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【ジンユノ】花びら一枚の記憶

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 ムカムカしながら足早に講堂を回ったところで、母にはちあわせた。

「ジンくん、冷たい〜」
「……聞いてたの? 母さん」
「あら、盗み聞きじゃないのよ? たまたまジンが駐車場と反対方向へ女の子と歩いてくから、なにかしらーってついてきたら聞こえちゃっただけで」
「盗み聞きする気、満々だったんじゃないの、それ」
「あら、母さんを疑うの? 酷いわジンくん。息子が可愛い女の子に囲まれてたら気になるのが母親ってものじゃない」
「やっぱり様子見してたんじゃないか、人が悪い。第一、ただのクラスメイトだよ、特に可愛い訳でもないし」
「あらそうかしら。可愛い子たちだと思うんだけど」
「あんなの普通でしょ。可愛いってのはもっと――」

 そこでいつもの夢のあの女の子の顔が浮かんで、だけど説明もできないから僕は口を噤んだ。

「息子がモテるのは母親としてはなかなか誇らしいんだけど、ジンはもう少し女の子に優しくしてあげてもいいと思うのよ? まぁ、気持ちがないのに気を持たせるのも良くないかもだけど、お断りするにも言い方ってものがあるんじゃないかしら」
 一緒に父が待つ車に向かいながら、母がやんわり嗜める。僕らの母は年齢的にもかなり若いけど、それ以上に若く見え、並んでいるとよく年の離れた姉かと間違われる。外見だけじゃなく、中身も時々子供っぽいと言うか、むしろ見た目は楚々として見えるのに反してかなり気さくで、情熱的で、大人なんだけど可愛さを持った人だ。息子達が少々反抗期でもめげずに構ってくるし、逆にこちらも無視できない。なんというか、彼女は僕らをうまくあしらう術を心得てる、そんな気がする。父親なんか典型で、大きな息子が三人もいると言うのに未だに母さん一筋、母の言う事は絶対だ。かく言う僕も、多分兄達も、母には逆らえないし、なんだかんだ言って母さんが大好きだったりする。恥ずかしいから言わないけど。
 僕はそんな母から少し顔を逸らした。女の子に冷たいとか、悪印象をもたれたかなと思うと流石にちょっと気まずい。母の前ではいい子でいたかったのにと悔やむ気持ち半分、見られたくないような場面を見られた後ろ暗さで意固地になってる部分半分で、僕は拗ねるように口を尖らせた。

「別にモテるとかないし。女子ってよく判んないし、第一面倒くさい」
「こないだのバレンタインの時もそんな事言ってたわよね。下手するとお兄ちゃん達より多く貰ってくる癖に、数を自慢するでもないし」
「あれは男子の手前、断るよりもらっとく方が穏便にすむから仕方なく……それに女子って結局お返し目当てじゃないか。そういう鬱陶しいの、ホントは考えるのも嫌なんだよ。どっちが多いかで自慢しあう兄貴らの気持ちが判んないね」
「あらあら。そんな事言ってると、ホントに女の子寄りつかなくなっちゃうわよ? 勿体ない。折角ハンサムに生まれてきたんだから活かさないと!」
「外見で寄ってこられても嬉しくないし、意味ないよ。今日の女子だって、ろくに話した事もなかったんだ、仕方ないじゃないか」
「あら、話したことなくたって、気になっちゃうこともあるものよ。特にうちの息子達は美形揃いだし、粉かけてくる女の子たち見る目あると思うわ! まあ、三人とも見た目だけじゃなく中身もいい子ばかりだから、その辺も知ってくれるとなおいいんだけど、そういうの後からでもお互いちゃんと判ってくるものよ。だって父さんがそうだったもの」
「? 父さんが見た目で母さんを好きになったって、そういう話?」
「逆、逆。母さんが父さんを一目見た瞬間に恋に落ちたの」
「え、嘘、マジで!?」

 意外な事を聞いたと、僕は母を凝視した。僕らの父親の、母さん好きっぷりはちょっと他人が見たら引くレベルなので、てっきり父の方が先に母に惚れ込んで告白でもしたのだと思い込んでいたのだ。なんとなれば、母はかなりな美人で、今もそうだけど昔は更にモテたと聞いている。というのも、今でこそ一線は退いてるけど、結婚する前は女優もこなす売れっ子アイドルとして広く知られていたらしいのだ。ファンも多かったと言う。父もその一人だったと聞いてたのだが……

「マジマジ大マジ。あら、言わなかったかしらね? 昔、母さんが乗ってた移動の車が接触事故に巻き込まれてね。その時、対向車に乗ってた父さんの車も巻き添えくっちゃったの。母さん達はたいした怪我もなかったんだけど、父さんはそれで怪我してひと月ほど入院する事になってしまったのね。それで後から謝罪も兼ねてお見舞い行ったんだけど、その時にね。一目見て、きゅん、ってきたの。あ、私この人と結婚するかも……って」
「それって一目惚れなの? それとも予感なの?」
「うーん、どっちも? 兎も角それで、父さんのこと気になって、お忍びで何度もお見舞い行くようになって、退院する頃にはすっかり仲良くなれたって訳。実は父さんの方は最初から母さんのこと知っててくれて、熱烈なファンだったけど、逆に信じられなくて言い出せなかったって、後から聞いたんだけど……」
「結局父さんも最初から好きだったんじゃないのそれ。ハイハイ御馳走様」

 僕は呆れ半分に足を速めた。親の惚気話とか、聞いてる方が恥ずかしい。母が、そんな僕を小走りで追う。

「そういうけど、一目惚れって結構バカにならないものよ? 好みのタイプっていうのは一種の運命かもしれないじゃない。ジンは、今まで全くいなかったの? 見た目だけでも気になる女の子。たとえ話した事がなくっても、その人のこと知らなくても」
「そんなの――」