彼女は超新星
ステージ用に世界が夕日ではあるが光を取り戻し、真っ二つになっていた河は元通りになったが何故かパステル色の激流になっていた。
筋肉のせいで重みがある彼があっぷあっぷと水の中に沈んだり浮かんだりを繰り返している間に垣間見える流れる先の彼女は、自分との距離を保ちつつもギャグ調に溺れていたり、星に掴まって空を飛んでいたり、沿岸に腰かけて脚をばたつかせ飛沫を起こしていたりと忙しない。
一度大きく水面から体をのぞかせた彼は、目を見開いた。
パステル色の河の向こうに水平線がある。そういえば轟音がする気がする。ついでに水平線の向こうに同じくパステル色の虹さえかかっている。
疑いもなく、滝である。
現に自分よりも水平線に近い位置にいる彼女が、何やらうさぎが描かれているらしき旗を立てた丸太でてきた筏にしがみついて、「うわわ、滝だよ~!」と緊張感のない、悲鳴とも歓声ともつかない声をあげていた。
彼はまず、力任せに水を巨大な腕でかき分けた。
そして水が元に戻る前に、右足を前に出して、そしてすぐに左足を出す。
彼は水面を走り出した。
彼の足元から上がる飛沫の向こうに、影が映る。
小さな女性の姿と、彼女の傍に立つ一組の男女の姿は彼を見守るように。
応援してるのか囃し立てているのかわからない三人と、彼らから少し離れて立つ、呆れた様子の少し背の小さい少年のシルエット。
そして、肩を並べて寄り添う姉妹の影。
さっきまで筏に必死でしがみついていた少女が立ち上がって、虹を背に、橙色の逆光を浴びて、パステル色の飛沫の中で両手を広げて心底楽しげに笑っている。
「先輩!」
ああ、この少女を「無星」としたのは一体どうしてだったか。
確かに「一つ」と数えることのできない大きさの光かもしれない。
それでも、そんな小さな小さな煌めきが集まって、形を成して、北極星にもシリウスにも負けないぐらいにきらきらと輝いている。
「満、艦、飾……!」
そして彼は、いつか夢の中でした時のように、滝から放り出された彼女の手を確かに掴んで、引っ張って、その胸に掻き抱いた。