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今吉探偵と伊月助手の華麗なる冒険。前篇。

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「あら、お客さんとは聞いていたけど、こんな美人なお客さんとは思わなかったーぁ!村長さんちに泊まってるって?好きな食べ物ある?」
「おばさんらが作って持っていくわよー!」
「月ちゃんの好きな食べもんは珈琲をゼラチンで固めたやつや。出来たらワシにも分けてんかぁ。」
子供の玩具から奥様方のアイドルに進化した伊月の肩を、極々自然に抱いたのは今吉だ。因みにゼラチンはおろか天草すらこんな山奥で簡単に手に入るとは思わない。つまりは軽い牽制だ。田舎では夜這いの文化だって健在なのだ。
「でな、噂は聞いてはると思うんよ。この村で起こってる『神隠し』について、ワシら調べとる。情報あったら、ワシか月ちゃんまで。」
「あ、若造ですけど解決の糸口掴んで見せますんで。」
お願いします、と綺麗にお辞儀をした伊月に女性たちは少し声を潜めて。
「あのねぇ、あそこのはずれのおうち、お婆さんが一人で住んでるの。そこの娘さんが確か二人目・・・。」
「一人目は・・・?」
情報が入った、と今吉が肩を叩く合図でしゃんと背筋を伸ばし、事務所で接客対応するように伊月の雰囲気が変わる。なまじ顔が整っているだけ、表情に浮かんだ怒りや悲しみはうつくしい。
「それが・・・。」
「村長さんちのお女中さんの。」
「・・・さよですか・・・。」
うむと少しだけ唸った今吉は、後ろ頭を掻いて、中折れ帽を被り直した。おおきに、とそのまま背を向けて歩き出す。
「あ、ありがとうございました!」
一見置いて行かれたようにも見えたが、今吉が伊月を助手として手元に置く理由はこれが大きい。慌てて礼を述べ、頭を下げ、それでも普通なら視界から消えたはずの今吉の気配を正確に追ってくる。英語が堪能な後輩からは、イーグルアイなんて呼ばれている、視野の広さだ。物事を俯瞰図で見ることが出来る、眼も頭も良くて初めて完成する常人が持たぬ特技の一つだ。
「お女中さん、確か玄関先で挨拶だけしましたね。」
極めてこの記憶力。ただの医者にしてしまうのは勿体ないと今吉は常々思う。
「ただ今帰らせて貰いましたー。」
がらりと玄関の引き戸を開けば、転がるように家主が駆けてきた。
「何かありましたか?」
慌てて伊月が飛び出したが、村長は安堵したようにほっと笑い、いえいえ、と首を振った。
「無事帰られて何よりです。食事と風呂の用意をさせましょう。お荷物は運ばせましたので。」
「えらい面倒かけますよってに、すいません。」
今吉は苦笑を浮かべ、安心させるように伊月の肩を優しく撫ぜた。
「あの、それからお女中さんのお話を聞かせていただきたいんですけど・・・。」
ああ、と呻くような返答に二人で眉を寄せる。
「あれは・・・子が消えてから・・・声が出ないのです・・・。」
「え・・・?」
「子供がいなくなったショックだと我々は思っておりますが・・・。」
夕食は素朴ながらも味わい深い山の幸で、女中が作ってくれた薇の煮物が旨かった。渦中の女中はやはり一切の口も利かずに二人の身の周りを細々と世話して、夜食に握り飯まで用意して貰って、用意された広い部屋は蚊帳の中に布団が二組延べられてあった。
「あの、少しいいですか?」
案内してくれた女中を伊月は明るい場所に手招いて、失礼しますと前置き、正座して向かい合い、脈を図る。少し考え込むような仕草を見せてから顎を上げさせて、口をあけて下さい、息を吐いてみてください、と幾つか試した。十分な設備がない以上、医大生の知識と勘による診断になるが、おそらくは心因性の失語症だろう、と雇い主には告げておいた。
それぞれ寝巻に浴衣は持参しており、今吉が風呂に行った間に伊月は今日の情報を整頓する。村の簡易地図も貰って、そこから自分でもう一枚を書き上げた。その日の記憶を紙面に昇華させて息を吐く頃、今吉が帰ってきた。
「まとめて置きました。いなくなった子供の名簿と地図と、はずれのお婆さんの家は明日でも行きましょうか。」
「おおきに、月ちゃん。」
電球の下でもさらさらと耀く黒髪を梳いてやると、撫でられる猫のようにこてんと簡単に首筋を晒す助手は、顔に出ないだけで随分と疲れているらしい。物怖じはしないがどちらかといえば人見知りなほうである。綺麗に綴られた文字を読み込みながら、首にかかった手拭いを引かれた。
「なんや。甘えたやな。」
「違います。」
手拭いをそのままかぶせられ、繊細で器用な指先が水気を払っていく。ブリッジを摘まんで眼鏡を抜き取り、眼鏡拭きでこちらも丁寧に拭ってくれる。なんだか手持ち無沙汰な今吉の腕はそのまま伊月の腰を囲って、そうっと胡坐の上に抱き寄せる。
「俊。」
ふに、と眉間に触れるやわらかさにぱちりと瞬いて、頬に口づけを返す。瞼に、口の端に、頤に、啄むように触れる唇を、捕まえたのは伊月のほうだ。
「っ、ん。」
甘ったるく鼻から抜けた声に、ぎゅっと肩に縋ってきた指先を今吉は捕まえる。指と指を絡めて、その甲で頬を撫ぜて、上顎を舐めると伊月はいつも肩を竦める。歯を一本一本嬲られるように舐め啜られて、ひ、と若い喉が啼く。
「・・・ふ、は。」
「はい、おしまい。お風呂入っておいで。」
腰抜けてへんよな?なんて軽口をくれる口の端にちゅっと音を立てて伊月は預けていた体を起こし、ねむい、とひとつ呟いた。
「きれぇに洗っておいでな?」
にんまりと笑った今吉の、意味深な言葉の響きに意識を覚醒させられ、伊月は耳まで真っ赤になった。
「なっ、しょー、・・・っもう!」
「解剖の実習あったんやろ?無理さしてごめんな。」
「え・・・っと、はい。とんでもないです。でも・・・。」
急に真摯に返した今吉の言葉に、伊月は切れ長のうつくしい扇形の睫毛を上下させた。確かに講義その他が終わって事務所に呼ばれて直行して夕方出発で到着がこの昼だ。
「なん、で?解剖・・・?言いましたっけ、俺?」
「爪の甘皮が若干白ぅなっとる。長時間消毒液に手ぇつっこんどった証拠や。綺麗に洗っておいでな。月ちゃんが真っ白なんと肌が真っ白なんは違うさかい。」
な、と念を押すような響きに、伊月は眉尻を下げて、ふにゃりと笑った。
二つ延べられてあった布団の距離を無くして、一つの掛布団の中でひっそりと足を絡めて頭を抱いて、お互いの香りで脳が解けそうになるまで触れ合った深夜、ふと歌声が聞こえて今吉は意識が覚醒する音を聞く。
腕の中には寝息も静かに、少しだけ泣いた目元は赤いが安く眠る情人がいて、今吉は視線を動かさないまま、歌を聴く。
かーごーめーかーごーめー
かーごのなーかのとーりぃわー
いーつーいーつーでーやぁるー
よーあーけーのーばーんーにー
つーるとかーめがすーぅべったー
うしろのしょうめん
「誰やろなぁ。」
キンッと金属音が立て続けに被さる様に三回。枕の下に潜めてあった節昆は一気に組み上がり、空気を裂いた。組み上がった拍子に先から刃物が出て薙刀のような格好になるそれは、蚊帳を、障子を、斜めに一閃、斬り破った。
「・・・月ちゃん、起きとる?」
「こんな時間に遊ばないでしょう、流石に子供も神隠しについては恐れていますし。」
ころん、と今吉の懐から転がり出た伊月はそのまま、凝視っと障子の向こうを観る。気配は無い。しかし。
「危なかったですね、仕込んでなかったら。」