遊戯王LS novelist ver.
魔轟神ガルバスの攻撃をなんとか防げば、次のターンでルリーを残したってそんなに痛手にはならなぁい。
……そんな所?」
その読みは図星だ。伏せてあるのは罠カード「くず鉄のかかし」。
このターンの魔轟神ガルバスから受けるダメージは0にできる。そして、200ポイントの攻撃では
こちらのモンスターの攻撃力は抜けない。はずだが……この余裕は何だ?
(いけない、ネロ。気をつけて……)
「え?」
子供の声が響く。いつもより近い。
見渡す。鏡、鏡、鏡。映し出される虚像。揺れる光。ヘレンが、手札に指を掛ける。
「手札から……」
(魔轟神は手札から墓地に捨てることで効果を得る)
「まだ何かあるのか!?」
「魔轟神ミーズトージを墓地に捨てることで、効果を発動! 魔轟神ルリーをチューナーとして扱うわ!」
床から無数の鎖が伸び、魔轟神ルリーに絡みつく。鎖は意思があるかのように四方へうねりながら伸び、
さながら寄生する蔦のように空間を蠢いた。
○魔轟神ミーズトージ
チューナー(効果モンスター)
星2/光属性/悪魔族/攻 400/守 200
このカードを手札から墓地へ送り、自分フィールド上に表側表示で存在する
「魔轟神」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターはフィールド上に表側表示で存在する限りチューナーとして扱う。
「チューナーに変化させるモンスター!? そんなの、聞いたことがないっ」
「どれでもいい訳じゃないわ。魔轟神限定よ。でも、これで星は揃った」
(気をつけて、来る!)
「魔轟神ガルバスを魔轟神ルリーにチューニング。エクストラデッキから魔轟神レイジオンをシンクロ召還!」
魔轟神ルリーに絡み付いていた鎖が魔轟神ガルバスに伸び、
更に地面から何本もの鎖が現れ二体を包んでしまう。
一度収縮し、千切れ飛んだ鉄の中から、漆黒の翼を持つ鎧のモンスターが現れた。
○魔轟神レイジオン
シンクロ・効果モンスター
星5/光属性/悪魔族/攻2300/守1800
「魔轟神」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
自分の手札が1枚以下の場合、このカードがシンクロ召喚に成功した時、
自分の手札が2枚になるまでデッキからカードをドローする事ができる。
「2300……っ」
「シンクロ召還の効果により、私はデッキからカードを一枚ドローして手札を二枚にする。
どうかしら、私のかわいいお人形さんたちは。とってもいい子でしょう?
……カードをもう一枚伏せる。さあ、宜しくて? お嬢様! バトルフェイズに移行!」
へレンが高らかに告げ、無数の文様を刻んだ神が、無慈悲なる一撃を振りかざす。
「行きなさい魔轟神レイジオン! ダイレクトアタック!」
「罠カード発動。くず鉄のかかし!」
がきんと音がして、鼻先寸前でジャンクの十字架が切っ先を防ぐ。空気の振動。
死が近い。と、本能が感じる。
△くず鉄のかかし
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にする。
発動後このカードは墓地に送らず、そのままセットする。
「あら、命拾いしたわね。……私は手札から暗黒界の取引を発動して、カードを一枚ドロー。
さあ、何を捨てようかしら?」
「……っ」
ヘレンの口元が歪む。こちらの反応を楽しんでいるのだ。
□暗黒界の取引
通常魔法
お互いのプレイヤーはデッキからカードを1枚ドローし、
その後手札からカードを1枚捨てる。
「私は魔轟神クシャノを手札から墓地へ送るわ。さあどうぞ、お嬢様」
細い指が優雅に差し出される。どうやら墓地に送り効果を発生させるカードではないようだ。
少し安堵し、アタシはデッキに手を伸ばす。
「ドロー。アタシは……スパークマンを手札から墓地へ捨てる」
「あらあら。せっかく手札に加えたのにもったいないですわね。……私はこれでターンエンド。
そちらの番よ、お嬢様」
「……っ」
途端、嫌な汗がにじんで、呼吸が乱れる。
ソリッドビジョンがある程度の精神的ダメージと、微量の衝撃を与えることは知っている。
だが、違う。たった今感じたこれは……。
「なんだ、この感覚……」
(この空間は、彼女たちによって契約されているんだ……)
耳の奥で不安そうな子供の声が響き、アタシは質問を返す。
「契約? どういうことだよ。あらかじめフィールド魔法が敷いてあるってことか?」
(違う。ここは、闇のデュエル場。キルクスアギトのルールが場を支配してる)
「キルクス……なんだそれ? それよりお前、記憶が戻って……」
(負ければ魂の死。気をつけて。闇のデュエルは、本当の痛みを伴う……)
「なんだって? おい! どういうことだ!」
呼びかけるが、だんだんと声は薄れてゆき、ついにまったく聞こえなくなってしまった。
闇のデュエル? 痛み? 一体あいつは何の話をしているんだ?
「さっきから何をブツブツ言っていますの? ……ターンエンドで宜しいのかしら?」
「うるさい! アタシのターン、ドロー! くそ、どうなってんだよ一体……」
引いたカードはモンスターカード。その姿に、アタシは幾分落ち着きを取り戻す。
「ああ、大丈夫だ。大丈夫。要は勝てばいいんだろう……勝てば! モンスターをセット!」
「あら、今度は随分と弱気ですのねえ」
ストラがくすくすと笑う。応えず、手札からカードを選ぶ。
「カードを二枚伏せてターンエンド。そっちの番だ」
「かしこまりましたわ」
優雅にスカートの裾をつまんでお辞儀をし、ストラがデュエルディスクを構える。
「あは、お嬢様は光属性中心のデッキをお組みでいらして?」
青のガラス球がきらきらと輝いた。獲物をいたぶる残忍な目で。
「……」
アタシは応えずに、その眼を真正面から見返す。逸らせば食い殺されるような気がした。
ストラがにっこりと笑う。
「嬉しい! 私のデッキは闇属性中心ですの。私達きっと楽しいデュエルができそうですわよ!」
どういう風に楽しい、なのか聞きたくもない。
「そっちのヘレンだって光デッキじゃないか。大人しく姉妹で仲良く遊んでろよ」
ぱちぱちと手を叩くわざとらしいストラの喜びように、思わず悪態をつく。途端青の目が凍る。
「嫌ですわ。お姉さまを傷つけるなんてあり得ない。小さな傷ひとつ許さなくてよ。さあ、始めましょう」
変貌振りにぞっとしつつ、身構える。 こちらの視線に気づいたか、ストラは一度顔を上げ、
口の端を上げてにいと笑った。
「私のターン、ドロー。……安心してくださいな、お嬢様。
このデュエルが終わったらお嬢様はじっくり、じっくり時間を掛けて、
傷がないところなんてないくらいにかわいがって差し上げてよ。フィールド魔法発動! ダークゾーン!」
「!」
広間の真ん中を中心に風が吹き荒れ、じわりと闇を広げる。
蝋燭が吹き消され、あまりの風圧に閉じた目を開けると、鏡の間は闇の異界へとその様相を変えていた。
□ダークゾーン
フィールド魔法
全ての闇属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップし、
守備力は400ポイントダウンする。
作品名:遊戯王LS novelist ver. 作家名:麻野あすか