こらぼでほすと 秘密1
「そういうことなら、三蔵さんに断りは入れておかないと。」
「大丈夫だと思うけど、今日、店で悟浄たちと打ち合わせすればいいじゃん。出勤だろ? 」
「そうだな。」
「リジェネは? 」
「買い物に出た。店で合流するってさ。」
歌姫様との旅行から戻ったリジェネは、相変わらず、寺に居候しているが、最近は一人でも外出するようになった。お仕着せの衣装ばかりではなくて、自分でも選んでみたくなったらしい。
「じゃあ、食って出よう。」
坊主は、仕事の用件で外出して、そのまま店に直行する予定だった。そちらで、本山の出張の話も纏まったらしい。
レイは、ゴールデンウィーク突入と同時にプラントへ戻った。坊主と悟空も、一週間の出張に出た。同じ日程で、オーヴ旅行組も動き出した。今回は、家族旅行だから、親衛隊は付き添わない。だというのに、空港のアライバルゲートには、キサカが待っていた。そして、トダカに携帯端末を渡してくる。繋がっている相手は、この国の国家元首様だ。
「何事ですか? カガリ様。」
「トダカ、あまりに水臭いんじゃないか? 親衛隊の件はいいが、おまえ、船まで民間のチャーターって、どういうことだ? 」
「家族だけですから、大きなものは必要ではありませんし、軍の船を使うわけにもいかないと思いますが? 」
今回は、家族だけだから、と、トダカは宿泊も移動の足も、全て自分で借りたのだが、カガリは、それが気に食わないらしい。とはいうものの、個人旅行に、オーヴ軍の船は借りられないし、宿泊も然りだ。
「私の船があるじゃないか。民間船はキャンセルしておいた。港に、うちの船を何隻か用意させたから、それを使え。ニールは、私のおかんなんだぞ? おかんが娘の船を使うのは当たり前だ。それから、今夜は私も顔を出すからな。勝手にメシを食うなよっっ。わかったな。たまには、娘のもてなしを受けろ。」
言うだけ言うとカガリからの通信は切れた。分刻みのスケジュールの人なので、言いたいことだけ伝えたらしい。はい? と、トダカがキサカに携帯を返すと、細かい説明はしてくれた。
「せっかく、ニール君が来てるんだから、カガリ様も逢いたいんだそうです。申し訳ありませんが、食事だけ家族旅行に混ぜてあげてくれませんか? トダカさん。」
え? 俺? と、ニールがキサカの声に尋ねる。トダカの背後で大人しく待っていたのだが、自分の名前が出ては黙っていられない。
「カガリ様が、娘さんにおもてなしをしたいんだってさ。どうする? 」
カガリの好意は、そういうものだ。ニールが遠征しているなら、カガリも逢いたいのだろう。こちらに戻るなら、カガリのほうで手配なんて簡単に出来る。それを勝手にしたから、カガリは水臭いとトダカを詰ったのだ。
「俺は、構いませんが・・・・なんか、ややこしいこと言ってるんですか? カガリは。」
「いいや、逆だ。私が民間船をチャーターして泊まりも旅館の手配をしたから水臭いっておっしゃったんだ。」
「イヤですよ。別荘で、あんなことなんだから、カガリの家なんて堅苦しくて・・・水臭いって、何言ってるんだか。」
島一個丸ごと所有とかいう、とんでもない資産家だ。本宅なんて、とんでもないことになっているはずだ。そんなところにニールは泊まりたくない。それなら、旅館でのんびりするほうがいい。
「でも、ニール君。きみ、カガリ様のおかんだろ? 娘の本拠地に遊びに来て、娘を無視するのはいかがなものだい? 」
「無視してません。あいつは忙しいだろうから逢えないって思ってただけですよ、キサカさん。・・・・それに、こっちでは、あいつ、仕事の顔しなきゃいけないんだから、俺なんかと顔を合わせるのはマズイでしょ? 」
元テロリストなニールとしては、特区で逢う分にはいいが、本拠地でカガリと会うのは、ちょっと気が退ける。万が一にでも、ニールの素性をチェックされるとカガリのダメージとなるからだ。
「だから、食事だけだ。それから、船はカガリ様の所有のものを使ってくれればいい。表向きには、トダカさんと会うということになるからね。」
「いいんですか? キサカさん。」
「いいも何も、こちらがお願いしている立場だよ。すまないが、カガリ様にも、『吉祥富貴』の日常を味あわさせてやってくれないか? 」
「そういうことなら、いいんじゃね? ねーさん。アスハも、バカ騒ぎでメシ食いたいだけなんだろうし、その代わり、船を貸してくれるっていうならさ。」
カガリの言い分はシンにも理解できる。『吉祥富貴』の日常が遠征しているなら、是非とも味わいたいだろう。そこなら気が抜けて素が晒せるのだから。ストレスフルな日常から一時でも開放されたいというのなら、シンもニールに取り成しぐらいはしてやる。
「・・・いいのかなあ。」
「もう、しょうがないよ、娘さん。カガリ様は、そのつもりみたいだ。離れを借りておいてよかった。」
トダカは、後から合流するアレルヤたちのこともあるので離れを借り切る形にした。そこなら、どれだけ騒いでも周囲に迷惑にならないからだ。ついでとばかりに、キサカはニールに頭を下げた。
「ニール君、カガリ様、寝相はよくないんだよ。すまないな。」
「はあ? 」
「一緒に泊るつもりらしいから。・・・・すまないが、付き合ってくれ。」
「キサカさん? 何、言ってんですか? イヤですよ。メシ食ったら迎えに来てください。カガリは返します。」
「たぶん、帰らないだろう。ラクス様がいいなら、私も、と、叫んでたから。」
ほんと、申し訳ない、と、キサカは頭を下げている。歌姫様が、いつも同衾しているという話を聞いていたから、羨ましくなったらしい。だからって、国家元首と布団を並べるなんてニールはやりたくないので、ぶんぶん頭を横に振っている。
「えーーー僕がママの専用抱き枕なのに。」
「おまえも一緒に寝ればいいじゃん、リジェネ。それで、アスハの乱暴は阻止しろ。」
「あ、なるほど。ママ、僕が同じ布団に入るよ。それなら、カガリは別の布団だ。」
そこじゃありません、と、ニールはリジェネに言うが、これも決定事項だ。どうにも覆るものではないらしい。
まだ、午後の早い時間だ。食事して船に行きましょう、と、キサカが案内を始めてしまう。トダカも、こうなるとしょうがない、と、ニールの腕を掴んだ。
「どうやら、カガリ様は待ってたらしい。諦めよう、娘さん。」
「でも、トダカさん。」
「大丈夫だよ。たぶん、私が予約したところに、事前にセキュリティーチェックはかけられているはずだ。きみのことがバレる心配はない。それに、どうせ、娘さんはクスリで寝るから、いかがわしいことはしないだろ? 」
一応、細胞異常は完治しているが、免疫力やら何やらのクスリは、まだ飲んでいる。その中に、軽い安定剤も入っているから、相変わらず、ニールは布団に入れば速攻で寝てしまう。
「しませんよ。・・・でも・・・」
「くくくく・・・・いいじゃないか。娘が一緒に寝るってだけだ。私と一緒に寝るのと同じことさ。」
言い出したら退かないカガリだ。トダカも、それについては諦めた。どうせ、一日のことだ。カガリも、すぐにスケジュールは空けられない。
「キサカさん、メシって、なに? 」
作品名:こらぼでほすと 秘密1 作家名:篠義