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【ジンユノ】花びら一枚の記憶

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 そう言われてもなお、僕にはよく判らなかった。だって僕は、泣いてる彼女を見るのがとても辛くて哀しいのだ。だからこそ、あの涙を止めたい。笑ってみせて欲しい、それだけで。それにはあの子に逢わなきゃならない。逢う事さえできたなら、それを確認できたなら――

「ねぇ、ジンくん。その女の子はこの世界に生まれてるのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。逢えるかもしれないし、逢えないのかもしれない。そこは、残念ながら今答えは出ないわ。それでもね、意味はあるのよ。だっていずれ必ず、貴方は今の人生の中で、大切な人に出逢うでしょう。その時にね、想いは生きるわ。きっとジンは、その誰かを幸せにしてあげる事ができる。夢の記憶はその為にこそ、消えずに残っている。そう母さんは思うの。それにね」

 多分僕は、その時納得いきかねるようなむすっとした表情でいたのだと思う。でも反論するでなくただ聞いていた、そんな僕に、母は励ますように笑いかけた。

「それだけ覚えてるのなら、やっぱりそれは運命みたいなもので、ジンの前にその女の子はいつか必ず現れる気がするの。母さんがお兄ちゃん達に逢えたみたいにね。いえ、ひょっとしたら父さんにも」
「父さん?!」
「そうよ。だって、逢ったばかりでよく知らない時から、結婚するかもとか思ったのよ。もうこれって絶対前世からの縁よ。何も覚えてない母さんでさえ逢えたんだから、ジンだって、縁のある人なら巡り来てまた逢えるわ。いいえ、或いはひょっとして下手に記憶がある分、外見や性質の違いに邪魔されて気付けないでいるって事もありえるわね。うん、ひょっとしたらもう逢ってる可能性だって」
「ええっ、だってさっきは逢えば判るって言わなかった? ――気付くはずって」
「本当ならそのはずだけど、思い直したの。だって考えすぎて自分の夢なのに疑っちゃうような頭でっかちさんですもの。見えないサインを見逃しちゃってるかも知れないわね。そうよ、ジン、前の姿を知ってるから余計引きずられちゃって見失ってしまう可能性だってあるのよ」

「……もし見過ごしてたらどうすれば? ……気づかないとか、結局会っても逢えてないのと変わらなくない? 判ればいいけど――判らなかったらどうしようもない……」
 結局堂々巡りじゃないか。僕は憮然として項垂れる。

「夢と符合する事に、本質的な意味はあまりないわ、ジン。ねぇ、その夢の記憶はそれはそれで、大切にするべきよ。それでも、囚われすぎてはいけないの。夢の中の女の子にしてもね、過去生の記憶にあるから特別になるのじゃ意味がない。今を生きる貴方自身が特別と感じて初めて想いは生きるの。だからこそ貴方自身が感じる心を優先させなさい。それが結果的に今生に持ち越した記憶の欠片を正しく活かす道になる筈よ」
「夢の記憶を活かす……?」
「そうよ。その為に記憶を持って生れてきたのよ、きっと。だからこそ、逢えるかどうか、なんてことは悩まなくていい。悩むべきじゃないわ。そういう「特別」は貴方の望む望まないに無関係に、ある日唐突に判るものよ。――つまりね、気付いてないだけでもう逢ってるかもだし、これから逢うにせよ、何処でそれと知らずにその子と遭遇するかも判らないのだから、その時の為にも貴方はもう少し女の子に優しくすることを覚えて損はないと思うのよ。さっき冷たくした子がそうじゃないとも言い切れないんだから」
「え、そこ!? そこに持ってくかな普通!」
「あら判らないじゃない」
「いや、違うって。それはない。何でって―――――」

 そこで僕は、ふと、根本的に母の話を素直に信じ受け入れてる自分に気付いた。つまり、あの夢が生まれ変わる以前の僕の記憶なのだと言う事をだ。過去生の可能性の非現実性を疑ってたはずなのに。
 何の根拠もなくてもそれが正しいと、僕の中の何かが肯定する。理屈抜きで、さっきの子は違うと断言してしまえるのと同じくらいに。理由もなく。

 どうやら崩せないはずの疑惑の壁を壊すのは、僕が探してたような威力の大きな破壊槌ではなく、小さな小さな蟻の穴だったようだ。母のとんでも発想の可能性に僕はじわじわ浸食され、覆せない最初の疑念、それ自体は、何時の間にやら幻のようにぐずぐずに、大した意味を持たなくなっている。
 感じる心を優先させろ、か。考えては駄目と、なかなかに難しい命題だ。けど、ああ、きっと母さんの言う通り。
 初めから、ただ自分の感覚を信じて受け入れてやれば、それで良かったんじゃないか。これからだって。
 何を悩む事があったのか。それさえ今となってはよく判らなくなってきてしまった。

 何だかおかしくなって、僕は小さく吹き出した。そのまま、肩を震わせて、笑いの衝動に耐える。
「何か吹っ切れた?」
「いや、ごめん母さん。やっぱすごいや。なんか、気が晴れた。ありがとう」
 やっぱり少し笑いながらそういうと、どういたしましてと母がにこやかに頷いた。