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こらぼでほすと 秘密9

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 レイは、午後一番に特区の空港に降りていた。オーヴまでシャトル便で、そこから飛行機で移動してきた。保護者と検査の結果と、今後のことは話し合ってきた。三年とはいうものの、三年後には顔が徐々に老化している状態になってしまうから、バレたくなければ二年ちょっとで戻りなさい、とは言われたが、レイは、『バレてもいいので、特区で過ごしたい。』 と、宣言してきた。すぐに、どうこうではないが、その話は、そろそろママにも話しておかなければならないだろう。そう思うと、ちと気が重い。とはいうものの、ママの傍で眠りたいので、ママが嘆くことは承知で、告げる決心はした。違法クローンであることは、大した問題ではない。なんせ、『吉祥富貴』には、さらに、とんでもないスーパーコーディネーターなキラがいる。だから、それ自体はいいのだ。問題なのは、ママが泣くだろうことだ。とても大切に世話してくれるので、きっとママは話を聞いたら泣くだろう。本当は、適当に理由をつけてプラントに戻れば、ママを泣かせなくて済むのだが、それだけはレイにもできない。一人で眠るなんて寂しすぎる。傍で、「おやすみ。」でも「まだ、ダメだ。」でもなんでもいいから声を聞かせてくれるママに居て欲しい。最後ぐらい人間として愛情を感じて眠りたいのだ。ママが嘆き悲しむとしても、それがレイには幸せな終焉となる。

 
 モノレールに乗ってから、携帯端末を開いたら、ずらずらとメールが入っていた。オーヴからのシンのものが一番上にある。それには、綺麗な白い砂浜のビーチと、みんながプカプカ浮いている映像が添付されていて、「来年は、おまえも参加。」 と、言葉がついていた。

・・・まあ、来年なら・・・・

 来年はいいのだ。まだ、なんとか、このままの状態を維持できる。だから、来年、ここに一緒に行けるだろう。そして、続きにずらずらと、みんなからの同じようなメールが入っていて、最後のシンのものにぶち当たった。「ダウン情報」とある。これは、普段からも配信されることがあるから、レイは慌ててメールを開く。ママが、雨でダウンした、というものだった。レイはモノレールから外を見る。確かに、道路が湿っている。朝から降雨して、ママは動けなくなったらしい。原因は、旅行の疲れとの複合技とのことだ。

・・・・あ、土産を忘れた・・・・


 プラントに戻ったのに、検査だなんだと慌しくて、土産を買うのを失念していた。どこかで立ち寄って、お菓子でも買おうかな、とも思ったが、それよりはママの顔を拝みたいので、そのままスルーした。



 午前中は、発熱していたが、雨が上がるとニールの発熱も治まった。倦怠感は、まだあるものの、起き上がれないほどのことではない。今日は、大人しくしていなさい、と、トダカに言われて横になっている。坊主たちはいないので、これといって家事もない。リジェネのことも、当人がコンビニで買ってきたおにぎりを食べていたので、食事の心配もしなくて良さそうだ。シンが午後前に飛び込んできたが、様子を見たら帰って行った。
「みんな、帰ったのか? リジェネ。」
「うん、一端、解散だって。また、夜にトダカさんが来るって言ってた。」
 旅行の荷物も解いていない状態だから、トダカは熱が下がるまで看病して一度、家に戻った。ここには、ニールが食べられるものが、ないから、それの買出しもしてくるとのことだ。オーヴからの食材は、たんまりと冷蔵庫にあるが調理しないと食べられない代物で、さすがに、今日はニールも無理だ。
「たぶん、他にも来るんじゃない? 」
「来て貰っても、動けないから申し訳ないな。」
「ママは動かないっっ。今日は、一日寝てるのが仕事っっ。」
「わかってるよ。おまえさん、退屈だろ? 遊びに行ってもいいぞ? もう動けるから。」
「行かない。ママの看病が忙しいから退屈しない。」
「テレビつけるか? 」
「見る? 」
 まあ、つけておけばリジェネも退屈しないだろうから、電源をポチッと入れる。まだ、旅行の荷物も、そのままなので、そこいらは気になるのだが、動いたらリジェネが猛烈に怒るので大人しくしている。
洗濯機に下着だけでもつけておきたいところなのだが、命じても全部投げ入れそうで言えない。色物と白は別のほうがいいし、なるべくなら型崩れしそうな衣類は洗濯ネットに入れたい。とかいうことまでは、リジェネには無理だ。

 やれやれだなあ、と、思っていたら回廊に足音だ。誰か来たらしい。そのまま脇部屋の前まで来て障子が開いた。覗いた顔はレイだった。今日、帰って来るとは聞いていたが、直接やってきたらしい。
「おかえり、早かったな? おまえさんは、今夜の予定じゃなかったか? 」
「たたいま戻りました、ママ。予定を終えて、すぐにシャトルに飛び乗りました。・・・・大丈夫ですか? 」
 レイが、そう言って顔を覗きこんできた。いつものように微笑んではいるが、どこか違和感がある。なんだかレイの纏っている空気が重い。何かあったのかもしれない、と、ニールは気づいた。些細なことだが、普段から接しているから解ることもある。
「リジェネ、レイにお茶でも持って来てやれ。こいつ、直行らしいから。」
「はーい。」
 リジェネを外へ出してから、レイの頬に触れる。いつもなら、柔らかい笑みが浮かぶのに、今日は苦しそうに微笑んだフリをする。
「なんか、あったのか? 」
「え? 」
「おまえさん、空気が重いぞ。」
「・・・・いえ・・・まあ・・・・」
「言いたくないなら言わなくていい。でも、シンやトダカさんにも解ると思うから知られたくないなら、今日は早く帰れ。夕方には、トダカさんが戻って来る。」
 プラントは今でこそ、平和だが、先の大戦の時は軍事独裁国家の様相だった。そのトップがレイの保護者で、何かしら機密事項になるマズイ話があったとしてもおかしくない。レイが、そんなふうに動揺するほどなら、何かしらマズイ話なのだろう。シンやトダカに知られたくないなら、今日は会わないほうがいい。だから、ニールは、そう言った。話してくれとは思わない。聞けば、レイにも迷惑になるかもしれないし、何もニールにはしてやれない。
「・・・おかしいですか? 俺。」
「うん、なんていうか、ものすごく苦い顔してるよ。空気も重いし・・・俺が気付くぐらいだから、シンなんか一発で見破る。シンにも言えないことなら、気分が落ち着くまで逢わないほうが安全だ。」
 長年、コンビを組んでいるシンなら、レイの表情や空気も一発でおかしいと気付く。シンにも言えないのなら知られないほうがいい。
「・・・ママ・・・俺・・・・」
 レイは微笑みの仮面は棄てた。悲しそうな顔で、ニールの手を握る。言うつもりをしていたが、ここで、いきなり指摘されるとは思わなくて、さらに動揺する。
「イヤなことでもあったのか? 吐いてすっきりするなら、俺に言え。聞いてやるから。」
「・・・すっきりじゃありません・・・俺は・・・あなたに・・・」
 本当は言うつもりだった。でも、体調を崩しているママにではない。回復してから、伝えるつもりだった。だのに、ママはレイの頬を撫でて苦笑している。


・・・・今、言うべきなのか・・・・

作品名:こらぼでほすと 秘密9 作家名:篠義