機動戦士ガンダム IFU 第一章
「なるほどな。」しばらく、アデス隊配属の命を受けて司令室にやってきたシュンと言葉を交わしていたアデスだったが、彼は意外に思っていた。軍事学校のエリートというのだから、融通の利かない堅苦しい奴が来るのだろうと思っていたのだが、全く持ってその印象が彼には無かったのである。むしろ逆と言える。
ふと、ある事にアデスは気づいた。「そういえばもう一人、チャン・フォルンはどうしたのかね?」
するとシュンは、「そうだった」と言わんばかりにはっとした表情を見せた。「実は、チャン・・・途中ですっ転んじゃって・・・今病室で手当て受けてます。もう少ししたら来るはずです。」
「あぁ・・・そうか・・・。」アデスは苦笑した。「先が思いやられるな・・・。」
「作戦チーム(強奪作戦チーム)は出発したか?!」
「はい!先程発進を確認しました!」
フルデック戦闘機部隊は陽動としてビリアス軍本部への攻撃を続けている。
「目的地への到達予想時間は?!」
「残り五分です!」
「よし…三分後に全機、現戦闘空域より離脱し帰艦だ!」
「了解!」リーフ・フルデック隊長の指示によりそれまで編隊を組んでいた戦闘機がバラける。
「残り三分・・・全力で行くぞ!」
「司令っ!!」士官が大きな声で呼んだ。
「何だ!」アデスが答える。
「敵が西より侵入!防備が薄くなった所を突かれました!敵の妨害電波により詳細な情報は掴めませんが、戦闘機十五機程度の編隊で、小型の輸送機らしき機影も一機捉えられています!」
「輸送機だぁ?!」アデスは驚いた。「敵目的地の想定は?!」
「まさかとは思いましたが、『MS』倉庫です!その近辺に他の施設は存在しておらず、倉庫としか考えられません!」
「我が軍の機密性は一体どれだけ低いんだっ!!今までもどれだけ情報が漏れた事か!!」大声で怒鳴ったアデスはシュンの腕を掴んで立たせた。「予定がかなり早まったが来てくれ。」
「な、何ですか?」アデスの威圧感にシュンは少したじろいだ。
「お前は俺の隊に何をしにきた?!」
「あっ・・・了解しました!」このシュンの返答にアデスは今までの怒りを殆ど吸い取られてしまった。
「『あっ・・・』って・・・お前なぁ・・・まぁいい。行くぞ。」
二人は司令室を出た。
「近くに敵の反応はあるか?」ウルがパイロットに確認をとらせる。
「いいえ!レーダーに反応はありません!」
「フルデック隊の陽動は上手くいっている様だな。」ウルは席を作戦メンバーの方へと向けた。「残り二分で目標地点にたどり着く。陽動は上手くいっている様だが、楽々と降下が出来るとは思えまい。各員、気を引き締める様に。二十秒後に降下準備だ。いいな?!」
「はっ!」メンバーが一糸乱れぬ敬礼をした。
「あの、先生。」チャンは足の感覚を確かめながら、病室内で軽くスクワットをしている。少々面白い光景である。「ほらもう大丈夫ですから、行かせてください。ね?後一五回くらい(スクワット)したら・・・」
「駄目だ。もう少しゆっくりしておきなさい。」先生と呼ばれた医師はきっぱりとチャンの提案を却下する。「ほら、スクワットも止めてそこの椅子にでも座ってなさい。麻酔でも打って寝かせてあげようか?」
「いや・・・それは?!」
「嫌なら座りなさい。」医師のとどめの一言に、チャンはスクワットを止めて渋々と椅子に座った。「・・・すいません。」
“外は戦闘だってのに・・・シュン、大丈夫かなぁ・・・”
兵士二人は、アデスが合図をしたのを確認すると、カードキーを取り出して、倉庫の扉のロックを解除した。
「ご苦労。」アデスはそう言いながら倉庫へと入っていく。兵士が敬礼をする。シュンはこれに敬礼を返しながらアデスの後に続く。
「ここは・・・何ですか?」シュンが問いかける。
「『MS』の第一倉庫だ。・・・そうか、お前は倉庫に来るのは初めてか。」アデスはそう言うと、エレベーターの方へとシュンを誘導し、乗った。シュンもそれに続けて乗る。
「極秘裏に進めてきた計画だったんだがな。」
「それが、漏れていたって事ですか・・・?」
「うむ。どうやらそうらしいな。」アデスは深いため息をついた。
「スパイ・・・ですかね・・・?」
アデスは苦笑した。「そう思いたいな。『極秘情報をスパイ無しに掴んだ』なんて事があったりしたなら、この国は終わりだ。」
「でも・・・どちらにしても、これって相当危険な状況ですよね・・・」
「まぁな。」
エレベーターが目的の階に到着し、ドアが開いた。
「これ・・・が、『MS』・・・」
シュンは目の前に現れた新兵器に言葉を失った。シミュレーターによる訓練はしていたが、実物を見るのは初めてだった。
まるで神の意思によって現世に現れた騎士の様なその機体、シュンはただ圧倒させられるしか無かった。
「この機体をお前に託す。」
アデスが言った。
「この『MSGM』・・・いや、
『インフィニティガンダム』が、お前の乗機だ。」
作品名:機動戦士ガンダム IFU 第一章 作家名:ネクス