【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】前編
空が夕焼けに染まる頃、やっと蒼雪はモモとミドリから解放される。
興奮した二人の相手をするのはいささか骨が折れたが、今まで寂しい思いをさせていたせいだと思うと、振り払うことも出来なかった。
また会いに来ると約束を交わし、ヴァイスに二人を預けて、蒼雪は神の子達の宿舎を出る。
結局、ジェネラルのことを聞きそびれたな。
彼らの口振りから、ジェネラルが頻繁に出入りしているようだと推測したが、それを確かめる余裕もなかった。
もっと頻繁に会いに来た方がいいのだろうか。
けれど、以前に言われた「お互い辛いから」という言葉も理解できる。まだ蒼雪は出動停止になったことはないが、自分のせいでモモが倒れることになったら、平静でいられる自信がなかった。それに、ノアールの非難めいた瞳、ヴァイスの熱情を失った瞳と同じ視線を、モモに向けられたら。
ふっと息を吐き、蒼雪は自分の部屋へと向かう。
考えても仕方がない。自分は、異形と戦うことが役目だから。
部屋の扉を開けたら、ベッドに腰掛けたジェネラルが、退屈そうな目を向けてくる。
「おかえり」
「・・・・・・何をしている」
蒼雪の苛立った声に、ジェネラルは肩を竦め、
「君は僕のことが気になるみたいだから、待っててあげたんだけど? 嬉しい?」
「ふざけるな。さっさと出ていけ」
「ミドリは元気だった?」
虚を突かれて、蒼雪は素直に頷いた。モモと二人、声を上げて転げ回っていた姿を思い返す。
「そう。あの子はモモの親友だから、起きてくると思った。興奮させすぎたから、今夜は発作を起こすかもね」
さらりと言われて、蒼雪はぎくりと身を堅くした。ミドリは体が弱くて、紅葉が出動停止になることはしょっちゅうだと、今更思い当たる。
「医療班に」
「グレイが見に行ってる。それに、本気でやばかったらヴァイスが止めてるよ。ノアールは? 部屋に籠もってた?」
「・・・・・・手紙の返事でも書いてたんだろう」
蒼雪の返答に、一瞬ジェネラルの表情が陰った。口を開きかけ、思い直したように肩を竦める。
「そう。あの子、照れ屋だから。聞きたかったのはそれだけ。じゃあね」
横を通り過ぎようとしたジェネラルの腕を、蒼雪はとっさに掴んだ。
「何?」
「ヴァイスは?」
真紅の瞳が、ゆっくりと蒼雪の顔を眺め回す。感情のない、ガラス玉のような瞳。
「サイレンスは、人を癒すことが出来る」
紡がれたのは、予想外の言葉だった。
「でも、その力を、他の神の子の為に使うことは禁じられた。あの子が倒れてしまったら、元も子もないからね」
淡々と続く言葉に不吉なものを感じ、蒼雪はそろそろと手を離す。
「突然家族と引き離されて、閉じこめられて、仲間は次々と倒れていくのに、助けることを許されなかった十歳の子供が、正気を保てると思う?」
吐き出すように、ジェネラルは付け加えた。
「あの子は、「最初の神の子」なんかじゃない。哀れで惨めな、籠の鳥だ」
作品名:【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】前編 作家名:シャオ