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流れ星

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  「だ、そうだ。お母さん…お母さんの負けだよ。素直にユキの思い通りにして
   やろう。」

父の言葉にユキのフィッティングに付き添ってたスタッフがにっこり笑う。その顔には“よかったですね”と書いてあるようだった。

  「全部進くん負担じゃちょっと悔しいから…」

父はスタッフにカードを渡して

  「ここから10万頭金で。」

と言った。ユキは慌ててそれを止めようとしたが

  「ユキ、これは親心、ってやつだよ。今までユキはひとりで頑張って来た。
   それの罪滅ぼしじゃないがこれは私達親からのお祝いのようなものだ。
   こういうもんは素直に受け取るのが大人、というものなんだぞ?」

スタッフもそれを聞いてユキに向かいにっこり笑う。

  「それではこちら、お預かりいたします。」

そう言ってそのカードをスキャンした。…とそこへユキ達のいる個室の扉をノックする音が聞こえた。

  「オーナーが来ましたよ。」

いつの間にかスタッフはオーナーと連絡を取りつけていたらしく女性が扉を開けると20代後半ぐらいの男性が立っていた。

  「初めてお目にかかります。」

まるで自分がモデルをした方がよさそうな背の高いスリムな男性がそこに立っていた。














  「早々ですがドレスが決まりました。」

ユキが寮に戻って来てすぐ進に報告の為にメールを入れた。時計を見て進は今何しているのか気になったが艦長という立場から時間が取れたら休憩、ぐらいで艦内を見て回ったりクルーと話したり、できっと忙しいだろうと想像していた。





  「へぇ…随分早く決まったんだな。」

数時間たって進がユキのメールを見た。進はメールに写真が添付されていると思ったが見当たらずため息をついた

  「当日までお預けのつもりか?」

進は端末に手を伸ばした




  <どんなドレスを選んだのか当日までお預け、ってことじゃないだろうなぁ?
   写真があれば添付してほしいんだけどなぁ。で、買う事にしたのか?
   レンタルにしたのか?ウェディングドレスだからもちろん白だよな?
   今から結婚式がすっごい楽しみになって来た!>


進は自室の扉を島にノックされて食事の時間だと気付いた。

  <島と夕飯食べに行ってくるな!>

最後にそう一言添えてメールを送信した。














ユキは進にメールを入れた後南部にもメールを入れていた。いとこの須藤悠輝に紹介してもらったお店に顔を出した事、須藤の名前を出したらオーナーがわざわざ挨拶に来てくれた事、既存のドレスでよかったのに改めて作り直してくれることを報告した。















  「古代くんから返事が来てる。」

毎日のメールの交換は欠かせない。それだけがユキと進を繋ぐモノだから。星間通信は費用が高いので緊急以外は使えない。どうしても声が聴きたくなったら掛けてみよう…そう思ってメールを何度も読み返す。

  「見せないつもりよ?楽しみにしてて。」

進が帰って来るのは2カ月先。数日滞在して今度は金星へ向かう予定だ。

  「その頃はまだドレス出来てなさそうよ。」

寮の個室のデスクに置いてあるカレンダーはひと月先までしか分からない。だから別のカレンダーから翌々月ぶんを切り取って貼り付けている。進はユキがそんないじらしい事をしているなんて思っていないはず。

  「いいなぁ…相原くんと一緒だもんね。きっと退屈しないで済むでしょう?
   積み込みさえ終わっちゃえば島くんも一緒だし…私も飛びたいなぁ。」

心は宇宙に飛ぶ。頭の中で想像するのは銀河系に帰って来た時ワープ明け見た星の瞬きの多い宇宙空間だ。

  (あの頃は古代くんが誰の事が好きなのか知りたくて、でも知って自分じゃな
   かったらと思うと怖かった。)

とげとげしい性格の部分が先行していた往路と違い復路は戦闘もなくまして兄が生きている事がわかったせいか随分性格も丸くなっていて隠れ古代ファンが隠れ、でなくなってきていた。食堂でもイメージルームでもピンクの視線が進に注がれていた。鈍感な進は全くそんな意識をくみ取る事もせず普段通りだったがこのヤマトの中に意中の女性がいる、というのは周知の事実だったのでそれなりに焦りがあった。

  (復路は…)

当時を振り返って本当に心当たりがなかったかと思えば結構隣やそばにいた事が多かった事を思い出す。そう言えば後部展望室はほとんど出入りがなかったような気がする。ひょっとしたらメインクルーが気を利かせてたのかもしれない?と。

  (でもヤマト農園は違った…古代くんがいると女性のクルーが必ず隣にいたし…
   みんな積極的だったもんなぁ。女性らしくかわいらしく、で。)

女性らしい体型でない自分を顧みると深いため息をついた。





作品名:流れ星 作家名:kei