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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 18

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しかし同時に、今は消えたリョウカによって、エレメンタルの灯台から自ら身を投げたと聞かされ、生きているはずがないと思っていた。
 生きているとすれば、悪魔の手先にでもなって、現世に蘇った、今の状況を考えるとそのような邪推しか浮かばない。
「シン……、一体今まで何をしていたの、何で今になってあたしの前に現れたのよ!?」
 ヒナは完全に困惑しきっていた。
「まあ、落ち着け。オレは姉貴の力、力通眼を会得したくてあんたに挑んでたんだ。力通眼は誰かに教えられて得られるもんじゃない事はよく分かってる。ぎりぎりの死線をくぐってやっと体得できる秘技だ。だが、オレが目の前に現れたら、姉貴は絶対に真剣勝負なんかしてくれないだろう? だからあんな変装して姉貴と戦っていたのさ」
 真剣な眼差しを向けるシンとは対称的に、ヒナは完全に冷静さを欠いていた。今戦ったところで、彼女は実力の半分も出せないであろう。
「生きているなら、どうして……」
 ヒナは刀を落とし、そのまま膝を付いて崩れ落ちた。最早戦意は一欠片たりとも残されていない。
「姉貴、明日また来る。その時はオレを殺すつもりで来い。これまでの戦いで、オレは力通眼の力の字位は分かったつもりだ。それでも勝負になるかどうかは分からない。だが、姉貴に負けるようじゃ、世界は絶対に救えない。頼んだぜ、それじゃ」
「シン、待って!」
『テレポート』
 ヒナが引き止める頃、シンは既に光に消えていった後だった。
「シン……」
 ヒナは、意気消沈しながらも、シンが言っていた言葉を思い出す。
 彼は世界を救うというような事を言っていた。つまりは力通眼の能力を身に付けることで、今世界を脅かしている悪魔を倒そうと考えているのだ。
 力通眼があったところで、あの悪魔を倒せる可能性など、塵にも等しかった。それでもシンは命懸けで世界を救おうという気持ちである。彼をそこまで引き立てるものはなんなのか、そこまでは分かりかねたが。
「シン、分かったわ……」
 ヒナは刀を拾い、立ち上がった。
「あたしという壁を越えて行きなさい!」
    ※※※
 ヒナは、極寒の中、禊ぎの儀式を行い、巫女装束へと着替え、愛用の刀を腰に差した。
 身支度を終えると、ヒナは再び冷たい風が吹き、粉雪がちらちらと舞う外へと出る。
 風に靡く髪の隙間から覗く顔は、覚悟を決めたものだった。それはこれから死合うであろう、弟を手にかけるものか、それとも彼に敗れ、自らが死んでいくものか。
 ヒナは、時折吹き付ける雪に、その翡翠色をした目を細めながら、約束の地へと歩みを進めた。
 厳密には、約束などしていない。これまでのシンとの戦いにより、二人がぶつかり合う場所はいつも同じ場所であった。
 だからこそ、ヒナは、自らが約束の地とした所に、彼が居ると思ったのだ。
 しかし、今日はそこにシンの姿はなかった。
 決戦に恐れをなして逃げる、などという考えは、シンには浮かびようがない。
 きっとヒナが禊ぎを行ったように、シンも死合いを前に、何かすることがあり、遅れているのだろう。そう思い、ヒナは待つことにした。
 寒空の下待つこと数分、決戦の相手はついにやって来た。
「よう、姉貴、待たせちまったな。ちょいと、最後に修行してたものでな……」
「ちょっと、シン!?」
 シンは、これから決戦をするとは思えない状態であった。
 露出した両腕には、血の滲んだ包帯が巻き付けられており、脚も傷だらけである。
 胸元も、魔物によるひっかき傷らしき、新しい爪跡があり、衣服はぼろぼろであった。
「ああ、これか?」
 シンは胸元の大きな傷をなぞった。見ている方が気がおかしくなってしまいそうなほど、痛々しい行動である。
「瘴気で活性化した魔物どもを相手に最後の仕上げをしたからな、さすがに死ぬかと思ったぜ。オレ自身驚いているよ、エゾ島があんなにすごいところだったなんてな」
 シンは傷口から少し、流れ出した血を舐め、小さく笑った。
「エゾ島ですって!? シン、あなたそんな所に行っていたの!?」
 エゾ島とは、イズモ村のあるジパン島の北に位置する、海に隔絶された離島である。
 火山地帯であり、いくつもの活火山が存在する危険な島である。また、乾燥した土壌のため、植物は一切育たず、人も動物も住むことのできない、まさに地獄の島だ。
 人も動物もいない、生命の存在しない島であるが、魔物の巣窟としてイズモの民に知られている。
 かつてエゾ島に探索に行った者がいたが、島に足を踏み入れた者は、生きて帰ることはなく、黄泉の島という別名まであった。
 そのような危険きわまりない島から、シンは初めて生還した者となった。しかしまた、その代償に、満身創痍となってしまった。
「早く手当しないと! シン、決闘は無しよ。早く、家に帰りましょう!」
「姉貴、これはほとんど掠り傷だ。ちょっと深いのは、島の主らしき魔物にやられた傷だ。オレは戦える」

「何をバカなこと言ってるの! そんなので戦える訳ないでしょ! いいからさっさと……」
 ガチンッ、と金属音が大きく響いた。
「さっさと抜けよ、姉貴。オレに情けなんかかけてたら、あんた、死ぬぜ……?」
 ヒナは咄嗟に刀を半分抜き、シンの不意打ちに近い一撃を防いでいた。
 シンの目はギラリとしていた。力通眼の能力者特有の翡翠色に、血走った赤が混ざった目が、ヒナに覚悟を決めさせた。
 シンは本気で殺しにかかっている。彼の言う通り、情けなどかけている余裕などない。
 二人は一旦、互いに距離をあける。
「シン、どうやらあなた、力通眼を手に入れたようね……」
 ヒナは少しずつ落ち着きを取り戻していった。
「ああ、黄泉の島で、襲いかかる魔物どもを斬り続けてきた。主との戦いは死を覚悟した瞬間もあった。だが、オレはそれを乗り越えた。あんたから少しずつ盗んだ技を、一気にオレのものとした! 今ならあんたの動きにだって食らいつける。さあ、オレと戦え!」
「分かったわ……、本気の本気で行くわよ……」
 ヒナは納めたままの刀を右手に持ち、左半身となって、左手で刀の柄を少し触れた。
 彼女の得意とする剣技、居合いの構えである。しかもこれまでシンと戦ってきた時と違い、利き手を使っている。
 利き手の左を使う、これがヒナの本気である。
「シン、ちょっとだけおとなしくしてなさい」
 ヒナは左手をシンへ向け、エナジーを発動した。
『キュアライト』
 大地の象徴たる黄色の光が、シンを包み、胸元の大きな傷を治癒していった。
 元来、エナジーの得意でないヒナでは、傷を完全に癒すことはできなかったが、未だに血がにじみ出る、シンの傷口を塞ぐことはできた。大きな傷痕までは、治せなかったが。
「……さすがに見るに堪えないから、その傷は治させてもらったわ。これがあたしからの最後の情け。ここからはあたしの力通眼の真髄、骨身にしみ付けてあげるわ」
 シンは傷痕をなぞった。痕こそ残ってしまっているが、痛みは完全に引いていた。
 シンは、やっとその気になったヒナを見て笑みをこぼし、切っ先をヒナへ向ける。
「天眼忍者シン、参る!」
「天眼巫女ヒナ、参ります……」
 互いに名乗りを上げると、二人の死合いは、始まった。