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【ジンユノ】花びら一枚の記憶

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「わたし、何だか浮かれてるみたい。ごめんね、わたしばっかり喋ってますね。桜のせいかも。あんまり綺麗で、見とれてふわふわしてたから」
「桜――好きなの?」
 彼女の事が知りたい。僕は彼女に問いかける。もっと色々知りたい。
「桜、も勿論好きなんですけど、花びらが――風の中に降るのを見るのが好きなの。だから桜に限らず、梅とか桃とか、林檎とか梨とか、なんでも。でも桜吹雪が一番圧巻ですよね」
 そこで、ふと口籠る。少し困ったような笑みを結んで、彼女は続けた。
「おかしいでしょ。花が散るのが好きだなんて。何だか暗い感じ、しちゃいますよね」
「あ、いやそんな事は。綺麗だし……ただ、少し切ない、かな……」

 僕は、少し前の自分を思い出してそう言った。儚く消えていくだけの一瞬の夢。掴めない事がもどかしく、失くした事が哀しくて胸が痛んで。

「そうですよね。普通はみんなそう感じると思うの。散るのが好きとか、ペシミストみたいって言われちゃう。綺麗だけどどこか切ない――でもね」

 だけど、目の前の少女は微笑んで手を伸ばす。降る花を、掬うように両手で受け、その手をそっと僕の前に開いて見せる。華奢な可愛い手の中で、小さな薄紅が一枚、身じろぐように揺れていた。
「なんだか挨拶しにきてくれてる、そんな気がするの。また来年咲きますよって」
 そう言うと、小さな花びらをそのまま閉じ込めた両手を胸元に抱いて、笑みを浮かべた彼女は祈るように目を閉じた。
「――花びらが散るのを見ると頭の奥に歌の欠片が甦るの。すごく懐かしいけど、どうしてもちゃんと思い出せない、掴みとれない遠い歌。でも、誰かがわたしに教えてくれた。また逢える。何度でも。そんな風に、その歌が伝えてくれた気がするの。ずうっと昔。いつか判らないけど」
 それから大切そうに閉じた手を開き、慈しむような眼差しを向けてそっと風に還す。僕は眼を見開いてそんな彼女の手の動き、表情の変化、全てから目が離せないまま、鼓動が高まるのを感じていた。
「花びらはきっと約束の証。花の姿を思う為、次に花開く時への記憶の種。だからかな。切なさを包み込むような、なんだかとても暖かくて優しい気持ちになるの」

 懐かしい遠い歌。記憶の種。ひょっとして彼女もまた、持っているのじゃないのか。生まれる前の、記憶の欠片。僕は胸のざわめきを押さえる事ができない。覚えているの? 肩を掴み揺すりたくなる衝動を、必死に殺す。
 言えない、そんな事。例えそうだとしても、それが僕に繋がるものなのかは、今の僕には判らない。或いは僕とは無関係の、彼女だけの大切な欠片なのかもしれない。ああ、でも、それでも僕は。僕だけは確かに。
 切なさと同時に熱が生まれる。何かよく判らない熱い気持ちが僕を浸しす。
 複雑な感情に呑まれて見つめる中、夢見るような瞳は僕に向いて、どうやら現に呼び戻されたらしい。はっと弾かれたように瞬いて、途端に彼女は薄紅に染まる。
「ごっ、ごめんなさい、初対面の人にわたしったら変な話ばっかり……忘れて下さい、恥ずかしい……」
 さっき花を包んだ掌で、今度は顔を隠してしまう。小さな体が更に縮こまるような気がして、僕は慌てた。
「えっ、いやあの、そんな……変なんかじゃない、よ。判る、から。僕も……そういうの、ある、し」
 やっぱりうまく回らない口でどもるように言うと、口元を隠したまま「え」と顔をあげる。
 頬が赤く染まって、ああ、どうしてこの子、こんなにいちいち可愛いらしいんだ?
 言葉を失くして見蕩れる僕に、彼女は柔らかく微笑んでくれた。
「ジンくんって、なんだか不思議です。とってもお話ししやすいの。こんなこと初めて」