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【ジンユノ】花びら一枚の記憶

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 目の前にいる女の子は、でも、あからさまに不審な僕に嫌な顔ひとつよこしてこない。くりっとした印象的な瞳は、ただ僕を見上げて待っていてくれる。僕よりずっと小さくて華奢な存在。クラスに女子だっていたのに、初めて『女の子』をちゃんと間近で見た気さえする。こんなに、違う存在。優しげな面立ちは幼くさえ見えるのに、全体的な雰囲気はどこか仄かに大人びて可憐で。他の女子たちとも、全然違う。さっきも思ったけど、立ち姿からして何だか違う。おとなしやかで品があって、それだけじゃない、なにがどうと、具体的に言うのは難しいけど、違う。僕の中で刹那の内に目まぐるしく錯綜する思いの中、それだけは判った。
 彼女は――特別だ。その証拠に見てるだけで体温が上昇する。息が上がる。鼓動が跳ねて、収拾つかない。まともに出てこない言葉の代わりに勝手に手が伸びかけて、それに気付いて慌てて引きもどした。これじゃますます不審者じゃないか! 引いた片手でそのまま頭を抱え、結局役立たずな口を閉ざす。何をしてるんだ僕は。
 頬が熱い。いたたまれずに逃げたくて、でも彼女から目が離せない。

 そしたら――そしたら、笑ったんだ。

 小さな手で押さえた口元から鈴音みたいな可愛い声がくすりと零れた。春風を思わせる優しい微笑み。
 ふわりと温かな風が過ぎり、新しい花びらを僕らへ運ぶ。その風に誘われるように瞳をあげた彼女の視線が舞う花を追った。ずっと泣いてる姿しか知らなかった夢とは違い、笑ってくれた彼女は口元に優しい笑みを残したまま、散る花を見るまなざしは、どこか懐かしげで。それは頭上に満ちる薄紅に辿りつくと愛しそうに細められた。
「桜……とってもきれいですね、ジンくん」
 そう言って振り返ると、彼女はまた僕に笑いかけた。その微笑みに、僕は一瞬で射抜かれる。なんて、可愛く笑うんだろう。

 夢の女の子はいつも泣き顔で、それでさえ可愛かったけれど。それ以上に。

 僕は彼女の微笑みに溶かされて、ぼうっとなって。ただこくこくと同意するように頷くしかできない。
 視界が桜みたいな薄紅に、染め変えられてゆく気がした。舞う花が彼女を飾る。可愛い。きれいで可愛い。なんて可愛い女の子。満開の桜よりも僕は彼女に魅了され、そして。
 彼女の言葉に遅れて気付く。今、なんて言った?

「え……? あ、名前――どうして――?」
 僕の名前を、呼びかけてこなかったかさっき。今の僕とは初対面なのに。まだ名乗ってもいないのに。

――ひょっとして君も僕を覚えてた? 僕に気付いたの? 

 一瞬驚きと期待が膨らんだが、彼女の反応はそういう感じからは遠く、きょとんと首を傾げてみせる。
「神室儀ジンくん……ですよね? 違ってた?」
「いや、そう……だけど」
 フルネームで呼ばれて、僕はますます混乱する。でも、謎はすぐ解けた。
「良かった間違ってなくて。えっとね、さっき入学式で新入生代表の挨拶してたでしょう? わたし、見てたんですよ? だから覚えてたの」
 ふふっ、と彼女が悪戯っぽく笑った。さっき笑われた時もそうだけど、僕の醜態を嗤ったと言う風じゃなく、嫌味を感じさせない優しい微笑み。僕はそれに見蕩れながらも、改めて疑問が湧きあがる。
「え? あ、けど、入学式で君の事、見てないよ僕。壇上で新入生の顔全員チェックしたはずなのに」
「全員の顔、覚えちゃったの? 頭がいいって聞いてたけど、凄いんだね!」
 逆に吃驚された。