こらぼでほすと 秘密4
もそもそと動いたら、アレルヤが目を開けた。それから、起き上がって挨拶する。
「おはよう、ニール。窮屈じゃなかった? 」
「ああ、ぐっすりだった。カガリは? 」
「となりの部屋に転がしておいたよ。・・・・今日も、いい天気みたいだ。」
そんな話をしていたら、ティエリアも、もぞもぞと動いているし、ティエリアの横に転がっていたリジェネも、うにょうにょと動いている。障子から差し込んでいる光は、とても明るくて晴れているというのがわかる。どっこいせ、と、ニールもティエリアの身体を離して起き上がる。
「今日は、陸地の観光だけど、水着の調達もしなきゃいけないんだって。」
「そうなのか。明日、泳ぐつもりなのかな。」
「うん、天気がいいから泳げるらしいよ。ニールたちも水着はないんでしょ? どっかのショッピングモールに行かないとね。僕らの服も調達したいし。」
アレルヤたちは、合いの服だった。オーヴの気温は、それでは暑いから、少し夏らしい服を調達しなければならない。旅行の荷物は最低限に作ってある。現地の温度と合わせるなら、現地で調達したほうが手っ取り早い。
「俺、本屋にも行きたいな。こっちの料理本が欲しい。」
「それも、ショッピングモールにあるんじゃない? ・・・・ああ、フェルトから差し入れを預かってきたんだ。あっちでフェルトとミレイナが作ったお菓子。」
それほど忙しくないので、フェルトが余暇を利用して、そういうこともしている。実働部隊のティータイムに楽しんでいる簡単なお菓子だが、ニールに渡して欲しい、と、預かってきた。
「女の子らしいことをするようになったなあ。じゃあ、デザートにいただこう。」
アレルヤとニールが、話していると、ようやくティエリアとリジェネも起き出した。同じ遺伝情報搭載のためか、似たような起きかただ。ここには時計がない。陽の加減からして朝という時間だろうぐらいにしか解らないから、とりあえず朝の支度をして居間のほうに顔を出したら、すでに食事にかかっていたらしく、シンが食堂から声をかけてきた。
「おはよー、ねーさん。先に始めてるぜ。」
「あれ? カガリは? 」
「予定があるから出かけた。夜には顔を出すってさ。」
カガリだけは、仕事があるからカガリンラブに起こされて出かけたらしい。ただ、食事はしていったらしく、きちんと一人分の料理はなくなっている。
「メシでいいよな? ねーさんは座れ。」
ニールが用意しようとしたら、先にシンが動き出した。せっかくの休暇なので、できるだけ家事から解放しておきたいからのことだ。
「うわぁ、ほんとにスープになってるよ。」
大きな味噌汁椀のフタを開けて、リジェネが叫んでいる。そこには、前夜、ギチギチと鳴いていたイセエビの頭がどかんと入っていた。
「なるほど、こうやって出汁にするのか。うっかりだったな、うちは棄ててた。」
ニールも、それを観察して、ふんふんと頷いている。以前から、イセエビはカガリから差し入れられていたが、こういう利用方法があるとは知らなくて、そのまま廃棄していたのだ。
「今度からは、こうやって出汁にして三蔵さんにも出してあげればいいさ。これは二日酔いにも効くからねぇ。」
「そりゃいいなあ。トダカさん、終わったなら、コーヒーを淹れましょうか? 」
「だから、動くなって言ってんだろ? 俺がやるから、ねーさんは食え。ほい、メシ。アレルヤ、保温プレートのやつ、適当に配ってくれ。」
「了解。うわぁーだし巻き卵だぁ。おいしそー。」
保温プレートの上には、ほかほかとした出汁巻き卵やら焼き魚なんかが用意されていた。日本の正しい朝食という感じだ。それらを、みんなに配って、いただきます、と、手を合わせる。
「今日は、適当に観光するけど、それでいいかい? 」
「ええ。水着買うんですよね? 俺、本屋にも行きたいんですけど。」
「ショッピングモールなら、本屋も入ってるだろ。ガイドブックかい? ニール。」
「いや、こっちの料理の本が欲しいなって。おいしいので、うちでも作れそうなのはやってみたいんですよ。」
「あはははは・・・・じゃあ、最終日はスーパーにも行かないと。スパイスとか、こっちの独特の食材なんかは手に入らないからさ。」
「そうですね。すいませんが、お願いします。あと、三蔵さんに、こっちのスピリッツも。」
「それは任せてもらおう。私がいいのを用意してあげるよ。」
「ええ、お願いします。昨日、飲んでたの、口当たりが良くておいしかった。」
「こらこら、ねーさん。酒はやめろ。すぐ寝ちまうんだから。・・・とーさん、俺、中華寺院って行った事ないから案内してくれよ。確か、でかいのが都心部にあったよな? 」
「ああ、あれはいいな。変わった寺だから、みんなも珍しいだろう。」
「それは、うちの寺とは違うんですか? トダカさん。」
「ああ、三蔵さんとことは宗派が違うから、全然、装飾やなんかも違うんだ。・・・・ティエリアくんたちは、何か見たいものはあるかな? 」
「俺たちは、まったくオーヴの情報をチェックしていないので、トダカさんのお勧めで結構です。」
ここまでの道程が、かなり強行軍だったので、ゆっくりガイドブックを見ることもなかった。アレルヤたちもティエリアも、オーヴについての情報は、まったく把握できていない状態だ。
「僕、おいしい果物とか食べたいです、トダカさん。そういうのはありますか? 」
「それなら、俺が知ってる。フルーツパーラーってのがあって、そこだと、いろんな果物が食べられるぜ、アレルヤ。」
食事しながら、本日の予定が立てられていく。予定は未定だから、思いついた場所をブラブラするぐらいで、ちょうどいい。
「シン、あのさ。」
ふと、ニールが思い出して声をかけたら、シンは苦笑して頷いた。
「わかってるけど、今回はパス。三月に行ったとこだから、そう度々行かなくてもいいさ。」
慰霊碑のある島へ行かなくていいのか、と、ニールは言いたかったのだが、シンもわかっているから、それに応えた。自分の姉は、そういうことに気がつく人だ。でも、そう年に何度も行かなくていい。きちんと挨拶は、前回にしてある。今回は、遊ぶほうを優先だ。
「アレルヤくん、その頭、中に味噌があるから、分解して、それだけ味噌汁に溶けさせたらおいしいよ? こういうふうに。」
トダカが、ニールの椀からイセエビの頭を取り出して、パカンとふたつに割る。それを再度、椀に戻してイセエビの味噌の部分だけを洗い出す。
「あ、僕のもやって、トダカさん。」
「はいはい、ちょっと待ってなさい、リジェネくん。アレルヤくん、ティエリアくんのは頼む。」
「こんなところにも食べるところがあるんですね。ティエリア、ちょっと貸してね。」
トダカと同じように、アレルヤもイセエビの頭をパカンと割る。はい、どうぞ、と、トダカはニールに椀を渡す。飲んでみると、さらにコクが増した味噌汁になっていた。
「・・・・ほんとだ。おいしい。」
ニールが美味しそうに笑うので、トダカも微笑む。ほんと、うちの子は可愛いとか思っているらしい。
「とーさん、親バカ丸出しだぜ? 」
「いいだろ? おまえも美味しそうに飲んでたじゃないか。」
作品名:こらぼでほすと 秘密4 作家名:篠義