こらぼでほすと 秘密6
砂浜に近付いたら、うわぁーっという光景が広がっていた。すでにタープがいくつも設置されていて人が動いている。もちろん、トダカが侵入する予定の場所の傍だ。その場所には、小型艇やゴムボート、小型のクルーザーなんかは停泊している。そこだけは、かなり砂浜に近い場所まで水深があるからだ。
「上陸艇まで持ち出したのか。・・・やれやれ。」
おそらく荷物を運ぶために上陸艇を出したのだろう。護衛艦が沖合いに停泊していたのは、そのためらしい。
「アレルヤくん、ゴムボートを膨らませて、荷物を積んでくれ。」
「はーい、わかりました。」
こちらも日よけのタープなんかの荷物があるから、それらはゴムボートで運ぶ。こつんと船底が砂に接触したので、そこでトダカはエンジンを止めて錨を下ろす。
「はい、到着。」
「お疲れ様でした、トダカさん。」
「さすが、とーさん。」
「私は、こっちの専門家なんだ。これぐらいは昔取った杵柄さ。」
出発前に、みんな、水着に着替えていたので、腰ぐらいまでの海水なら、どぼんと飛び込んでも問題はない。アレルヤとティエリアは船から浮かべたボートに荷物を下ろして用意した。
そこへ、ボチャボチャと水音がしてトダカーズラブのオーブ組が応援に駆けつけてきた。
「お待ちしておりました、トダカさん。日よけの準備は万端です。」
「護衛艦と上陸艇を持ち出したのは、おまえたちか? 」
「いえ、そちらは、ウヅミーズラブの方です。あちらも軍のレクリエーションだそうで、同じ場所にかち合いまして・・・」
「ということにしたんだな? ・・・・ったく・・・とりあえず日よけを設置してくれないか? あいつらから離れた場所に。」
「了解です。」
全長二キロもあるから、多少の人数が居ても離れれば問題はない。軍のレクリエーションだと言い張られると、叱るわけにもいかない。実際、ここは、そういう目的で使われることが多いのだ。ちらりと、その軍のレクリエーションだと言い張っている面子を確認したら、ウヅミーズラヴ二桁組後半のものたちだ。それなら睨んでおけば、絡んでは来ないだろうと、上陸して、じろりと睨んだ。叱れないなら、別の方法を使うまでだ、と、トダカは笑顔だ。
トダカたちのタープは、百メーターほど離れた場所に設置された。先にトダカーズラブが設置していたものの一部も移動させて、かなり大きな日陰になっている。それだけ離れると、あちらの喧騒まで伝わらない。トダカーズラヴは準備万端に用意してあったのか、ちゃんとテーブルと椅子まで設置されているし、背後には椰子の木陰ができていて、海からは風が吹き抜ける。五月とはいえ、快晴だとかなり暑いが、海風のお陰で暑さは、それほどではない。
「あちらさんに挨拶とかいいんですか? 」
「構いやしない。何かあったら、あっちから言ってくるさ。・・・じゃあ、お弁当でも広げようか。」
「確かに腹減った。結構、時間かかったもんなあ。」
「景勝地を経由したからさ。帰りは直行コースにすれば、二時間ぐらいだ。」
保冷バックに包まれていたのは、なんと四段の大きなお重だ。それに、別にデザートはタッパーがある。後は取り皿だのプラスチックのコップだのが入っていた。飲み物も冷たいコーヒーと麦茶が保温ポットで用意されているという至れり尽くせりなお弁当だった。パカンとお重を開けると、いろんなおかずが詰め込まれた段がふたつ、おにぎりと巻き寿司とおいなりさんの段がふたつだ。ド派手だなあ、と、シンは大喜びしている。
「豪華なお弁当ですねぇ、トダカさん。」
「行楽弁当だと、こんな感じなんだ。さあ、食べようか? 」
トダカの号令で、いただきまーすと声を揃えて手を合わせる。それから、みんなの箸があっちこっちに出る。もちろん、トダカはクーラーボックスから取り出したビールを勝手に飲んでいる。
「きみたちは泳ぐんだろ? 泳ぐならアルコールはやめておきなさい。」
「飲まねぇーよ。自分だけマイアルコール持参してるとか、どんだけ酒好きなんだ? とーさん。」
「これが楽しみなんだから、大目に見てくれ、シン。」
「いや、いいけどさ。」
「このトンカツ、中がほろほろ崩れる。ニール、これ、おいしいよ? 」
「ほんとだな、アレルヤ。これ、煮豚にしてからカツにしてるんだな。マスタードをつけると絶品だ。ティエリア、リジェネ、この黄色いのはピリッと辛いからつけないほうがいい。」
時刻はお昼過ぎなので、きちんと空腹になっている。がつがつと食べるほうに集中すると、あっという間に、お弁当は消費されてしまう。アレルヤが気を利かせて、トダカとニールの分のおにぎりなんかは別の取り皿にキープしておいた。そうでないと、のんびり食べているふたりは食いッぱぐれるからだ。で、途中で、軍のほうから差し入れも届いた。あちらはバーベキューだったらしく、焼きあがった肉や海産物が、大皿に盛り合わせてある。
「となりのよしみで。」
「ありがとう。」
持って来た二桁組後半の面子は、トダカの前で丁寧に挨拶をする。なんか緊張しているのか、乾いた笑顔だ。勝手に現れたことは叱られるかもしれないから低姿勢だ。
「あの、トダカさんのお好きな冷酒なんかも用意しておりますが? お持ちいたしましょうか? 」
「ああ、頂こうか。それから、ビーチチェアを二脚ほど貸してくれないか? 昼寝をする。」
「承知しました。ただいま、用意いたします。」
「娘さん、食後に、おとうさんと昼寝をしよう。海に入るなら、それからだ。」
「そうですね。リジェネ、浮き輪を膨らませてくれるか。」
「はーい。」
頂いたものに手をつけつつ、そんな話をしていたら、ビーチチェアが運ばれて来た。まあ、それはよしとしよう。それから、トダカの好きな冷酒が、きちんと氷で冷やされて運ばれて来た。まあ、これも頼んだから、いい。それからさらに、ニールの前にはトロピカルなカクテルが置かれた。
「・・あの・・・」
「もちろん、ノンアルコールです。」
旅館の弁当のほうは、デザートは果物だったが、水羊羹とか生菓子、ゼリー、アイスクリームなんかも続々と運ばれてくる。アイスクリームは、内臓バッテリーで稼動する小さな冷凍庫に入っている。
「何か召し上がりたいものかあれば、ヘリで運びますが? 」
「いえ、とんでもない。」
「本当にお綺麗ですねぇートダカさんのお嬢さんは。」
「は? 」
さんざんに言われているから慣れているが、それでも見知らぬ相手から、そう言われると、ちょっと気分は複雑だ。なんて返事したらいいですか? と、トダカに視線を投げたら、「うちの娘に話しかけるなど万年単位で早いんじゃないか。」 と、トダカが叱る。
「いえ、素直な感想です。昨年末の忘年会にも参加できず、映像でしか拝見させていただけなかったので、つい、感想が。」
ウヅミーズラブ一桁組、二桁前半組の一部は、トダカが主催した年末の忘年会に参加できたが、二桁後半組ともなると、呼ばれてもいないので出席もできなかった。一応、忘年会の模様は映像で配信はされていたので、ニールの顔も、ばっちり映っていたらしい。
「えーっと、俺、男ですが? 」
「でも、ママは美人さんだから、綺麗って言葉は間違いじゃないよ。」
作品名:こらぼでほすと 秘密6 作家名:篠義