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【ジンユノ】花びら一枚の記憶

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                      ◆◆◆

 僕は都内の一軒家に家族と住んでいる。少しばかり小煩いし何時も厳めしい顔をして気難しい印象の割に実際には時折鬱陶しくなる位子煩悩な父親と、美人で優しくて朗らかで、ちょっと天然入ってる母親、それに温和で少し頼りないけど優しくて生真面目な性質の兄と、もうひとり、こっちは少々喧嘩っ早いけど情には厚い、覇気の固まりみたいな元気な兄がいる。この二つ上の兄達は双子で、僕らは三人兄弟だ。
 家族五人、並より若干裕福な、けど普通の一般家庭。家族仲も、まぁいい方だ。とかくいがみ合ったりばらばらになりがちな男どもを、母さんが上手く纏めてるのもあるし、喧嘩もするけど肉親を本気で嫌うとか、ちょっと考えられない。食うに困るでもなし、愛情に飢えるでもなし、多分僕は恵まれた環境、とやらにいるのだろう、今。なんだかんだ結構幸せな生活を送ってるのだろうとそう思う。
 あんまりありきたりに生きていて、小さい子供の頃からこっち思い出せる中で、本気で哀しい思いをした事がない。そりゃまぁ、兄貴に喧嘩で負けたとかおもちゃやおやつを横取りされたとか、遊んでて転んで怪我をしたとか、まぁ、チビの頃は至極しょうもない事でいちいちびーびー泣いては母さんに慰められてたし、泣いた事や腹が立ったことがなかったとか、そう言うのじゃ勿論ない。
 
 でもだからこそ、あの夢で見る光景が、どうしようもなく切なくて辛い。そういうことを僕は、あの夢で知ったようなものだ。
 だからなのだろうか。あの夢は特別で、目覚めている時でさえ僕は夢の事をしばしば考える。


 もっとうんと小さい頃は、何がどうなっているかも判らず、夢なのだと理解もできないまま、ただ悲しくなって泣きながら母さんの元へと助けを求めた。怖い夢を見たのねと言われ、夢だからもう大丈夫と宥められながら、怖いと言うのとは違うと判っていても、うまくそれを伝えられる事も出来ず、伝えられないもどかしさに今度は癇癪を起して、延々疲れるまで泣きじゃくっていたのを朧に覚えてる。ただもどかしく、夢のあの女の子に逢いたくていてもたってもいられなくなるのだ。そこそこ大きくなってから聞いた話じゃ、あの子のところへ行くのだと暴れてきかず、あの子って誰だと問いただしても要領を得なかった、なんてこともあったとか。そりゃそうだ、僕自身が判らないものを人に説明しようもない。
 もう少し大きくなって、夢を見たのだとちゃんと理解できるようになると今度は、夢を見て目覚めてすぐもう一度眠ってあの女の子に逢おうと何度も僕は試みた。しかし夢は気まぐれで、見ようと思って見れるものでもなく、まして続きが見れる事など皆無だった。続きどころかその前さえ見れない。

 同じ断片だけ、繰り返し繰り返し。
 古い映画のフィルムみたいに、繰り返し。

 毎日じゃない。それは不定期に間を置いて、忘れた頃に不意に夢見る。まるで夢が、忘れるな、と、そう言ってるようにさえ僕は感じた。
 そうして幾度となく繰り返す内、訳も判らず苦しさを覚える、そんな夢なのに、僕はその到来をどこかで待ち望むようになっていた。
 何故なら夢でしか、あの女の子に逢えない。



 多分最初に夢を見た時からずっと、変わらず僕はあの女の子が気になって仕方がない。
 夢で見たからではなく、その前から、あの女の子を知っていた筈なのだ。
 気のせいじゃない、そんなあやふやなものである筈がない。
 あの子を知っている、知っているからこそ、何度も夢に見る。
 それは確かな記憶。なのに何一つ思い出せない。あの女の子の名前さえも。