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流れ星

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  「行っちゃった…。」

ひとりになると急に涙が出そうになった。ユキは永遠の別れじゃあるまいし、とぎゅっと眼を閉じて涙が出そうになるのを堪える。

  (たった2か月よ。その間にやる事があるでしょう?)


任期の切れる1年後、結婚式を挙げる事になっている。ユキは式なんて挙げなくてもいいと思っていたが進から“ユキの両親に花嫁姿を見てもらいたい”と言われ頷いた。ふたりでユキの実家を訪れて結婚式を挙げるから出席してほしい、と伝えるとユキの両親は涙を流して喜んでくれた。


  「進くんのご両親もきっと喜んでいるはずだけど…この娘で喜んでくれるかな?」

ユキの父が泣きながらつぶやいたのを思い出す。12で家を出たユキは実家がヨコハマに引っ越してきたのに一度も実家へ寄った事がなかった。医者になるまでは戻らない、と決めて家を出た。だから、ではなくとにかく忙しくて実家へ行く、という事が頭の中から抜けていた。

ヤマトに乗り、イスカンダルへ行った後少しだけ滞在した実家は決して居心地のいい場所ではなかった。ストレスで貧血を起こし倒れるぐらいユキにとって実家は心休まる場所ではなかった。

でも進と結婚する事を認めてもらうために足を運び認めてもらった後も何度か実家へ足を運んだ。

  (古代くんがいてくれたから両親と話せるようになったのかもしれない)

今日もこれから実家へ行って結婚式の事で相談する予定だ。母とケンカにならなきゃいいな、などと思いながら。








  「あ、私。」

ユキはバッグから携帯を取り出した。

  <進くんは出発したの?>

相手はユキの母だ。

  「うん、さっきね。これから向うから1時間かからないで着くと思うわ。用意して
   おいてくれる?」

今日はドレスを見に行く予定。母がどうしても一番最初にドレスを見に行きたいと言っていたから。

  <わかったわ。>

ユキは南部の従弟にドレスをお願いしたかったが母がどうしても自分で用意したいと言っていたので他のドレスはお願いする事にしてウェディングドレスだけ一緒に見に行く約束をしていたのだった。




ユキは母の返事を聞いて携帯を切り大きく息を吐いた。母とは何かとぶつかる事が多い。そもそもの考え方が違いすぎるのが原因だとユキはわかっているがやはり母娘。遠慮がないからぶつかってばかりだ。




ユキはヨコハマへ向かうエアートレイン乗り場に向かって歩き出した。















  「いらっしゃいませ。」

ユキと母はヨコハマステーションで待ち合わせをしてブティックのようなお店に入った。お店の中は白で統一されいたるところに鏡が置いてあった。まるで自分が地下都市にいる事を忘れそうなぐらいの明るさだった。

  「ドレスを見たいの。」

ユキの母が嬉しそうにスタッフに言うとスタッフはユキを見て

  「おめでとうございます!…お美しいお嬢様で…何を着てもお似合いでしょう。
   どうぞこちらがウェディングドレスのコーナーとなっております。」

そう言って女性のスタッフが奥の部屋へ案内した。

  「どうぞごゆっくりご覧になってくださいませ。」

その部屋は真っ白なドレスが所狭しと並んでいた。そのドレスを白い光が幾重にも当たっていて鏡に反射してより白く美しく輝いていた。

  「失礼ですが、おいくつでらっしゃいますか?」

スタッフが聞いて来た。

  「19なんです。まだ早いと言ったんですけどね。」

ユキよりも先に母が答える。お見合いの話しかしなかったクセに!と心の中で叫ぶユキ。

  「まぁ、そんなに若くして運命の人と…すばらしいですわ。ここ最近、お若い
   方同士のご結婚が多い様子で…そう、あのヤマトの戦闘班長が婚約を発表した
   じゃないですか。それにあやかろうというカップルが増えているんです。
   式は無理でも写真を撮りたい、とおっしゃる方が多く…こちらなどとても
   人気のあるドレスで…。」

スタッフが手にしたのはマーメイドドレスの様にシンプルなドレスだが切り替えがありそこから光沢のある美しい生地をふんだんに使っていた。

  「ご年齢から考えますと少し大人っぽいドレスですが着こなせると思いますわ。
   お若い方はどちらかというと短いドレスを選ぶ傾向がございますが…。」

そう、ユキは常に年上にみられるので別のコーナーに設けられているミニタイプは似合わなさそうだった。でもユキもお年頃、そんなかわいいドレスだって着てみたい…

  「やっぱり普通のが一番よね。」

常に普通を求める母にユキは心の中でため息をついた。








    
作品名:流れ星 作家名:kei