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ライフゴーズオン

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クライマックス


「これより、本能字学園最終卒業式を始めます」
凡田校長のアナウンスが講堂にマイクに乗って響く。式次第が進み始めたその時、学園の校門には白い服の群れがいた。
「神衣無き今、私の、いや羅暁様のお志を阻めるものはない。全校生徒、服の僕になっていただきます」
鳳凰丸礼と一個小隊ほどの人型COVERSが校庭に足を踏み入れた直後、左から連続した銃声が轟き、足元を大きな待ち針型のジャミング弾が縫い止めた。
「お前らの相手は、俺たちだ」
銃声の発信源はミシンガン片手に紫煙をくゆらせながらそう告げた。
「貴様、ヌーディストビーチ!」
「元、だがな。アンコールにお応えして本日限定特別再結成だ」
黄長瀬紡を睨み付ける鳳凰丸の背中に掃除機のような機械音がぶつかった。彼女が振り向いた時には人型COVERSの一体が取り込んだ人間を吸引され、布型へと戻っていた。
「やれやれ、昔から『色男、金と力はなかりけり』と言ってね、あまり力仕事は向いてないんだけどねえ」
急急救命吸引具を小脇に抱えつつも空いた片手で前髪をかき上げそうぼやいたのは美木杉愛九郎。ぼやきながらもスタイリッシュなポーズは忘れない。
「なぜだ、先の戦いでヌーディストビーチは全戦力を使い果たしたはずだ」
「おやおや、有能な元社長秘書の割にリサーチが甘いねえ」
狼狽える鳳凰丸に美木杉は一体一体着実に囚われの人間を吸引しながら一瞥をくれた。
「二つ、いいことを教えてやろう」
黄長瀬はミシンガンを二台の吸引具に持ち替え、COVERSに突進し次々とスピーディに吸引しながら告げた。
「一つ、予備装備をかき集めた上に残った吸引具も総動員だ。この程度の数、雑魚相手なら事足りる。二つ、お前の相手は俺たちではない。俺たちを呼び寄せた女が本命は取っておけとうるさいんでな」
シャキン。
聞いたことのある金属音が鳳凰丸の耳を打った。それはとても大きな鋏の音で。
「卒業式に参列したいのかもしれないが、部外者の参加はご遠慮いただく。姉さんからの伝言だ」
鳳凰丸に突き付けられた紅色の巨大な物体、まぎれもなくそれは断ち斬りバサミ。
「どうしてもってんなら、私が相手だ」
断ち斬りバサミを構えた纏流子が不敵に微笑んだ。不審げな表情で鳳凰丸は首を傾げた。
「今のあなたに何ができるのです。神衣鮮血なき今、断ち斬りバサミがあったとて羅暁様の御意志を受け継ぐこの私を止められるとでも?」
「止めるさ。母さんの影にしがみつくみじめったらしいテメエの息の根をな!」
断ち斬りバサミを構えなおした流子が鳳凰丸に襲い掛かったが、鳳凰丸はすんでのところで身をかわし、直後高くジャンプして流子の後方数メートルの地点に着地した。
「愚かな。羅暁様と最も近しい存在であるはずのあなたがなぜ御遺志を理解なさらない。生命戦維と最も近しい存在のあなたが」
「母さんは原初生命戦維の意思に同調し人間であることを捨てようとした。母さん亡き後生き残っちまったお前は母さんの遺志を継ぐってことに寄りかかって人間を取り込もうとした。あいにくだが私は私だ。自分の考えで動く。卒業式の邪魔はさせねえ。再び人間を服の奴隷になんかしねえ!」
「流子君、気をつけろ!」
美木杉の叫び声が耳に届いた直後、ヌーディストビーチの二人により人間を吸引され活動を停止したはずの布型COVERSが再び人間大になって流子の周囲を取り囲んだ。
「包め」
鳳凰丸の号令と共に一枚の大きな布と化した布型COVERSが流子を全身ぐるぐる巻きにした。
「ふぉんなへが(そんな手が)通じるかぁっ!」
断ち斬りバサミ一閃で頭からつま先まで全身を覆った布を切り刻み、流子は鳳凰丸に襲い掛かった。鳳凰丸は回り込んで飛び退り、上着のポケットから次々布を取り出し投げつける。一瞬で布型COVERSに変形した布たちは次々流子に襲い掛かり、一つまた一つと断ち斬りバサミの餌食になっていった。
「つーかなんで布型COVERSが自在に動けんだよ、こいつら原初生命戦維がなきゃ動けねえんじゃなかったのかよ!」
「原初生命戦維ならありますよ、『ここ』に」
鳳凰丸が自らを指さした。
作品名:ライフゴーズオン 作家名:河口