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デキちゃいました!?

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気が付くと、見慣れない天井が視界に映った。
何度か見た事はあるけど、見慣れない天井。
ここはどこだったっけ…?
何だか久し振りにしっかりと眠った気がする。
どれくらいの時間眠っていたのかは解らないけど、少し頭がスッキリしている。
それでもまだ眠気から完全に醒めていない頭で、ここがどこだったか思い出そうとしていたら、直ぐ横で声がした。

「……起きたかよ?」

見慣れない天井からゆっくり視線を落とす。
天井から壁、見慣れない押入れ、そして…これはもう嫌と言うほど見た、金髪頭。
その金髪頭は、俺が寝ている布団のすぐ横に座っていたらしい。

「……シズちゃん…? あれ、ここシズちゃん家…?」
「覚えてねえのか。手前は西口公園の前でいきなり倒れやがったんだよ」

そう言えば、新羅の所から帰ろうと池袋の駅に向った途中で気持ち悪くなって、公園の前で少し休んでて…そこでシズちゃんに会った…ような気がする。
そこで倒れたのか…。
……倒れた?
シズちゃんの言葉に、思考中の頭が止まって真っ白になる。
寝ていた布団から飛び起きて、咄嗟に俺は自分の腹に手を当てていた。
倒れて、どこか打っていたりしてないだろうか。
別に身体はどこも痛くない。
手を当てた腹は、いつもと変わらない平らな腹。
どうなっているのか自分では解らないけど、シズちゃんに聞くわけにもいかない。
一人焦る俺の横で、シズちゃんは怪訝な顔をしていた事だろう。
そんな俺の焦りを感じ取ったのか、シズちゃんが重く口を開いた。

「…新羅呼んだら、手前は絶対安静にしてろとよ」
「……新羅…呼んだの…? 安静って…」

新羅の所で聞いてきた検査結果は夢ではなかったらしい。
何より自分が自分の身体よりも腹を気にしたと言う事実が、そう言っている気がした。
まさかシズちゃんは新羅に何か…、

「…新羅に…何か、聞いた…?」
「…あァ?」

恐る恐るシズちゃんの顔を見る。
もし知っていたら。俺はどんな顔をすれば良いんだろう。
シズちゃんだって、信じられない話でも身に覚えはあるだろうに。
しかしシズちゃんは訳が解らないと言うような、いつもの不機嫌顔。

「何だか知らねえが、新羅の奴血相変えて来やがった。とにかく手前をこのまま寝かせとけって言われたが…手前、そんな具合悪かったのか」

シズちゃんの声はいつもと変わらない。
その不機嫌そうな顔も。
新羅はちゃんと、患者の守秘義務って奴を守ってくれたらしい。
その事に安堵しながら、いつも通りに不機嫌そうでも気遣うような視線を向けて問いかけてくるシズちゃんに、思わず笑いが洩れた。
そうだった、シズちゃんはいつでも本当は優しい。
そう、俺以外には。
「暴力は嫌いだ」と言いながら、沸点が思いっきり低くて、俺にはいつだって喧嘩腰で、本気で殺そうとしてくる。
俺に優しかった事なんて、たぶん今まで一度だってない。
そんなシズちゃんが、俺の身体の事を知ったらどうする?
俺以外には優しいシズちゃん。
そのシズちゃんが、例え嫌ってる俺の身体の中だろうと自分の子供がいると解れば、掌を返したように俺にも優しくなるのかも知れない。
そうだ、シズちゃんの事だから「堕ろすなんて認めねえ。産め」とか言う。絶対に。
そんなのは…許せない。
俺たちはずっと喧嘩し合って殺し合ってきたじゃないか。
それなのに、いきなりそんな風に態度を変えて俺に優しくなるシズちゃんなんて、シズちゃんじゃない。

そんなのは、俺の予想通り過ぎて詰まらない。

何も知らないなら、これからもずっと何も知らなくていい。
そんな簡単な事に、何で気付かなかったんだろう。
本気で考え込んでた自分が馬鹿みたいだ。

「……おい、臨也?」

シズちゃんの声に答えずに一人で笑い出した俺に、シズちゃんは気味悪そうに俺を見る。
ハハッ、と声を上げて一人で笑ってから、俺はもう一度布団に横になった。
今はまだ立ち上がれそうにない。

「…何なんだ、気持ち悪い奴だな…」
「…もう少し休んだら帰るよ」
「…そうかよ…」

布団の中でシズちゃんに背を向けて、俺はまだ肩を震わせて笑いを堪える。
「俺はまた仕事だから、適当に帰れ」とだけ言って、シズちゃんはそのまま部屋から出て行った。
カンカン、とシズちゃんの足音が鉄の階段を下りていく。
直ぐにその音は聞こえなくなった。
そして部屋には静寂が広がる。

…何て俺は馬鹿なんだろう。
今更になって解ってしまったんだ。
本当は優しいシズちゃんも、俺にだけ優しくないシズちゃんも、でも今俺をちょっと心配してくれている所も、街中に捨てないでここへ運んでくれる律儀な所も、何もかも。

――俺はずっと、そんなシズちゃんが好きだったんだ――

「…馬鹿みたいだ…」

今更気付くなんて、本当に馬鹿みたいだ。
クックッと肩を揺らしながら、布団にくるまる。
…シズちゃんの匂いがする。
いつのまにか、笑いは泣き笑いに変わっていた。
作品名:デキちゃいました!? 作家名:瑞樹