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【ジンユノ】花びら一枚の記憶

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 けれど、人に話さなくなったからと言って夢を見なくなった訳じゃない。むしろ、年を重ねるごと、夢見る頻度は増し、ますますリアリティを持って感じられるようになっている。
 内容は変わらない。いつも同じ、女の子の夢。女の子が泣くのも、それをどうにもしてあげられないもどかしさも同じ。僕はいつも心の中で必死に手を伸ばすけれど、実際には彼女の唇に触れるのがやっとで、支える力を維持できなくて腕を落としてしまう。頻繁に繰り返す内、僕はただ夢見るだけじゃなく、当の夢の最中にこれがいつもの夢だと認識できるほどになっていて、夢の中で必死に状況に抗おうとするのだけれど、哀しいかな、夢の自分は何一つ僕の思い通りに動かない。これが兄達の言うようなただの夢なら、意識を持ちこめる今、夢を変質させることも出来そうなものだと思うのに。
 記録された映像をただ見せられているように、何一つ変わらない。変えられない。
 でもだからこそますます、僕はこれがただの夢じゃないのだと、そう感じるのだ。

 予知夢か。過去夢か。

 普通に考えたら突拍子もない、巷で言うところの中二病的なこれは考え方なんだろうけど、普段の生活でSFやらファンタジーやら小説の類に接してる中から、自分の感覚に近い名称を僕は拾い上げる。間違えないで欲しいけど、この手の創作物に携わるより夢の方が先だったんだから、断じてこう言う与太話に影響されてる訳じゃない。体験の方が、これらの回答を指しているのだと、そう思ったのだ。

 決して長くはない夢を見る僅かの合間、やがて僕は、どうにもできない自分の行動の代わりに出来るだけの情報をそこから拾おうと細心の注意を払い、夢を可能な限り客観視するようシフトする事を覚えた。それで判った事は、まず僕と女の子がいる、その場所が、どうも何かの操縦席らしいという事。しかし、そういうものにはつきものの、計器類がほとんど見られない。代わりに機械的なフォルムの造形物がリング状に囲む中、正面に、それが操縦桿なのか見慣れないハンドルバーのようなものついた腕状の装置が、丁度パイロットの両手の位置に合わせて突き出るように伸びている。それらの中心に位置するシートに僕らは座っている、そういう状況。僕らというのは、どうやら本来シートはひとつなのに、僕らは二人でそこにいて、女の子はシートに座る僕の膝の上にいるようなのだ。
 つまり、夢の自分はやはりずっとそう認識してたように女の子と同じ年頃か、少なくとも小さい子供ではない。
 それが何の操縦席なのか、どうも判然としない。僕らのいる空間はシートを中心に小型の球形に閉ざされ、そこは全天型のスクリーンになっているようで、どうやら外と思しき景色が見て取れる。感覚だけで言えば、操縦席が宙にでも浮いてるような感じだ。ただ、そうじゃない事は壁面に微かに走る蜂の巣状の八角形を敷き詰めたパネルの輪郭で判る。パネルの一枚一枚がディスプレイの役を担ってるようで、天井どころか床も、ほぼこのパネルで埋まっている。ただし外界はどうも夜らしく、暗いのと、夢の視界がどうも霞みがかっているようで、正直見て取れる情報は少なかった。視点が高く、足元に灯りがいくつか、その中に、瓦礫が窺える。なにか、建物の一部が破壊された跡、そんな雰囲気。

 ……何だって言うのか、この非日常感。筐体ゲームでもあるまいに、左右に二つある操縦桿とか、座席を覆う程の全方向型フルスクリーンとか、何のコックピットだか知らないが、軍用最新戦闘機でもこんなのないんじゃないか?
 いや、これが戦闘機なら視点の高さは納得いくがそもそも滑空してるはず。スクリーンに映り込む映像はそんな高速移動は見せていない。高所に位置してる重機のような……いや、いい、常軌を逸した空想癖の持ち主の発想だと言われるのを承知で言う、まるで……巨大ロボットのコックピットにでもいる、そんな感覚。

 あり得ない。自分でそう感じていながら自身が一番否定してしまう。あり得ない。そんなもの、それこそライトノベルかアニメの世界じゃないか。3〜4メーターサイズの重機型ならまだしも、スクリーンに投影されてた視界の高度から鑑みてもあれはそれよりもっと高い、それこそロボットアニメに登場しそうなクラスのものに思える。そんなもの、素材重量に機体が耐えられないだろうし、例え実現したとしても乗りこむパイロットの方が、例えば移動の際の上下運動でかかるGに耐えるだけで手一杯、転倒でもした暁には衝撃だけで死にかねない。よほど優れたバランサーとか衝撃吸収の措置が必要になるだろうけど、現代に重力の影響や衝撃力を徹底的に緩和する技術があるとか聞いた事がない。機体素材にせよ、操縦席の安全構造にせよ、よほど画期的な発明でもないと無理じゃないのか。いやほんとあり得ないって。アニメかよ。

 ……これが他人の夢ならば、僕だってそう言って全否定してやる。そんなもの、リアルな記憶なんかじゃない、見聞きした空想上の物語を取りこんだ脳が作りだしたまがい物を、現実と夢の区別もつかない稚拙でおめでたい精神構造が事実だと混同し、信じ切ってる幼稚な馬鹿だって。だけどそう分析する僕自身が、そんな説明では納得しない。