こらぼでほすと 秘密7
「軍に所属してると、こういう遊びはできるぞ? トダカ。」
「はははは・・・もう、乗りたいとは思わないな。・・・さて、獲物は? 」
「ぐふふふふ・・・三十年ものの古酒だ。」
「そりゃいい。じっくりやるなら、こいつは最高だ。・・・時間は?」
「三時間ぐらいは確保した。」
「私が運転手だから帰りも勝手に帰る。」
「下戸は辛いなあ。」
「いやいや、じっくりトダカと話すのは久しぶりだ。・・・うちのが迷惑をかけなかったか? 」
「ああ、盗撮したんでデータは破壊しておいた。軍の艦船を使うな、艦船を。」
「いや、それが他のは出払っててな。まあまあ、そこいらは大目に見てくれ。」
トダカと似た様な年齢の男たちが楽しそうに話しているのは、なかなか壮観だ。みな、それぞれ高い地位にある人たちだが、こういう時に権威を振りかざしたりはしない。ウヅミーズラブは軍人だけではない。各機関に所属する男たちで、程好く日に焼けた精悍な顔ばかりだが、それが一斉にデッキチェアのほうに視線を投げる。
「きみの娘さんは、お昼寝か? 」
「体力がないからね。小一時間は休ませておかないとダメなんだ。近付かないでくれ。よく寝てるから。」
気持ち良さそうな寝顔を眺めてトダカも微笑む。ここまで来られるようになったのだと思うと、とても嬉しい。
「おや、残念。挨拶させてもらおうと思ってたんだがな。」
「というか、顔が融けてるぞ? とんだ親バカになったな? 」
「話には聞いていたが、本当に美人さんだなあ、きみの娘さんは。」
「本当に完治できてよかった。おめでとう、トダカ。」
「というか、きみの行状から推察していたが・・・ほんと、可愛いんだな? 」
一応、ここいらクラスになると、なんとなくニールたちの素性は理解しているし、昨年の騒ぎも知っていて知らぬフリをしていた。トダカの掌中の玉を拉致したので、徹底的にユニオンに報復した、というのは、一部でとっても有名な話だ。割と温厚なトダカがキれる事態というのは、非常に珍しいし怖ろしい。
「可愛くてしょうがないよ。私は、この子の傍に居られる限りは、居てやりたいんだ。だから、復帰は出来ないんだよ。この子、ひとりでは心配でね。」
「結婚してるんだろ? 」
「それでも、亭主と父親じゃ、また甘えるところは違うから。若い頃に両親を亡くして頼るところもなくてさ。だから、これからは頼れるところがたっぷりあると安心させてやりたくてね。」
年齢的な問題はあるが、それ以外の理由で離れるつもりはトダカにもない。精神的に不安定なのは、頼れる場所があれば、なんとかなる。悲しくなったら里帰りして愚痴でも零せばいいし、こうやって一緒に旅行してもいい。そんなふうに安心して受け入れてもらえる場所があるのだと、ニールにずっと示してやりたいと、トダカも考えている。
トダカの言うことに、みんな、軽く瞑目する。一人身のトダカが、そんなふうに考えられる相手ができたことは、とても幸せなことだと感じるからだ。
「いいなあ、可愛い娘がいて。」
「おまえにも居るじゃないか。」
「うちは、もうダメだ。子供が出来て娘じゃなくなった。」
「うちは、連れ子がたくさん居るが、娘のままさ。うちの子、料理は抜群で、家事もできるから、亭主が放さなくて困る。」
「それはキサカからも聞いてる。なんでも、『ダメ人間製造機』らしいな? 」
「あははは・・・そうそう。至れり尽くせりでね。準備が出来たようだ。座ろうか? 」
「とりあえず、その『ダメ人間製造機』の性能について語ってくれ。」
宴席の準備が完了したので、みな、そちらに移動する。運んで来た酒は、すぐにワインクーラーで冷やされた。さすがに、ここいらは不用意にニールに近寄ったりはしない。久しぶりーとご機嫌で乾杯している。何十年も一緒にやってきた仲間だ。気心も互いの気性も知れているから、和やかな雰囲気である。
すやすやと昼寝していたニールも、小一時間もすると目が覚める。目を開けたらタープの天井だ。起き上がると海では、キラたちがプカプカと浮き輪で泳いでいるのが目に飛び込んで微笑んだ。アレハレとティエリアも一緒に泳いでいる。ああ、いい景色だなあ、と、目を細めたら、横から何か声が聞こえるので、そちらに視線を投げたら、トダカ以外にも人が居て、楽しそうに話している。
・・・あれ? 誰だっけ?・・・・
トダカが楽しそうだから、二桁後半組ではないだろう。ほぼ、トダカと同年代か、それより上の男たちだ。一人が、ニールの視線に気付いて、トダカに声をかけると、トダカが歩いてきた。
「目が覚めたかい? 娘さん。」
「・・・トダカさん、あの人たちは? 」
「腐れ縁の一桁組だ。遊びに来たんだが、挨拶してくれるかい? 」
「え? いいんですか? 」
元テロリストその前は裏のスナイパーなニールとしては、あまり正統派の軍人さんとは知り合いになりたくないし、トダカに迷惑がかからないかが気になるところだ。年末の忘年会で、一桁組とも数人とは、顔を合わせているが一瞬だったから、ニールには誰だかわからない。
「ああ、いいんだ。今まで、きみの自慢話をさんざんにぶち上げてたところさ。せっかくだから、声ぐらいは聞かせてやろうと思う。」
「自慢? そんなことしないでくださいよっっ。俺は自慢されるようなとこはありませんっっ。」
「あははは・・・料理が上手で家事万能で顔まで美人とくる。自慢するとこばかりだろ? 」
「うわぁー信じられないことをっっ。それは、うちで言う分にはいいけど、よその人には言わないでっっ。」
「まあまあ、はい、起きなさい。とりあえず水分補給をして、キラ様たちのところへ合流だ。」
用意していた常温のミネラルウォーターを渡すと、ニールも起き上がって、こくこくと飲んで立ち上がる。なぜか拍手で迎えられるので、ねぇーわーと内心でツッコミだ。
「私の腐れ縁だ。ウヅミーズラヴの一桁組のじじいどもだ。あとは、キサカが一桁組で、それでおしまい。・・・うちの子、ニールだ。可愛いだろ? 」
トダカがご機嫌で紹介するので、一応、ニールも頭を下げる。またパチパチと拍手だ。
「トダカは寂しがり屋でね。なるべく相手をしてやってくれ。」
「そうそう、亭主ばかり世話して、蔑ろにされていると、今、愚痴ってたとこだ。」
「トダカは、すねると大変だよ? ニールくん。」
「うるさいな。おまえらだって愚痴を吐いてたじゃないか。」
「寂しがり屋なんですか? トダカさん。」
じじいーずどもが口々に言うので、トダカに尋ねると、トダカは首を縦に振る。
「結構、寂しがり屋だ。だから、たまには里帰りしてくれって言ってるだろ? 」
「頻繁に帰ってるほうだと思いますよ? 寂しいなら寺で同居しますか? 」
「それはイヤだなあ。たぶん、三蔵さんもイヤがると思うよ、娘さん。私には、親衛隊が付属についてくるから。」
「あーみなさんが来ると、ちょっと狭いかな。」
それから、じじいーずのほうへ視線を向けて深くお辞儀した。いろいろと隠れてこそこそ協力しているのは、この人たちだろうと推測できる。
作品名:こらぼでほすと 秘密7 作家名:篠義