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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 18

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「左様でございますか。人間どもには私の魔術により、恐怖心を増大させる作用のある瘴気を充てました。ここで絶対的存在である我が君が出れば、きっと彼奴らは絶望の淵に追い詰められましょう」
 シレーネは邪悪な笑みを浮かべた。
 彼女の魔術は、気を失った者や、錯乱してしまった者にも、デュラハンの存在を知らしめる効果があった。これは死ぬ以外、魔王の恐怖からは決して逃れられない事を意味する。
「ククク……、お前は本当に黒い女よ。さすがは我が女。我がイリスの力を手に入れ、最強の魔王となった暁には、必ずやお前を我が妃としてやろう」
「我が君……、ああ、この気持ち、なんと言い表せばよいのでしょう。極上の幸福、これ以外言葉が浮かばない私自信がもどかしく思います……」
 魔王の妃にしてもらえる事を想像するだけで、シレーネは紅潮してうっとりした。
「シレーネ、我が姿、我が声を世界に飛ばすことはできるな?」
 シレーネは魔法のボールを操り床に、文字らしき物が、鎖のように繋がり合って円を成し、赤紫の不気味な色の魔法陣を作り出した。
「この魔法陣の上に乗れば、世界を照らす太陽は、我が君と入れ替わり、私が起こした天変地異に恐れおののく人間どもに、我が君のお姿を見せることができます」
「よし……」
 デュラハンは魔法陣へと歩み寄り、シレーネの指示通りその上に乗った。すると、魔法陣を形成する文字の鎖が妖しく輝く。
「これは、面白い……」
 魔法陣の上に乗った瞬間、デュラハンの視界にだけ、天から世界を覗くような風景が広がった。
 世界は暗黒に包まれ、猛毒の瘴気が充満している。地上にいる人間は全て恐怖で狂っていた。
「さあ、我が君。今こそ大魔王の誕生を宣言するときにございます」
「よかろう……」
 デュラハンはここにて、魔王の誕生を知らしめるべく、世界中に語りかけた。
    ※※※
 マーズ灯台頂上。ロビン達は漆黒の閃光を浴び、精神へと直にダメージを受ける暗黒の霧の中、激しい脱力感に襲われていた。
 閃光が放たれ、空中に瘴気が満ちるようになってから、およそ三十分が経とうとしていた。その間に、ウェイアード全てが同じ状態になっていることは、ロビン達には知る由もなかった。
「デュラハンめ……! 一体何を……!」
 苦しみながら、ロビンは声を捻り出した。
「……な、なんだあれは……!?」
 ガルシアが空を見て叫んだ。
「太陽が……!?」
 雲に包まれ、白く輝いていた太陽が、急に変容を遂げた。
 太陽がまるで、卵生の生物が孵化しようとするように激しく揺れ動き、天辺からひびが入り始めた。
 遂には卵、太陽が砕け散り、中から球体の黒い塊が出現した。塊は徐々に膨張していき、太陽の数倍大きなものと化した。
 膨張した塊は、少しずつ形を変えていく。突起が球体の両端、下側にそれぞれ出現し、伸びていくとそれは、腕、脚の様な物になった。
 最初は非常に歪であったが、次第に体も形成されていき、人型となった。しかし、人であればあるはずの首がない。
「あれは……、デュラハン!?」
 一度実物と対面したことのあるロビンには、一瞬で黒い塊の正体が分かった。仲間達も、あれをデュラハンと認識するのに時間は必要なかった。
 体が完全に形成され、遂に、あの藍色の鎧に、裾がギザギザになったマントを纏う姿をするものが明らかとなる。
 天界の神々を殺戮し、暗黒の世界でも破壊の限りを尽くしていた大悪魔。
 破壊神とも呼ばれた者が、太陽を打ち破ってウェイアード中の人間の前に姿を見せた。
「お初にお目にかかる、ウェイアードの人間どもよ……」
 太陽の代わりに、天を支配するようになったデュラハンは、これまでよりも闇の力が強烈な閃光で、ウェイアード全てを照らしていた。
 強烈な闇の力に、肺が圧迫されているかのように、ロビン達は軽い呼吸困難に陥っていた。
 彼らだけではない、全世界の人間が同じ状態となり、症状のひどい者は、気を失うほどであった。
 気絶した所で、デュラハンの姿、言葉は深層心理に焼き付き、決して逃れる手はない。
「まずは自己紹介といこう。我はデュラハン、貴様達人間に破壊をもたらす存在なり」
 暗黒の閃光と、同時に発生する瘴気を背後に、デュラハンの演説は続く。
「我はかつて、天界の神々を悉く消し去ってきた。しかし、天界最強を誇る女神により、一度は暗黒の世界へとこの身を封じられた……」
 デュラハンは右腕を大きく振り、自らの胸の前にやった。
「しかし! 我は再びこの世界へと舞い戻った! そして我の望むものは、世界の一切を破壊し、我が統治する真の暗黒世界を創ること」
 デュラハンは胸に当てた手を一度下ろすと、人差し指一本を立て、世界中の人々に向ける。
「我はその世界にて王となる……。王者とは寛大なる存在、そこで我は、貴様達人間に一月の猶予を与える」
 デュラハンは手を下ろした。
「敢えて一月の時を使い、我は、アネモスの巫女の身体を媒体とし、天界最強の女神の力を得る儀式を行う。そして、貴様達人間どもに死を与えん! 来るべき死に恐怖し、絶望せよ! その姿こそが、我の極上の楽しみとなるのだ! ふふふ……、はははは……!」
 デュラハンは両手を広げ高笑いした。
「人間どもよ、精々残された時を、悔いなく生きることだ。そして、絶望と共に迎えよ! 大魔王デュラハンによってもたらされる死を!」
 デュラハンの姿は、笑い声を残しながら、砂が流れていくかのように消えていった。
 デュラハンの消滅と共に、割れたはずの太陽が、これまでと同じく世界を照らし、瘴気に包まれた空気は、毒気を失った。
 全てがデュラハンの出現する前のように戻ると、ロビン達の体も、若干の倦怠感が残ったが、異常は無くなった。
「う……、くっ、みんな、大丈夫か?」
 ロビンは、まだ完全に脱力感が抜け切らない体を何とか起こした。
「けほ……、けほ……。瘴気がまだ、胸に……」
 メアリィは、瘴気によって痛む胸を抑えながら、何度か咳をした。
「ちきしょう、頭いてえ……」
 ジェラルドは、額に手を当てて頭痛を訴えていた。
 世界へ現れたデュラハンによる、謎の閃光や瘴気によるダメージはかなりロビン達に残った。
「くそ……、デュラハンめ……」
 ロビンはふらつく体を支えながら、先ほどまでデュラハンがいた空を憎らしく見た。
 ダメージは世界中の人々が負ったものの方が、より大きかった。
 暗黒の閃光による脱力感が抜けず、立つこともままならぬ者もいれば、猛毒の瘴気により、肺病のような症状を出す者もいた。
 直接神経に作用し、恐怖感を増強させる瘴気の影響が、常人には色濃く残り、先のデュラハン出現により、恐怖が限界を超え、ついには発狂する者までも現れた。
 デュラハンが世界の人々に姿を見せた後、起こった諸々の事は、デュラハンもシレーネと共に見ていた。
「これは遊興よ、人間どもが恐怖におののいておるわ!」
「我が君の存在は絶大なるもの。恐怖しない人間などいるはずがありません」
「アレクスには感謝せねばな。我がすぐに、世界へ手を下していたら、これほど恐怖する人間どもを見ることは叶わなかったのだからな!」
 玉座の間に、デュラハンの笑い声が響き渡った。