二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ライフゴーズオン

INDEX|7ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

つ・き・あ・い・た・い


壊滅とも言えるほどの被害だった本能字学園の校舎の中で奇跡的に無傷だった視聴覚室には、風紀委員長の蟇郡苛、運動部統括委員長の猿投山渦がいた。
「俺に相談たぁどういう風の吹き回しだ? 珍しいこともあるもんだぜ」
猿投山の言葉に口をなかなか開こうとしない蟇郡だったが、ようやく重い口を開いた。
「女子に交際を申し込んで成立するには、どうしたらよいのかわからなくて、聞きたいと思ったのだ」
たっぷりの間をおいて、猿投山は呆れ顔で蟇郡を見上げた。
「はぁ? 自慢じゃねえが生まれてこの方喧嘩ケンカで、申し込むったら果たし合いぐらいの俺にする質問じゃねえな。人選ミスだ。蛇崩にでも訊いた方がよっぽど正解に近いだろうよ」
「あの女は、絶対からかってくるから駄目だ。犬牟田も同じ理由で却下。となると義理人情に厚い貴様しか思い浮かばなかったのだ」
「でもなあ、俺だって女いたことなんてないもんな」
溜息をついた猿投山の前方から不意に声がした。
「あらぁ、せっかくのご指名なのにサルくんってばつれないのねえ」
さっきまでは影も形もなかったはずの、文化部統括委員長の蛇崩乃音が教壇前で愉快げなニヤニヤ笑いを浮かべていた。
「なっ、蛇崩、貴様いつからそこに」
目に見えて狼狽する蟇郡と感知できなかったことに愕然とする猿投山を見比べた蛇崩は窓の方向に話しかけた。
「イヌくん、実験はどうやら成功みたいよ」
「そのようだね」
蛇崩の視線が示す先、教壇の窓側に位置するコンソールに情報戦略部委員長・犬牟田宝火が突如姿を現した。
「探の装で使っていた光学迷彩と塔首頂上決戦での纏・蛇崩戦で取った鮮血無拍子のデータを併せて光学音響迷彩装置を作ったんだがこれが実験第一号機でね、まさか猿投山まで騙しおおせるとは予想以上過ぎる出来だよ。我ながら恐ろしいね」
「ばっ、お前、油断だ、油断してただけで本来なら絶対に気配でわかったはずだ!」
「第一『纏・蛇崩戦』って言い方が気に入らないわよね。なんであたしの方が後なのよぅ」
「気にするのそこ? まあいいじゃないか、実際我々誰も纏にきちんと勝利を収めてないんだし。ところで本題はどうするんだい、蟇郡」
猿投山と蛇崩を軽くいなした犬牟田に水を向けられた蟇郡はしばし押し黙ったがやがて覚悟を決めたように三人に頭を下げた。
「この通り、女性へ交際を申し込み失敗しない良い方策を教えてくれ」
「方策、ねえ」
犬牟田が肩をすくめて笑うと、蛇崩も同調するようにニヤニヤ笑いを浮かべた。
「どうせ相手はあいつでしょ、劣等生の」
「満艦飾マコ」
「あのちびっこか」
まだ言ってもいないのに三人に相手を認識されていることに蟇郡は浅黒い頬を赤らめた。
「あら、あれだけイチャイチャしといてバレてないとでも思ってたの? ガマくんったら。まあそんなだから相談相手にこの乃音様じゃなくて北関東で竹刀振り回すかこんにゃく芋洗ってるかで恋愛のれの字も縁のない山猿を選ぶなんてミスしちゃうのよ」
「てめえ蛇崩! こんにゃくバカにすんな!」
「バカにしてんのはこんにゃくじゃなくってアンタよ」
「恋愛のれの字もなかったのは事実なんだろう?」
蟇郡の予想通り、蛇崩と犬牟田は人をいいようにからかっている。正確に言えばからかってニヤニヤするのは蛇崩で冷静に人の急所を突くのは犬牟田だ。いずれにせよ矛先が自分に向いたのが猿投山には面白くない。
「だぁからっ、今は蟇郡の話だっつってんだろ。いいじゃねえか白いタキシードでも着て花束抱えて告白すりゃあよ。男なら押しの一手でガツンと言ってやれよ」
「前時代的(アナクロ)だね。今時の女子のデータだと暑苦しいのは嫌われるようだけど?」
教卓裏に引き出されたスクリーンに大映しにされたいくつもの謎の円グラフを元に犬牟田が猿投山の案を否定した。
「あたしもそんなベタな告白されたら地の果てまでドン引きしちゃうわね」
「何、押しの一手ではいかんのか」
ボロボロに言われておかんむりの猿投山と内心同じことを考えていたのか、蟇郡はむむ、とあごに手を当て考え込んだ。
「ただし、あの劣等生にとってはどうかしらね」
蛇崩の言葉に男子三人は意外そうな表情で一斉に彼女を見た。
「あの子に小手先の小細工が通用するとでも思って? スマートとか洗練とかいう言葉とは一ミクロンも縁なさそうだし、喧嘩部の前時代的どころじゃありゃしないあのデザインの極制服を何の恥ずかしげもなく着ちゃうし、頭悪い癖に口先は屁理屈押し通す方向にはよく回るし、けど大事な場面には自分の力不足も顧みないで身体張って命懸けちゃうような子じゃないの。口先で太刀打ちしたりあれこれ回りくどいことするくらいならベタで直球なくらいの方がよっぽど響くんじゃないかしら?」
おお、と男子三人は同時に感嘆した。前半はまるで腐しているような物言いではあるが、先の戦いで自分たちより何もかも劣る無星生徒のはずなのにひたむきな勢いでついてきて、わずかな期間袖を通していた喧嘩部部長制服を纏い善戦していた満艦飾マコを見てきた限りでは蛇崩の意見はもっともであると思える説得力があるものだった。
「この蟇郡苛、お前を誤解していたようだ。すまん蛇崩。恩に着る」
蟇郡が巨体を折り曲げて蛇崩に礼を述べた。いいってことよ、というように蛇崩は手をひらひらさせた。
「ただし、その現場、見物させてもらうわよ。ガマくんが劣等生相手にどんな顔してどんな台詞言うのか興味あるわぁ」
「それはそれは、なかなか興味深いデータが取れそうだ」
人の悪い笑いを浮かべる蛇崩と犬牟田を横目で見ながら猿投山は心底蟇郡に同情した。しかしながら確かにその現場は面白そうだと思う自分の野次馬根性も否定できなかった。
「まあ、せいぜいがんばれよ」
猿投山に背中を叩かれ、先程蛇崩に頭を下げたことを後悔した蟇郡はうむ、と頷いてはみたものの、来たるべきXデーに一抹どころではない不安が満ちているような気さえしていた。

作品名:ライフゴーズオン 作家名:河口