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【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】前編

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「おはよう、ノアール。夕べは良く眠れましたか?」

ヴァイスの呼びかけに、ノアールは不明瞭な呟きを漏らして、コーヒーの入ったカップを受け取る。その後、食卓に座っている蒼雪に訝しげな視線を向けてから、食堂を出ていった。蒼雪は、ちらちらと食堂の扉に視線を向け、

「彼は、食べない、のか?」
「大丈夫、部屋に運んでありますから。一人で食べる方が落ち着くとかで。そういう年頃なんですよ」

ヴァイスはふわりと笑顔を浮かべ、モモに紅茶にするかオレンジジュースにするか聞く。

「ジュース! ねえ、食べたら、ミドリに会いに行ってもいい?」
「会うのは難しいかな。でも、手紙を書きましょうか。早く元気になるように」

モモは元気良く頷くが、蒼雪は落ち着かなかった。夕べからミドリは体調を崩し、別室へ移されている。ジェネラルの、「発作を起こすかも」という予言が、当たってしまったのだ。

朝、シアンから、シザーズが出動可能になったことと、紅葉は継続して停止されることが告げられると、シザーズと紅葉に、サイレンスまでもが、一斉に蒼雪へと視線を向ける。探るような眼差し、刺すような視線、不安げな瞳・・・・・・。蒼雪は耐えきれずに、保管庫の状況を確認してくると言い訳して、その場を逃げ出した。
保管庫の職員と言葉を交わし、戻ろうとして、ふと礼拝堂へと足を向ける。中では、ヴァイスが一人で祈りを捧げていた。朝の礼拝だと言うヴァイスに、蒼雪がミドリのことを謝ると、何故か朝食に招待される。一度は断ったものの、伏せられた赤い瞳がモモと重なって、結局、蒼雪は食堂に座っているのだ。

「モモ、ジャムと蜂蜜、どっちにする?」
「ジャムがいい!」

ヴァイスが焼き上がったトーストにジャムを塗るのを、ぼんやり眺めていたら、

「蒼雪が謝ると、モモも同じ罪を背負うことになります」

突然言われて、蒼雪はびくっと身を震わせる。モモがきょとんとした顔で、蒼雪を見上げてきた。

「蒼雪は悪いことしたの?」

蒼雪が口を開くより早く、ヴァイスの穏やかな声が響く。

「いいえ、何も。だから、謝らなくていいと言っているのですよ。さあ、お祈りをして。サラダも食べましょうね」

モモは短いお祈りの言葉を呟き、胸の前で聖印を描くと、トーストにかぶりついた。

「ヴァイスは、食べないのか?」

話題を変えようと、蒼雪はぎこちない声で聞く。ヴァイスの前には、水の入ったコップしかない。

「ヴァイスは、お祈りしてるの」

今度はモモが口を開いた。口の中のトーストを、オレンジジュースで流し込む。

「ミドリが早く良くなりますようにって。私もするって言ったんだけど、大人しか駄目なんだって」
「そう。モモもノアールも、まだ成人していないでしょう? いっぱい食べて、大人になったら、ね」

笑顔で告げられた言葉の意味に気がついて、蒼雪は身を堅くした。
ヴァイスは、誰かが体調を崩す度に、断食しているのだ。その間も、サイレンスは出動している。それが、彼にとって、どれだけの負担になるか。

「ヴァイス、それは」
「ノーアルは、私に気を使いすぎるのです」

ヴァイスは目を伏せ、ぽつりと呟く。

「私は、辛いと感じたことなど、一度もないのに」

その言葉に、蒼雪は食堂の入り口を振り返った。
昨日は手紙、今日は食事。ノアールには当たり前にあることが、ヴァイスにはない・・・・・・。
突如、サイレンが鳴り響く。異形が出現した合図。
蒼雪は、サッと立ち上がり、素早く食堂を出ようとして、モモの不安げな視線に気がついた。

「モモ」
「蒼雪、気をつけてね。ごぶうんを」
「ご武運を」

モモとヴァイスは、胸の前で聖印を描く。蒼雪は一度頷いて、食堂を飛び出した。