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旅立ち集 ハイランダー編 No3

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ウォーレス達はローランドを旅立つ直前に彼と出くわし、漁師は話を聞いてくれた礼だと言い、気前よく鯨油を譲ってくれたのだ。


捕鯨の収穫は鯨肉だけではない。

仕留めた鯨は船上で解体され、分厚い皮下脂肪層は細かく切り分けられ船の石釜で煮出される。融出された純粋な油は樽詰めされ、鯨油として販売されるのだ。

鯨の種類によって鯨油の用途は違うが、灯油やマーガリン、石鹸の原料等に使われる。

ウォーレスが貰ったのは、灯油用の鯨油だった。


「ウィル。一流のハイランダーの技をよく見ておけ」


炎の中を後退する怪物目がけ、ウォーレスは剣を中段かつ水平に構えて突進する。

怪物の体表が堅い鱗で覆われているのを悟り、斬撃ではなく力を集中させる刺突で致命打を与えるつもりなのだ。

そしてウォーレスの攻撃はただの突攻撃でもなかった。


剣が怪物へ接触するその直前、周囲に燃え広がっていた炎が、風に煽られたかのように激しく動いた。


散在していた炎が火柱のように細高く伸びたかと思うと、吸い込まれるように剣へと集約されたのだ。

刃が燃え、その紅蓮の炎に包まれた一撃が怪物を貫く。


――スピアインボルブ。


直前に放たれた属性攻撃を武器に宿らせる、ハイランダーの必殺技である。

それまでの唸り声が嘘のような、怪物の金切り声が古城に木霊する。濡れた尾は熱気によって急速に渇き、紅蓮の剣を受けた胸部からはどす黒い体液がどろどろと溢れている。

怪物は身をよじり、髪と手を振り乱して暴れるがウォーレスはなおも剣を突き立てる。そして柄をねじ曲げた。その痛みに、怪物の尾が悶絶するようにびたんびたんと上下し地面を打つ。

やがて怪物の手は肩からぶら下がったまま動かなくなり、頭はもたげ、事切れたように動かなくなった。剣が抜かれるとゆっくりと倒れ、草地はその傷と吐血によって黒々に染まった。倒したのだ。


「やった」


と、思わずウィルは呟き、その隣ではモリガンが感嘆の声をもらしていた。


「大丈夫か二人とも」


剣を収め、ウォーレスが肩を揺らして歩み寄って来る。


「僕は大丈夫。だけどモリガンの傷が」

「モリガン……! 血まみれじゃないか!」

心配されるが、モリガンは頭を振った。三つ編みの解かれた長髪が、すぐ隣のウィルの頬をかすめる。


「わっちは大丈夫、兄貴の方が大変なんだよ」

「違う。お前の方が重傷だ」

「違うだろ! 兄貴の方がじゅーしょーだ! 我慢してないで認めろよ、くそ兄貴!」

「我慢なんかしてない。お前こそ痛くて怖くてびーびー泣いてたくせに」

「な、泣いてねーよ! 嘘つくなよ!」

「じゃあ、その目から流れているのはなんなんだよ」

「こ、これは心の汗だよ! くそ兄貴だって目の上から血が出ているぞ! その傷は一生もんだぞ!」

「うるさいな。傷なんてガーゼでも貼れば隠せるだろ」

「あぁ。もう。わかった、わかった。二人とも重傷なのはよくわかった。早く帰って手当しよう」


ウォーレスが左右の手を伸ばす。右手はウィル、左手はモリガンに向け、二人の身体を起こそうとする。

兄妹は同時に父の手を取った。逞しい腕力に引かれ立ち上がる。二人同時にふらつく身体を父に支えられる。


「ウィル。兄として務め。立派だったぞ」

「父さん……」


ウィルが父の横顔を見る。こんな間近で父を見たのは久々だった。オールバックの髪。大きな額に蒼い目。口ひげに頬の傷。太い首。そして胸を貫通する血に染まった細長い腕。

(――腕?)

モリガンの悲鳴が響き渡ると同時に、ウォーレスが吐血した。見下ろせば草地を這い進んだ怪物が、すぐそこに迫っているではないか。そして下から伸びた腕の一撃が、ウォーレスの胸を貫いていたのだ。


「ぐぅ……!」


身体を貫かれながらも、ウォーレスは両手の二人を押し飛ばした。


「ウィル、モリガンを連れて逃げろ!」


怪物が上体を起こして腕を上げると、父の両足が宙に浮く。まだそんな力が残っていたのだ。


「驚いた。世界にはこんな怪物もいるんだなウィル。ハイランドに籠もっているだけじゃ、正義を貫く強さも手に入らないわけか……」


父は宙づりになったまま、言葉を続ける。


「こんな怪物、人殺しのプロの軍人だって勝てないだろう。こいつらと戦えるのは、いったいどんな連中なんだろうな……」

「兄貴、ダディを助けて!」

「ダメだモリガン、ウィルを悩ませるな……」

「父さん?」

「ウィル、頼むから……行ってくれ」

(――!)


懇願するような声だった。

ウィルは初めて、父から何かを願われたのだ。

ウィルは妹の手を取り、父に背を向け走り出した。

死にかけた父のたった一言が、ウィルを突き動かし、それまで傷や痛みは嘘のように消えていた。


「兄貴、ダディは?」


妹の言葉を聞き捨て、ウィルは走り続けた。


「ウィル君!」


城門まで来ると、そこには馬に乗ったマクの姿があった。


「マクさん、ダディを助けて!」

「ウォーレスさんを?」

「ダメだモリガン!」


ウィルは怒鳴った。父ですら倒せない怪物をマク一人で倒せるわけがない。ここはすぐに逃げるべきだ。


「ウィル君、ウォーレスさんは?」

「怪物に殺されました。すぐに逃げろって言われて、ここまで走ってきました」

「まだ生きてる! 今行けば助かるかもしれないよ!」

「無理だよモリガン……。振り返ってみろ」

「え?」


モリガンが振り返り、そしてマクも同じ処を見る。

奥の草道に見える城壁から、焦げた身体を露わにする怪物の姿がそこにあった。

言いようのない気配を感じていたウィルは、後方から怪物が迫って来るのが見えていた。


モリガンが息を吸い込むような短い悲鳴をあげる。

マクは咄嗟に矢筒から矢を抜き、目にもとまらぬ速さで弓につがえると、怪物の頭部を目がけて放った。

悲鳴を上げる怪物。続けてもう一矢放たれる。空気を裂いて一直線に飛ぶそれは胸部へ命中する。


「逃げよう!」

マクはモリガンを馬にのせ、ウィルは自分の乗った馬に乗り古城から逃げ出した。城門には横転した馬と、父の馬だけが残されていた。