、知ってるでしょう? 人には魂が宿っていて、死んだらそれは肉体から抜けて、また新しい命に宿るの。生まれ変わりね。そういうの、ジンは信じられないかしら」
「いや……えっと、でも、その、科学的根拠とかないし、魂とか証明もされてないし、信じ難くない? そういうの」
「そう? 母さんはあると思うんだけど。だって、死んでおしまいそれっきり、じゃ、なんだか淋しいじゃない。死んだ後も魂があって、天国でもあの世でも何でもいいけど、ちゃんと見守ってくれてて、そうしてまたどこかで巡り来る、そう考える方が素敵だし、実際そんな風に考えて人は何千年と暮らしてきてるのよ。当たり前にある考えなんだから、本当のことだって思わない? 先人の知恵的な」
「いや、そういう思想の話じゃなくってさ……そりゃ、考え方としちゃ、消滅しちゃうより前向きかもしれないけど、でも、死んだ人間は還ってこないんだから証明のしようもないし、事実かどうかなんて誰にも……」
「そうねぇ、判らないわね。でもね、ジンのようにはっきりした夢を見た訳じゃないけど、あるのよ、母さんも。きっと生まれる前の記憶の名残」
「……え……」
今度こそ僕は絶句した。吃驚して瞬きも忘れて母を凝視する僕に、母は何でもないように微笑みかける。
「ある、じゃなく、あった、っていうべきかしら。お兄ちゃんたちをね、身籠ったって判った時の事よ。まだ双子とか性別とか、そんな事一切分からない、ただお医者様から妊娠を告げられただけの時。ううん、その前からなんとなく予兆はあったんだけどね。――あ、双子の男の子だ、そう判ったの。それだけじゃなくてね、また逢いに来てくれた、今度こそ絶対いいお母さんになろう、って、そう思ったの」
「……え。それって、ええと、予め子供の性別も双子だって事も見抜けたって事?」
「まぁそうなるんだけど、今重要なのはそっちじゃなくて、母さん、妊娠するのなんか初めてだったのよ? なのに、すごく自然に出てきたの。もう一度、チャンスをもらえたんだって思い。これがどういう事か判る?」
「――それが、前世の記憶、ってこと?」
「そう。まぁ確かに、記憶というほどはっきりしたものじゃないのは認めるけど。でもね、思ったの。きっと私はこの子たちに、生まれる前に出逢ってるんだって。前世でもきっと親子だった。だけど、その時は多分手元でうまく育てられなかったんじゃないかしらね。その悔いと反省が、あの一瞬ふわっと蘇ったんだと、そう思ってる」
思い返してでもいるのか、母は目を閉じ胸に手を当てていた。でも、夢見る人のそれとは違い、口調はとてもしっかりしている。確信を持って言ってるのだと、再び僕を見た目がそう告げていた。
「だからね、絶対前に縁があって今こうしてるって、誰に言わなくても信じてるから、人に前世がある事も自然に信じられるのよ。――ジンの不思議な夢もそういう類じゃないかなって、そう思ったんだけど違うかしら」
作品名:【ジンユノ】花びら一枚の記憶 作家名:SORA