【ジンユノ】花びら一枚の記憶
前世かもしれない。そう思っていたのは僕だって同じなのに、僕の方が動揺していた。打ち明けた時には自信が揺らいでいたから、だから母の言葉を信じて縋りたくもあり、同時に簡単にそうかと流されるのはどうなんだと捻くれた意地のようなものもあった。
「――僕、は。けど、母さんのは本当に前世の記憶の名残なのかもだけど、僕のはそんな単純じゃないんだ。すごくはっきりしてるのに、過去だと仮定しても符合しない変な事ばかりで。第一、さっきも言ったけど、巨大ロボのコックピットみたいな変に未来的なとこにいるんだ。SF映画やアニメとかでしか見ないような、そういう現代技術でも実現不可能に思われる機械とか、そんなの過去にある訳ない。夢の中の言葉も変だし、やっぱり想像の産物っていう方が自然なんじゃないかって……」
「赤ちゃんの頃からそんなSFセットみたいなの、想像してたの?」
「え」
反論は僕の予想外の方向から来た。
「うーん、だって、言葉も怪しい頃からの夢じゃない。逆にそんなの小さい子は想像しないのじゃないかしら。夢が全く変わらないって言うのならだけど」
「いや…それは、変わってない。けど」
「でしょう? まぁ、絶対だとは言わないけど、幼児の知識じゃないわねぇ普通。勿論TVとかあるし、どこかでそういうの見たという可能性自体は否定はしないけど、でもね、ジンくんさっき言ってたじゃない、自分で。夢の自分は子供じゃなく、何がしかのパイロットが務まるほどには育ってるんだって。本来の夢って、それこそ自分の見聞きしたものや体験が元で、基本的には自分が主体だから、小さな頃に見る夢なら、当時の幼い自分の目線になるのじゃないかしら。でもそうじゃないんでしょう?」
確かにそうじゃない。自分が伸ばした腕も、大人のそれにより近かった。あの子との距離感も、なにもかも。
僕はただ息を呑むように頷く。母はそんな僕に満足したように、ね、と小首を傾げてみせた。
「勿論、夢は想像の産物でもあるから、自分とはかけ離れた、例えば巨大怪獣とか、海の魚とか、そういうのになって夢見る事もあるとは思うのだけれど、それでもそういう空想だけのものなら、感覚もそこまでリアルにならないのじゃないかしら。まだ小さなジンくんが、成長した自分の夢を、記憶なんだと信じるくらいリアルに感じてたのなら、やっぱりそれは少し不思議な事だと、母さんは思う訳」
ましてや何度も繰り返す訳だし、と重ねて補うその言葉に、僕は思わず本音を漏らした。
作品名:【ジンユノ】花びら一枚の記憶 作家名:SORA