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機動戦士ガンダム IFU 第一章

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第一章 第一話「そして戦争は新たな兵器を生む」



 高速戦闘空母『トルゼス』は、ユーラシアの誇る最新鋭の高速戦闘空母だ。部類名の通り、高速航行の可能な、高い戦闘力を持つ空母である。そのトルゼス内の士官用の居住室内にて、ウル・ダガール隊長は、作戦開始目的地への到着を一人、静かに待っていた。
「彼を頼む・・・か」ウルは、電話越しの相手の必死な台詞を呟いた。
―――シュン・アラク。ビリアス軍の極秘計画である『MS計画』で開発された新型機動兵器『MSGM』のパイロットに選ばれた精鋭の一人。偶然にも、こちらの作戦実行日である今日、敵本部に赴くパイロットは彼を含めたったの二人であるらしい。これは『彼女』の差し金なのか、それとも運命の導きという奴なのだろうか。ふと壁に掛かっている時計に目をやる。まもなく目的地への到着予定時刻だ。 
「まぁ、どうでも良い事か・・・私はただこの依頼を遂行すればいい。」
 ウルは顔の約半分を覆う程の大きさの仮面を手に取り、居住室を後にした。








「チャンっ!ちょっと、ちょっとまって!まだ召集掛かって無いんだからっ。ちょっとゆっくりしようって!」
 人混みの中、親友の背中を追いかける少年シュン・アラクは必死だった。
「良いじゃないか!ちょっと位走ったってさぁ。」チャン・フォルンは必死に追ってくるシュンにおどけてみせる。
 ビリアス民主主義共和国本国は、今日も平和だ。周りが戦火に包まれる中、本国だけはゆったりと時間が流れている。仕事のために速歩きで歩く会社員、子供連れの親、カップル等が辺りを行き交う、まるで絵に描いた様な光景が広がっている。
―――だが、この平和な光景はずっと続いていた訳では無い。『ビリアスの悲劇』によって一度本国は焼かれている。

《我々は忘れてはならないのです・・・『ビリアスの悲劇』を!》

 シュンがビルに埋め込まれている大型液晶の前で立ち止まる。

「ん・・・またこの放送か。」チャンもそこに戻りながら行った。

「うん。何だか・・・もう、うんざりだよ。」シュンは呆れ顔をしてみせた。

「まぁな。こういうのばっかりなのもどうかと思うな。」チャンが鞄の荷物をいじりながら言う。
 シュンは一つため息をついた後に言った。「憎しみはまた新たに憎しみを生んでしまうだけなんだよ。だから憎しみで何時までも訴えていても仕方ないし・・・こんなんじゃきりが無くなっちゃう。」
「だな・・・」チャンもため息をつく。「いずれ何でこの戦争をしているのかさえ解らなくなってしまいかねない。国のトップがこんなんじゃ・・・どうなっちゃうんだかな・・・。」
 この言葉にシュンは少し神妙な面持ちになった。チャンは彼のその様子を見て苦笑を浮かべた。そして先程の言葉に付け加える。「俺らはただの軍人。そういういざこざの事まで考えてちゃ身がもたねぇぞ?」
 シュンの表情は変わらない。
「でも、やっぱりこれは危ないよな。国外逃亡でも考えとく?」
「気楽でいいね。チャンは。」ようやくシュンは、微笑を浮かべた。
「何だよそれ。」チャンが笑いながら返す。ふと、彼はある事を思い出した。
「なぁ、今日は、お前の兄さんの命日・・・だよな。」
 シュンは苦笑する。
「うん。」
「良いのか?・・・墓・・・」
 チャンはシュンの様子を窺いながら、言葉を選びつつ聞いた。
「・・・行くつもりだよ。隊長に挨拶を終えたら、ね。」
 シュンはそんな親友に笑いかける。だが、その笑顔には少し悲しみの色がある。
「そう・・・か。」
 チャンは複雑な表情を浮かべた。聞かなければ良かった・・・シュンの心の負担を増やしてどうする――と彼は思った。
 その時、突如として警報が鳴り響いた。

《ユーラシア艦隊、我が国の領海に急接近!》

「?!」それまで街行く人達で賑わっていた通りが一瞬にして静まり返る。そして、一拍置いて辺りは混乱に包まれた。
「冗談じゃ無い!『ビリアスの悲劇』を繰り返す気なのか?!ユーラシアはっ!」シュンは思わず叫んでしまった。
《我が軍はこれに対し第二級体制を取る!我が軍の軍人は配属場所に急行せよ!民間人は即座に港地域より退避せよ!》
「正式配属早々大仕事っぽいな。嬉しいこった。」チャンは軽く皮肉を言いながらも、走りやすいようにショルダーストラップの長さを短くした。「さぁ、行くか。」
 シュンが答える「うん。行こう!」

 二人は駆け出した。