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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 18

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 イワンは生まれて初めて、心を覗かれる、という経験をした。
 これまでずっと、心はイワンが読む側であった。シンはほぼ完全に、イワンの考えを読んでいた。ただ少し違っていた所といえば、憎しみの対象が完全にデュラハンへと向いていたものではなく、悲しみに暮れる自らに、慰めではなく暴力を与えた
シンへと向いていた事であった。
「……知ったような事を言うなぁ!」
 イワンは悔恨の涙を流しながら、シンに殴りかかった。
 肉弾戦の得意ではないイワンの拳など、シンにとって、かわすことは容易いものであったが、その場にパチン、と音が響いた。
 イワン自身が驚いていた。シンはイワンの拳を避けることなく、その顔面で受けていた。
 シンは口の端から流れる血を拭う。
「どうだ? オレを殴って少しは落ち着いたか?」
「どうして避けなかったのですか? ボクの拳ごとき、シンには簡単に避けられたはず……」
 イワンは後になって跳ね返ってきた、拳の痛みを感じながら、驚いていた。
「オレに一発殴られてただろ? その仕返しをさせてやったのさ」
「し、仕返し……?」
「そうだ、仕返しだ」
 シンは再び垂れてきた血を拭った。
「簡単に死ぬような真似はするな。お前にだって、力はある。全力で殴れば、お前にもオレに血を流させることはできるんだ。デュラハンを憎め。そうすれば、さっきオレを殴ったみたいな力が生まれる。ギアナ村を滅ぼし、お前の姉貴も殺した奴を、憎め!」
 憎しみは時として、人の力となりうる。その対象は、特定の何かか、それとも自分自身の弱さか。様々あれど、悔恨の感情は人を強くするものとなり得るのだ。
 イワンは悔しさに打ち振るえた。自らに力がないばかりに、故郷は滅び、唯一の肉親さえも失った。
 イワンの大切なものを奪ったのは他でもない、あの魔王を自称する悪魔である。
「デュラハン……、デュラハン!」
 イワンは感情に身を任せ、憎い悪魔の名を、声枯れんばかりに叫んだ。
「ボクは、絶対に許さない。デュラハンを絶対に……!」
 イワンの心が、デュラハンへの憎しみに満ちたその時、イワンに変化が現れた。
「うああ……!」
 イワンは胸を抑え、うずくまった。
「イワン!?」
 ロビンやハイドロも、彼の元へ駆け寄った。
「イワン、どうした!?」
 シンはイワンの背に手を触れ、イワンの横顔を窺った。その顔は、ひどい汗に濡れている。
 イワンは苦しみのあまり、堅く目を閉じていたが、突然、かっと見開いた。
「……口惜しや、我に力が無いばかりに、デュラハンを殺せぬ事……」
 イワンは呟いたかと思うと、すっと立ち上がる。
「……口惜しや、力のない我……」
 イワンの瞳が、妖しく紫に輝いた。その瞬間、エナジーが解放された。
「うわ!」
 イワンの周りにいた人々は、突然発せられた、エナジーによる電撃を受け、吹き飛ばされた。
 イワンはバチバチと、音を立てる電気を身に纏ったまま立ち尽くしている。
「……我は憎む、恨む、我以外の全ての者を!」
 イワンは帯電する電流を、手を振るって放出した。電撃が向かう先にいるのは、あろう事かハイドロであった。
「チッ!」
 シンはハイドロの前に立ち、電撃を受け止め、ハイドロを庇った。
 シンは瞬間的にエナジーを纏って、電撃を受けたのだが、電圧が大きく、エナジーの防御を破ってシンへと電流が流れた。
 気絶するほどの電撃ではなかったが、それでもシンは体に痺れを感じた。
「ハイドロさん、今ここにいるのは危険だ。避難してくれ!」
「わ、分かった!」
 ハイドロは急ぎ、部屋を出ようとする。
「……逃がさん」
 イワンは放電し、部屋の出入り口を、電流の渦巻く磁気嵐で閉ざしてしまった。これを強行突破しようものなら、黒こげになってしまうほどの強力な電気が、行く手を塞いでいる。
「我以外の者、全て死すべし……」
 憎しみと怒りによって、新たなる力を得たらしいイワンは、全ての存在に死を与えんとする悪魔と化してしまった。
 イワンは両手に帯電すると、手をクロスさせた。そして力を貯めると、両手の指全てを開き、新たな力を解き放った。
『ブレイン・コネクト!』
 両手の指、計十本の先から光線が放たれた。
「うわあ!」
 ロビンは襲い来る光線になす統べなく、まともに受けてしまった。シンも、ハイドロもガルシアも、その場にいた全員が光線を受けた。
「くっ、これは一体……? おや?」
 ガルシアは、受けてしまった光線が与える害が、どのようなものか身構えたが、構えを解いてしまった。
「何も、起こらない?」
 ガルシアは体に異常を感じないことを不審に思った。あれほど貯め込まれた後に放射された光線である、まさか不発に終わるなどと言うことは考えられなかった。
「イワン、一体何をしたんだ……?」
 ガルシアが、まだ電気を身にまとうイワンを目を向ける。すると、この光線の意味を理解した。
「分からん、何が起こるのだ……」
 イワンは不意に呟いた。彼が言ったことは、ガルシアが考えたことであった。
「俺の考えを読んで……」
 イワンは更に呟く。『リード』のエナジーを使っているわけではない、しかしイワンは、ガルシアの考えていることを正確に話していた。
 対照は、ガルシアのみではなかった。
「どうしたら、イワンを……」
「殺される、嫌……」
「イワン、どうか正気に戻って……」
「やはりギアナの風景は、見せるべきではなかったか……」
 それぞれ、ロビン、ジャスミン、メアリィ、そしてハイドロが考えていることを、イワンは言い当てていた。
「心を読むだけ、ではないぞシン!」
 シンはいつの間にかイワンの背後に回り、手刀でイワンを気絶させようとしていた。それをイワンは纏う、電撃の輪の一部を、尖らせて防いだ。
「くそっ!」
 シンは電撃をかわし、後退した。
「次は左から攻めるつもりか? 芸のない奴よ」
「さあ、そいつはどうかな!?」
 シンは双刀の片方を抜き、峰を前にして逆手に持った。
「あくまで気絶させようと言うつもりか。その甘さ、後悔するぞ」
 考えは見事に当てられ、シンは動きを止めてしまった。
 しかしシンは、新たな策にでる。
「後ろに回るぜ、背中に注意しな!」
 シンは宣言し、攻めかかった。
「発想はさすがだ。しかし、無駄だ……」
 シンの攻撃は、宣言と違って、イワンの真っ正面に向かうものだった。イワンは難なく受け止める。
「あえて攻め手を言うことで、我が心を読めないように仕向けたようだが、無駄なこと。我は心の深層、果ては脊髄反射までも読むことができる。惑わされることは、ありはしない……」
 あの光線を受けた者の考えは、イワンへと全て筒抜けであった。
 イワンの得意としていたエナジー、『リード』と違って、読みとれる範囲は格段に広がっていた。
 相手が思っていることを読めるのが『リード』であるが、今のイワンには、人が思考というものを行う場所、即ち、脳神経から生じる思考の根元そのものを読みとることができるのだ。
 故に、言葉を発しながら、心では別の考えをする、嘘というものが一切通じないのである。心の底から嘘を言っているつもりであったとしても、思考の源を読み取れるイワンには通用しない。