守るべきもの
1ヶ月後
「団長!間もなくです!!
開門30秒前!!!!」
一人の兵士が合図を送る
「いよいよだ!
これより人類はまた一歩前進する!!
お前たちの訓練の成果を見せてくれ!!」
「オオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
エルヴィンの声に
調査兵団一同が応えた
「開門始め!!
第57回壁外調査を開始する!
前進せよ!!」
士気を高めた調査兵団が一同に駆け出した
この門をくぐれば
巨人が歩き回っている
いつも死と隣り合わせの世界である
特に新兵たちの表情は固かった
それでも進むしかないのだ
(でも、この1ヶ月遊んで暮らしてたわけじゃねぇ)
この壁外調査生き残るための術を
この1ヶ月みっちりと学んできたのだ
(様子がおかしい)
ケイは四列四の位置
つまり陣形の右側後方の中央に近い位置を走行していた
「ルシア班長、何か様子がおかしいみたいですね」
ケイが呟いた
「・・・そのようだな」
「?今のところ何も問題なさそうにも見えますが」
他の班員がそう言った
陣形のほぼ最後尾を走るこの班にはまだ実害はない
むしろ静かに走行できているような気もするくらいだ
すると他の班の伝達係が走ってきた
「口頭伝達です!
右翼索敵が壊滅的な打撃!
右翼の一部が機能してません!!」
「!?」
「ライラ、急いで回してくれっ」
「りょっ了解です!!」
ルシアの指示に従いライラは伝達に回る
(全くわからない女だな
この新兵のケイって奴は)
主に新兵は次列や三列の前の方の
伝達係を任されることがほとんどだ
どんな優秀な奴でもそれは変わらない
『何か様子がおかしいみたいですね』
こんな後方で現場を見てないケイが
煙弾の様子や空気でそれを察知することが
驚きだった
「右翼の索敵が・・・
班長、行ってきてもいいですか?」
ケイはルシアに許可を求める
「な、何勝手なこと言ってんだ!
勝手な行動は命を落とすぞ新兵!!」
「いや、行ってもいいぞ
しかし死に急ぐなよ」
班員を制止してルシアは言った
「ありがとうございます」
ケイは班から離れて前方へ急いだ
「班長!あんな勝手な行動許していいんですか!?
下手したら死にますよ!?」
「あいつの行動はすべて許可しろと
団長から言われている
それにただの新兵ならここの班にはいないだろう」
その旨も分かっておきながら
律儀に許可を取るケイも真面目というか
きちんと班長のオレを立ててくれている
「オレ達はオレ達に課せられた使命を
ただこなしていけばいい
ケイにはケイの役割が多分あるんだろう」
「・・・なぜあんな新兵に」
どうしても納得いかないといった表情だ
「気を引き締めろ
進路がおかしい気がする・・・
いつもと何かが違うぞ」
「あ、あれは・・・」
ケイは遠くから様子を見ていた
奇行種の煙弾が何度も上がっているのは見えたが
「女の・・・巨人?」
遠くに見えるのは通常種よりも
足が早く、近くの兵士には
見向きもせずに大地を駆けていく
女型の巨人だった
「あいつか」
ケイは深くフードをかぶり
一定の距離を保ちながら
その巨人を追いかけた
もう少し走れば
巨大樹の森が見えてくる