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【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】前編

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ヴァイスに連れてこられたホールでは、ノアールがソファーに寝そべって手紙を読んでいる。足音に気づいたのか、ちらっと視線を向けてから、慌てて手紙を服の中に仕舞い込んだ。

「ノアール、部屋で寝てなければ駄目ですよ」

ヴァイスの穏やかな声に、ノアールは気まずそうに視線を逸らす。

「本当に来たんだ」
「蒼雪のこと? ジェネラルが約束したでしょう?」
「モモがすっ飛んでった。多分、ミドリのとこ」
「本当は、ミドリも安静にしていないといけないのですけど。お茶を淹れましょうね」
「俺はいいよ」

そそくさと出ていくノアールの背に、ヴァイスが声を掛けた。

「便箋が入り用なら、いつでも言ってください」

ぎょっとした顔でノアールは振り向くが、無言で足早に出ていく。蒼雪が戸惑っていると、ヴァイスが仕方ないというように微笑んで、

「ご家族からの手紙でしょう。あの子は、ああ見えて気を使いすぎる子ですから、私に遠慮しているのです」
「君に?」

ヴァイスには、両親と兄妹がいるはずだ。身寄りのないモモならともかく、ヴァイスはいつでも連絡が取れるだろうに。
蒼雪の疑問に気づいたのか、ヴァイスは変わらぬ穏やかな笑顔のまま、

「今の私に、家族はおりません」
「え?」
「私は、神に捧げられた身ですから」

けれど、その瞳からは、一切の感情が消えていた。真紅に染まりながらも、一片の熱情も宿さぬガラス玉。
蒼雪が言葉を失っていると、賑やかな声がホールに響き渡った。

「本当だ! 蒼雪だ!」
「ね? 言ったとおりでしょ?」

モモがミドリの手を引っ張って、小走りで入ってくる。二人の姿を目にした瞬間、ヴァイスは感情を取り戻したかのように、穏やかな目で少女達を出迎えた。目を丸くしたミドリは、ヴァイスを振り仰ぐと、

「ジェネラルは?」
「まだ帰っていませんよ。さあ、座って。今、お茶を淹れますからね」
「蒼雪、こっち!」

モモとミドリに手を取られ、テーブルにつかされる。蒼雪は、ニコニコしながらティーカップを並べているヴァイスの手つきに視線をやりながら、先程のガラスの瞳が頭から離れなかった。