こらぼでほすと 秘密10
「いや、二、三日だから寺で、のんびりさせてもらう。買出し等のデートには誘ってくれ。」
「おう、頼むぜ。野菜がないんだよな。」
メインになるブツは大量にあるのだが、野菜はまったくといっていいほどない。さすがに、そんなたんぱく質オンリーの料理は、寺の女房としては許せないものがある。
「ママ、僕、明日から、ちょこっとヴェーダに帰って来る。」
「明日? また、いきなりだな、リジェネ。」
「だってーずーっと、こっちに居たでしょ? いろいろと処理しとかなきゃならないことが溜まってるんだよね。僕自身のメンテナンスもあるし。」
ハイネとの会話がひと段落したら、リジェネが、そう言い出した。明日、午後早くにレイとラボへ出向き、必要なものを用意したら、そのままヴェーダへ向かう予定だ。ナマモノなので、保存時間が限られている。
「飛行機だよな? 」
「見送りはいらない。アキバにも行ってから出発するから。」
「そうか・・・気をつけてな? 」
「わかってる。すぐに戻って来るから。」
「リジェネ、アキバまで送ってやろう。」
「ありがと、レイ。」
これで、二人して出発できる。ラボの医療ルームは、普段は無人なので、そこで必要なものは採取できる。今のところは、レイとリジェネだけの秘密だ。
食事して、ダラダラと居間で寛いでいたら、ようやく坊主とサルが帰宅した。玄関で音がしたので、ニールが廊下に飛び出ると、すでに悟空が眼の前だ。
「たっでぇーまぁーママ。」
「おかえり、悟空。お疲れさん。・・・三蔵さんもお疲れ様です。」
「ダウンしたんじゃないのか? 」
「大したことはなかったんですよ。雨だってだけで。・・・とりあえず、風呂に入ってください。悟空、ハンバーグとチキンピラフでよかったか? 」
「うん、そうそう、そういうの食いたい。」
「俺は茶漬けだ。」
「マヨ焼きもあります。」
長いこと、家族もどきをやっているので、本山から帰ると食べたいものも、わかっている。それらは、ちゃんと準備している。坊主のマヨネーズは、一応、荷物にも入れてあるのだが、山の中なので魚のマヨ焼きはないらしい。
居間に、そのまま雪崩れ込むと、ハイネたちが挨拶する。坊主は、そのまま着物を脱ぎ捨てて風呂に向かう。悟空も同様だ。脱ぎ散らかされた着物を片付けているニールを眺めて、レイとリジェネが視線を合わせる。騒々しい坊主が居れば、ママは寂しくない。だから、二人が明日、寺から消えても問題はない。
「天蓬が、ママを本山に連れて来いって言ってた。」
はごはごと大盛りのハンバーグのせチキンピラフに食らいついた悟空は、滞在中の話をする。それだけではない。夕食に出していた料理も少しずつ、卓袱台に載せられている。亭主は、いつもと違う味付けの和え物に、ちょっと驚きつつ酒のアテとしてつついている。あちらにはないものを用意しているから、坊主の前には刺身の盛り合わせだとかが並んでいるし、悟空の前には、イセエビの茹でたのが、どーんと三匹分鎮座している。
「え? 俺、仏教とかからっきしだぞ? 」
亭主の酌をしながら、ニールは、げっという顔をする。あの強烈な上司様と顔を合わせるのは度胸がいる。
「そんなの全然、関係ない。あっちのほうが、虎とかサルとか動物が多いし、捲簾が言うには、空気がいいから、ママの体調にもいいって。」
「まあ、山奥ってことだから、空気はいいんたろうけど。」
「戯言だ。気にするな。」
「なんでだよ。今年は、シンたちがプラントツアーをやるから無理だけどさ。来年、本山へ帰る時に一緒に行けばいいじゃん。」
「おい、悟空。ちょっと待て。今のママニャンに、そんだけの移動は無理だと思うぞ。・・・昨日、こいつがダウンしたって知らないのか? 」
片道三時間ちょっとの距離の移動で、疲れるのだ。移動だけで一日仕事な場所は、かなり無理があるだろう、と、ハイネがツッコミだ。プラントも一日仕事の移動だが、シャトルに乗りさえすれば、あとは到着まで寝ていればいいから、移動としては楽だ。乗換えが、いくつもあるらしいから、ハイネは無理だと思う。
「サル、このバカの体調が戻ってからだ。まだ、かかる。」
「えー、俺、いろいろと案内するところ、考えたのにっっ。」
「そいつ、おまえの足の速さについていけねぇーだろ? 迷子になるぞ。虎やサルが生息してるのは片道二時間のとこだろ? あそこまで、こいつが歩ける道理がねぇ。」
「は? 二時間? 」
「おう、道なき道を二時間だ。往復四時間。さらに、こいつは飛び跳ねるから追い駆けるのは大変だ。」
坊主はついていけるが、平坦な道でも二時間歩けるか不明のニールなんかには、どだい、無理な話だ。確実に置いていかれて迷子になる。ほぼ原生林な場所で、迷子は、さすがの元マイスターでも脱出できないだろう。
「それは、もっと無理だろ? 悟空。ママニャンの基礎体力を舐めるなよ? こいつ、店まで徒歩往復が限界だぞ。」
「というか、ジャングルを歩くのはママには無理だ、悟空。」
「それ、僕もついていくけど、そんなとこ行きたくない。」
レイとリジェネも、無理だと言う。普段、付き合っているのが人外並みの基礎体力の坊主と、完全に人外なものたちだと、普通の人間の基礎体力なんてものは理解できない。キラは、運動音痴だから、あんなだが、意外にも持久力はある。
「まあ、二年ぐらいすれば、なんとかなるだろう。それからだな。」
「ちぇっ、来年じゃないのか。」
かなりしっかりした計画を悟空は立てていたらしい。それが二年後だと言われて、軽く凹む。いろいろと見せたいものがあったので、非常に残念だ。
「体力作りするから、ちょっと待っててくれ、悟空。・・・そうそう、カリダさんが、まだ、遊びに来てって言ってたぞ? 」
「キラのかーちゃんか。ママ、逢ったのか? 」
「うん、キラに紹介してもらった。おまえさん、あっちに遊びに行ったことがあるんだってな。カリダさんが、逢いたいって言ってた。レイもな。」
「そうそう、カリダさんのメシもうめぇーんだよ。いくら食っても、次々に出て来るしさ。」
「そういえば、長いこと、ご無沙汰してます。お元気でしたか? 」
「元気そうだったぜ。オーヴのスパイスとか、いろいろと教えてもらったから、これから徐々に、それも作ってみるつもりだ。」
「おまえ、旅行に行ったんじゃないのか? なんで、お料理教室? 」
「あっちの料理も美味かったから、うちでも作りたいと思ってさ。でも、上げ膳据え膳で、のんびりはさせてもらった。観光もしたし。なあ、リジェネ? 」
「うん、珊瑚礁は綺麗だった。あと、あっちの寺院は派手で面白かったよ? 悟空。」
「そっか、オーヴだと、もう泳げるもんなあ。」
「次は参加すればいいさ。」
「もちろんだっっ。」
「明日は、カガリからの差し入れを本格的に出すから楽しみにしてな。エビ祭りだ。」
今日は、簡単に茹でただけだったので、明日は、いろいろと細工するつもりだ。焼いても煮ても生でもいいから、料理方法は、たくさんある。カガリが、悟空に、と、送ってきたのだから、堪能させなければならない。
「うぉーそれ、嬉しいっっ。なあなあ、ママ。でっかいエビフライとか食いたいっっ。」
作品名:こらぼでほすと 秘密10 作家名:篠義