【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】前編
空が白んできた頃、ジェネラルは微かに呻きながら目を開けた。真紅の瞳が、ゆっくりと辺りを見回す。
「起きたか」
蒼雪が声を掛けると、顔だけを向けて、
「暇なの?」
と言った。
「何だ、その言い種は」
蒼雪が苛々した口調で言い返す。ジェネラルは再び天井を見上げて、長く息を吐いた。
「サイレンの音は聞こえなかった」
「鳴ってないからな」
「でも、異形は出たよ」
その言葉に、蒼雪はギョッとして腰を浮かす。だが、直ぐに小さなクスクス笑いが聞こえてきた。
「嘘」
「ふざけるな」
「君は騙されやすい」
「悪かったな」
蒼雪がふてくされてそっぽを向くと、また小さく笑う声がする。
「僕の言葉を信じてくれるのは、君だけだ」
蒼雪が訝しげにジェネラルを見ると、ジェネラルは顔を向けて、ふわりと笑みを浮かべた。いつもヴァイスが浮かべるように。
「今日は大人しくしているよ。大丈夫。だから、ノアールの様子を見てきてくれない?」
「ノアールの?」
「待ち伏せのこと、気にしてる。あの子は途中で気づいただろうけど、知らせる手段がなかった。ノアールのせいじゃない。そう伝えてきて」
「・・・・・・分かった」
「ありがとう。恩に着る」
ジェネラルはそう言って、壁側に寝返りを打つ。広い背中を見つめながら、蒼雪は今し方のジェネラルの笑顔を思い出していた。
・・・・・・あんな風に、笑うんだな。
ふと、自分の頬が熱を持っているのに気がつき、慌てて立ち上がる。
「い、行ってくる、から。大人しく、寝てろよ。何処にも行くな」
「ん」
短い了承の言葉に、それでも蒼雪は安堵して、静かに部屋を出た。
作品名:【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】前編 作家名:シャオ