【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】後編
「ノアールとヴァイスも、別の支部から来たんだ。ノアールはミドリの血縁だから、側にいれば心強いだろうと。ヴァイスはノアールの強い希望で。一番懐いていたからね」
三人にそんな結びつきがあるとは知らなかったと、蒼雪は思いを巡らせた。天涯孤独となったモモは、ここでも部外者なのだろうか・・・・・・。
「モモは、ミドリの親友だ。あの二人は、双子のように仲がいいよ」
グレイの言葉に、蒼雪はハッと我に返る。そんなに顔に出ていたかと、自分の頬を撫でた。グレイは小さく笑って、話を続ける。
「シアン支部長を指名したのも、ミドリの父親だ。元はバーミリオン支部で補佐官をしていたのだけれど、人柄を買われたらしい。支部長が急速に改革を進められたのも、ミドリの父親の財力があったからだな」
壊滅した支部の名に、蒼雪は身を堅くした。唐突に、傷ついたサイレンスと、神の子の少女の姿が脳裏に蘇る。
「あの、サイレンスは」
「落ち着いてはいるんだけどね。まだ意識は戻らないようだ。もっとも、人形は分からないことばかりで」
くすんだ灰色の髪を揺らし、グレイは溜め息をついた。
「サイレンスが動けないと、こっちもかなりの痛手だ。彼女に頼りすぎてはいけないと分かってるけど、彼女がいれば、助かる命は格段に増えるから」
「一緒に保護された子は・・・・・・」
「あの子も、まだ。全力は尽くしているが、後は本人次第かな・・・・・・」
グレイは再び溜め息をつく。サイレンスさえいれば、そう考えているのは明白だった。
『ヴァイスは十四年間、倒れたことがない』
その意味が、重みが、蒼雪の胸に迫る。そこまで追いつめたのは自分達だと言った、シアンの苦悩も。
「ヴァイスが無事ならば、サイレンスもいずれは動けるようになるのでしょうか?」
蒼雪の質問に、グレイは髪を撫でつけながら、
「そう。そうだと思う。多分。ただ、こういうケースは、今までなかったから。ヴァイスも、どこまでが空元気なのか、分からなくて。蒼雪からも、良く言ってくれ」
「私、が?」
「最近、仲いいみたいじゃないか。さっきも、モモを迎えに来た時、蒼雪のことを聞いてったし。モモが会いたがってるのは勿論だけど、ヴァイスも同じ気持ちじゃないかな」
グレイの言葉は、蒼雪には意外だった。ジェネラルを慕っているのは聞いていたが、自分とは、モモを通してしか関わってこないのに。
「・・・・・・分かりました。言っておきます」
「そうしてくれると助かる。サイレンスのこともあるけど、それ以上に、ヴァイスは皆の支えであり、希望なんだ。『最初の神の子』なんて、言われてさ」
グレイは顔を背け、口の中でもごもごと呟く。蒼雪は聞こえない振りをして、グレイに別れを告げ、医務室を出た。
扉を閉める前に振り向くと、年若い医者は俯き、机上の書類をかき回している。
『クソくらえだ』
吐き出すような呟きは、誰に向けたものだったのだろう。
作品名:【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】後編 作家名:シャオ