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旅立ち集 ハイランダー編 No2

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「わかりました。くれぐれも気をつけて下さい」


ウォーレスは家を出ると、騎乗しウィルの後を追った。馬にくくりつけられたローランドで稼いだ金や荷物が激しく揺れ、その中にはマクに見せた小樽も含まれていた。

※※※※

湖の外周を沿うように馬で激走すると、対岸からでは朧気だった古城の輪郭がはっきりと見えてきた。

堅固な石積みの城壁は来る者を拒絶するかのようで、城壁を隔てて見える塔屋が権威を顕示している。


ウィルはこの古城を骸骨城と呼んでいた。

幼い頃、モリガンや近所の子供と一緒に遊んでいると、地下牢で鎖に繋がれた骸骨を発見し、それからそう呼ぶようになった。

それ以後は他の子が骸骨を怖がったのと、もともと大人達から壁や塔が崩落するので危険だと躾られていたので行かなくなった。

今日は数年ぶりに古城に来たことになるが、悠々と思い出に浸る時間はない。一刻も早くあの女から妹を連れ戻さなければならない。


(――あれは)


馬速を緩めながら、ウィルは先の草むらに視線を落とした。城門の手前に馬が横転していた。それも四肢を震わし泡を吹いている。女とモリガンが乗っていた馬で間違いないが、家から古城まで大した距離はなくこんなにも疲れないはずだ。

下馬してその様態を見るとあることに気付いた。人が座る馬鞍に、ぬるぬるした不気味な粘液がへばりついている。


(――海水?)


かすかに磯の匂いがする。

ウィルの脳裏に目下に広がる荒海と、絶壁に打ちつける飛沫が浮かぶ。

そういえば教会堂で見つけた槍にも潮の匂いが染みついていた。

あの女は海からやって来たとでもいうのか。

だとすれば正体はなんだ。

貫かれた牛の死体。

美しい歌声と海という連想。

これらが結びつくものとはいったい――。


屈んで馬の様態を見ていると、薄白い空気が立ち込めてきた。

霧だ。霧が出ている。空を見上げるとうっすらとした雨雲が空を覆い隠していた。この天気では霧が長い間生じるだろう。

さらにウィルの焦燥を煽るものが、横転する馬から少し離れた処にあった。


「なんだよこれ……?」 

血痕である。

青紫のアイビーの花が群生する地面に、真っ赤な尾を引いたような血痕が飛び散っていたのだ。

屈んでいるにもかかわらず、ウィルは立ちくらみのような感覚を覚えた。

心臓が激しく打ち呼吸が乱れ始める。剣術の稽古で血を流すことはある。それを見て怯えたことはない。だがこの血を見ただけで、ウィルの手足から汗が湧き、歯はがちがちと震え始めていた。


もしこれらの血が、モリガンのものだとしたら。

そう考えただけで胸が締め付けられ、何をしに古城まで来たのか忘れるほどに頭が混乱し、おどおどと踏み出す。


――あの女。

――妹に何をした。

――怪我でもさせたら、ただじゃおかない。


闘争心や怒りがこみ上げると、ウィルは冷静になれた。大きく深呼吸し立ち上がる。急いで妹を助けなくては。

ウィルは古城へ進んだ。空堀にかかる跳ね橋を渡り、落とし扉のつり上がった城門を走り抜けると広場に出ると、そこは城壁に囲まれた方形の中庭である。

ウィルは四辺をぐるりと見渡す。霧が立ち込めるせいか徐々に視界が狭まっていく。


「モリガーン!」


腹いっぱいに息を吸い込んで叫ぶが、自らの声が反響するばかりで返事はない。

再度、ありったけの声で呼ぶ。だが返事はない。霧が濃くなっていく。

追う時は追われる側になり、追われる時は追う側になって考えろ。ウィルは父親からそう教わっていたが、女の目的がわからないのでピンとくる処は思い浮かばない。


女はいったい何処にいるのか。

なぜモリガンを連れ去ったのか。

そもそも、あれは本当に人間なのだろうか。


ウィルは城壁に囲まれる郭を見回す。


地下牢へ下る扉。武器庫や倉庫の門戸。円塔へ登るための螺旋階段への入口。霧で隠れているものの、ウィルの記憶によって補正され、実像として映る。

何処を捜索すればいいのかわからないが、迷っていれば古城は霧に包まれてしまう。


その時。がさがさ、と、背後から茂みの音が聞こえた。ウィルは猛烈な速さで振り返る。


「誰だ?」


警戒しつつ進むと、草むらから羽音をたてて野鳥が舞い上がり、ウィルの頭上を飛び越えていった。

女ではなかった。


拍子抜けしつつ、飛翔する影を目で追うと、見張り塔の影が視界に入った。


城壁に等間隔で築かれた見張り塔には、頂上に凹凸とした弓を撃つための矢狭間がある。その隙間から古城の全容を一望できたことをウィルは思い出す。あそこに行けば何か見えるかもしれない。


だが眺望がとれたところで、霧に包まれた地表が見えるだろうか。

と、考えていた時である。


「モリガン?」


ウィルは呟いた。偶然にも微風に煽られ、かすかに薄らいだ霧を隔てて小さな人影が見えた。それは矢狭間の凸とした狭間の部分に立っている。


見間違いか。

それとも実像か。

やがてその影は霧襖によって完全に隠れてしまった。


ウィルは城壁側へと駆け出した。目指すのは見張り塔へ上れる螺旋階段への入口である。