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【ジンユノ】花びら一枚の記憶

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                      ◆◆◆

 五年から六年にかけても結構伸びたけど、中学へ上がる前の春休み、僕の身長はますます伸びた。めきめき大きくなるという言葉が例えじゃないんだと実感したのは、本当に骨が軋むような音を聞いたからだ。正直驚いたしなんとなく気持ち悪い。最初は何かヤバい病気かと思ったくらいだ。あと、痛い。これがマジで痛む。膝とか足の付け根とか、間接のある辺りで特に。ずっと痛いのではなく波があるけど、たまに夜、眠れないときがある。

「だるい。あと、喉も痛い」
 声が枯れて出にくくて、最初風邪だと思ってそう訴えたら病院に連れていかれた。
「成長痛ですねぇ。喉の方も、変声期にさしかかってきてるんでしょう」
 そう診断された。

「早くねぇ? 俺ら中学入ってからだったぜ声変わりとか」
 そういう兄は既にかなり声変わりしてるが、そう言えば僕と同じような症状を前に訴えていたなと思い出した。
「個人差あるからねー。それに急に変わる訳じゃないし、結局落ち着いたらそこまで変わらない人もいるし。まぁ少しづつね。しばらくはどっちも我慢ねぇ」
 早く大人になりたいとは思ったけど、身体の変化は予想しなかった不調を伴って、僕は不機嫌に黙り込む。
「背も伸びたよねぇ。ジンと同じ年の時の俺たちの身長、抜かれてるよ」
 子供の頃からの背比べをしてる柱の印の前に立たされて、兄のひとりが僕の背を計り印をつけて、ほらここと、指してみせる。
「けっ、んな事言ってもまだ俺らの方がずっと高いしな。第一、俺らまだ伸び盛りだし、ジンなんかまだまだ」
「……じ、き、おいつ、いて、やる」
 上から見下ろすもうひとりの兄をねめつけ言い放とうとする端から声が掠れて、僕は空咳して喉を押さえた。
「大丈夫? 蜂蜜レモンでも作ろうか?」
 喋るのも億劫で、こくこくと頷く。
「そんなに早いうちから伸びたら、後で伸び悩むんだぜ」
「絶対追い抜かす!!」
 張り上げた声は自分のじゃないみたいに掠れて、僕はまた顔を顰めた。
「あーあ、無理すんなって。声変わりの時無茶すると喉痛めるぜ」
 ぽんぽん、とあやすみたいに頭を撫でる手を、子供扱いされた気がしてむっとして払うと、今度は両手でくしゃくしゃに髪の毛を掻きまわされた。楽しそうに。
「こんの生意気小僧め、こーしてやるこーしてやる」
「やめろよ馬鹿兄貴!」
「あーもう、やめなよ大人げない。抜かされる心配なんかしなくても、ジンはまだ当分俺たちに追い付けないってば」
「あっ、こらお前ひとりで大人ぶってんじゃねぇよ!」
「なんだよ、僕の方が小さいままだって言いたいのかよ。どっちの味方だよ!」
 揉めてたら、ガンガンガンと大きな音がして、母さんがフライパンの底を木杓子で叩いてた。マンガか。
「三人とも大きななりして家の中で暴れない! ご飯減らしちゃうわよ」
 それは成長期の男子にはきつい。僕らは黙って静かに牽制し合う方向へ移行した。



 声が掠れるのはすぐ収まり、声変わりの方も今のところは大した変化もなく一応落ち着いてはいるけど、高い声は相変わらず出にくい。そして、春休みの間中、やっぱり毎日のように少しずつ、背は伸び続けた。
 三月終わりに中学の制服が届いて、試着してみる事になった。
「似合うじゃないか! うむ、ジンも大人になってきたな」
 父がしきりに頷く横で、母も少し驚いていた。
「お兄ちゃん達の時は、制服に着られてる感があったけど、ジンは意外といけるわね。カッコいいわよ。というか、うーん、成長見越して少し大きめに作ってたつもりだったんだけど、もうぴったりって。これは途中で制服また作り直さなきゃならないフラグ?」
「いいじゃん、そしたら俺のやるよ。どうせ来年の今頃には卒業だしさ」
「お下がりとか冗談でしょ。膝とかすり切れてそうでヤだよ」
「俺のならいいんじゃない? 大事に着てるから結構綺麗だよ」
「あ、おい、喧嘩売ってんのかてめぇ!」
「その喧嘩で制服ボロボロにしたのはどこの誰さんでしたっけ?」

 そんなやり取りがひと段落して、僕は姿見に映った自分を改めて見た。シングルブレザーにネクタイ姿は、兄達の時も思ったけど、少しだけ大人に近づいた錯覚を起こさせる。いや。
 僕は右手を前に伸ばす。それは鏡に阻まれた。
 そこに映る指の先に見える首元のタイは思ってた以上に窮屈で、僕は溜息を零し、そのまま戻した右手でタイを緩めた。
「もういいよね。脱ぐ」
「あらもう脱いじゃうの? 写真撮ろうと思ったのに」
「どうせ入学式でも撮る気なんでしょ。その時でいいよ」

 服を着替えながら、また自分の掌を見る。
 近づいてる。あの夢の自分に。
 そんな気がして、何もない空間を掴むようにぐっと手を握る。

 僕はやっぱり夢を見続けていた。