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今吉探偵と伊月助手の華麗なる冒険。後篇。

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えっと、と一度彼は言い淀んだ。
「あの、神隠し、あったじゃないですか。でも、ひとって消えるものじゃないから、誰かに連れ去られたりしてたんじゃないのかって勝手に思ってまして・・・。」
だから、子供たちが来るときはなるべく何人かで、帰る時も一緒に、と言い聞かせていたらしい。今吉は、ええ判断や、と頷いた。
「それで、今日は彼女が迎えに来てくれて・・・。」
「詰んだな。姉さん。ガキどこやった。」
き、っと今吉の鋭い眼光に女は首を横に振る。
「あなたまさか!」
母親の糾弾の口調に彼女は逃げ出した。
「月ちゃん!」
「解ってます!」
ガン、と扉が開く限界に体当たりするように押し開き、集まりつつあった村人に視線もくれず、最短距離で前に回り込む。抵抗に伸ばされた手首を捕まえ、回り込んで肘を固める。
「無実だと、晴れるまでは、ごめんなさい。」
すとん、と首筋に手刀を打ち来むとそのまま崩れた。
「翔一さん、すいません、靴下さい。おもっきし石踏んだー・・・。」
状況を把握したらしい村人の幾人かが女を抱え上げて玄関のほうへ連れて行く。靴を持ってきてくれた先生に頭を下げて、覚束ない足取りで今吉の隣に戻ってくる。
「探しますか。」
「見取り図は出来とるか?」
「屋根裏がまだです。」
「わかった。屋根裏はワシが上がる。月ちゃんは一回靴下脱ぎ。」
「あっちゃ・・・。」
真っ白だったはずの靴下は土や埃で汚れ、右足は真っ赤に滲んでいた。石を踏んだ際に切ったのだろう。今吉が持ってきてくれた鞄の中から救急道具を取り出して、慣れた手つきで、井戸水を少し汲んでもらって傷口付近を洗浄。アルコールで案外深い傷口の消毒。抗生物質を塗ったくったガーゼを当てて、包帯で固定した。
「歩けるか。」
「全力疾走が無理なくらいですか。うああ日向とカントクに怒られる!!」
一瞬恐慌状態に陥ったが、すぐに立て直して、何人かにも手伝って貰ってすべての部屋と押入れは勿論、納戸から隠しから全てを開け放ったが何も出てこなかった。
「翔一さーん、大丈夫ですかー?」
屋根裏を這いずっている気配に呼びかけたら、ぱかっと天井が開いた。
「あかんな、ここちゃうわ。」
するんと顔を出し、梯子をと慌てた先生に、ええよええよと笑ったかと思えばそのまま天井に手を掛けてひょいっと身軽に降りてきた。単も袴も埃や蜘蛛の巣がひっついて、ばっさーと箒で払えば、月ちゃん酷い!なんて泣き真似が来た。イラッときたので顔も掃いておいた。
「一回顔洗うわ。あのねぇちゃんの行動範囲とパターン洗い直しな。」
「どうぞ。」
「おおきに。」
そこに女性の悲鳴が飛び込んできて、伊月と先生以外が咄嗟にその方向に走り出す。
「その足、どうなさったんです?」
「南方で、撃たれました。」
「それはご苦労を。」
そんな遣り取りをしながら、辿りついたのは勝手口を背後に控えた炊事場だ。とても見覚えのある包丁に、うわぁ、と伊月は感嘆した。
「ワシらが来た初日に牽制しにかかってたんかいな。自分憧れるくらいに狂っとるで。」
今吉も聊か呆れ気味にそう評し、キンッと金属音を三回。
「月ちゃん、持っとき。」
「防弾チョッキ着てます?」
「着てるよー。」
「対抗できる刃物はあります?」
「しころくらいはどこぞに仕込んどるわ、心配すな、阿呆。」
「はい、ばかの心配するだけ無駄ってことで。」
足元が弱くなっている伊月にリーチを持たせ、今吉はすっと両手を掲げて女に近づく。じりじりと突き付けられた刃先が鼻先に近づく。
「ガキらどこや?」
ぶるぶると切っ先が震えるのを眼前に、今吉は一切怯まず、淡々と問いかける。
「あんさんが今までで隠したんは今夜の発覚合わせて九人か。」
その唇の動きは、ちがう、と言った。声なき叫びを今吉は冷静に聞いている。
「自分の子は違うんか。」
「翔一さん!!」
伊月の鋭い声音が飛んだのは切っ先が振り回される直前だ。危機感がじわじわと背筋を焼いてくる。戦慄っとするほどに鋭く磨き上げられた包丁は幾度も空を切り、今吉は二歩下がる。腰板の裏にあった折りたたみ式ナイフを指先に引っ掛ける。伊月が周りに危険を知らせて下がらせる。
「―。」
声にならない声が叫ぶ。もう何を言っているのか、上手く読み取れないほど取り乱し、細い叫びが徐々に形になる。
かーごーめーかーごーめー
かーごのなーかのとーりぃわー
いーつーいーつーでーやぁるー
よーあーけーのーばーんーにー
つーるとかーめがすーぅべったー
うしろのしょうめん
「だーぁーれーぇー。」
そして彼女は切っ先を、自分の喉に減り込ませた。弾かせようと伊月は柄を回したが、一瞬遅かった。真っ赤な血を今吉は正面から浴び、倒れ行く体が痙攣し、土間に転がり、血液とリンパ液をまき散らし、瞼は中途半端に閉じられた。
「死んだか。」
眼鏡を外して袖を回し無事な部分で血を拭う。随分と至近距離から浴びた血液は、焼けるくらいに熱かった。
「死んで・・・ます、ね。」
脈を見て、瞼をきちんと閉じてやって、伊月は手を合わせて顔を伏せる。あと一瞬で間に合ったのに。悔しくて顔が上げられない。子供を失った悲劇は本人には如何程だろう。聞きたかったし助けたかった。
「そん、な・・・。」
「子供たちは・・・?」
「っ!」
「そうやなぁ・・・どこから探すか・・・山狩りは終わってんの?」
そうだ、まだ終わってない。終わってない。
ぎゅ、と唇を噛みしめる。急に右足の痛みが込み上げてきたので、頭が冷えたことを自覚する。
「翔一さん、鞄はありました?子供の。」
「鞄?どんなんや。」
「えっと、ああ、今お母様が着てらっしゃる着物と同じ柄ですね。」
「あっ、そうです!これの余布で作ってやったもので・・・。」
「中身は硯と筆と墨でした。俺の記憶が正しければ。」
「月ちゃんの記憶が間違うとるとこ一回見てみたいで、ワシは。」
月ちゃんはどない、と問いかけられるような視線を向けられて。
「複数犯の可能性は消えていません。売られた可能性は消えました。」
「なしてそない思う?」
「人身売買十歳前後性別問わずの相場の場合、女中などせずに生きていける。だから売られた可能性は無い。けれど、他の家に押し込んだ可能性はある。」
「はずれの婆の家か!?」
と勇んだ男には首を振る。
「あまりにも『らしすぎる』。それからあのひとは、本当に子供を喪った顔をしていました。」
おおい、と勝手口から飛び込んだ声に振り返ると、そこには件の鞄を持つ村の若者が駆けこんできた。
「その鞄!!」
パニックを起こしたように母親はそれに縋る。
「どこにあった!」
「山ン田から降りた茂みだ!」
「イサカの前か!」
歓声のように声が飛び交って、歓声も上がる。ある程度理解できるのだが、途中で固有名詞ばかりが飛び出して伊月は思わず、はぁ?と口にした。今吉もぽかんとその歓声を眺めていたが、先生が一つ咳払いをして。
「山ン田というのは、そのまま、山側にある田圃です。ほら、トンネルのほうに向かって棚田がある。イサカさんはその麓にあるお家の屋号ですよ。」
「あ、どうも。」
「トンネルのほう・・・家・・・?」