彼女は超新星
意識した途端に腹に強烈な痛みを感じる。生気が抜け出ていく。
彼は目を瞑って、広大で穏やかな河の中に沈み、揺蕩う。闇のように深い藍色の、ゆりかごのような安堵の中に埋もれていく。
意識を失う直前に確認した彼女の無傷の姿を思い出して、そっと笑みを浮かべた拍子に彼の唇から泡が漏れ出た。
お前が無事ならば、それで。
「そうでしょうか!」
明らかに場違いの、素っ頓狂なその声を合図に、広大な河がぱかりとおもちゃのように真っ二つに割れた。
彼はどさりとぞんざいに川底に落とされる。目を白黒されて上半身を起き上がらせた彼の視界でびちびちと川魚が跳ねた。
照明を落としたようにサッと世界が暗くなり、彼から少し離れた川底で、讃美歌を響かせていつものようにスポットライトを浴びるのが。
「先輩は私が無事ならそれでいいっていってたけれど、それは違うよ! そんなのおかしいよ!」
いつもの水色と白のセーラー服を着た、見慣れた茶色い髪にくりくりした目、聞きなれてしまった突拍子もない声、相変わらずの両手をクロスさせた妙なポーズ。
それは、紛れもなく。
「確かに私は無事かもしれない! でも! マコのせいで先輩が! 目の前で先輩が倒れたんです! この戦いがマコも皐月様もみんな無事に終わったとしても! 先輩の頭の外の私はきっととっても苦しい思いをします! 流子ちゃんだって、皐月様だって、他の四天王の人たちも、美木杉先生もモヒカンさんも、本能字学園の生徒たちも、真っ裸の人たちも、とーちゃんたちもきっとそう! だって私が! 先輩の頭の中の私が、こんなに苦しくて、辛いんだから!」
棲みついてしまった少女の一人舞台を、髪から水滴を垂らし、両脚を投げ出して座ったまま彼は呆然と眺める。言葉も出ない彼の頭には、しかし、確かに彼女の声が届いていた。
「きっと今頃、私はべしょべしょに泣いてます!」
ぐるぐると頭の中を言葉が駆け回る。
「先輩は! 頭の外の私がべしょべしょに泣いてても、無事だったらそれでいいんですか!
皐月様を守る生きた盾なのに、戦いが終わるそのときまで皐月様や四天王の先輩と一緒に戦わないんですか!
マコ以外の本能字学園のみんなは守らなくていいんですか!
それが先輩の! 覚悟なのですか!!」
ただただ彼女を映していた彼の瞳に光が戻る。
そうして、彼女の名前を呼んで、腕を伸ばそうとして。
その彼を、左右から奔流が襲った。