【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】後編
暖かな日差しが注ぐ庭園では、年齢も性別もまちまちな人々が、思い思いの体勢でくつろいでいる。
此処は、病後の安静を医師に命じられた患者が、穏やかな気候と、バランスのいい食事と、完璧な世話を求めて集まる療養所だ。目の玉が飛び出るほどの金を搾り取られるが評判は上々で、今から入所を希望する者は、長い長い順番待ちの列にうんざりさせられることだろう。
「天気のいい日は、皆さんこちらにいらっしゃるんですよ」
白いエプロンをつけた女性は、恰幅のいい体を揺らしながら、思いがけない早さで芝生の上を歩いていった。その後ろから、蒼雪が遅れないようついてくる。
「旦那さんは、お忙しいのでしょうか?」
一瞬、誰のことを言っているのか戸惑ったが、すぐに自分の目的を思い出し、蒼雪は神妙に頷いた。
「申し訳ありません。何せ、シアンさんがいなければ、仕事が回りませんので」
「まあ、いいんですのよ。あの方も、旦那さんのお仕事を、とても誇りに思っているんですから。息子さんも、同じお仕事だとか?」
「ええ・・・・・・はい、まあ」
「お勤めの場所は違うのでしたわね? まあまあ、親子で国の為に身を削っていらしてるのですから、私達、本当に感謝しておりましてよ」
蒼雪は、相手の言葉に微笑みながら、顔に出ていなければいいがと冷や冷やする。
ジェネラルの件で説明を求められた時に、シアンの名刺を一枚抜き取っておいたのだ。そして、聞かされた住所を頼りにこの療養所へ向かい、受付で名刺とジェネラルが告げた名を口にし、面会を申し出る。自分はシアンの部下だと説明したら、相手は何の疑いもなく、案内を買って出てくれた。
嘘は、ついていない・・・・・・から、な。
相手は気づいていないのか、偽りに慣れているのか、ほがらかな声で目当ての女性に声を掛ける。
「マルーンさん、旦那様のお知り合いの方が面会に来ましたよ」
椅子で編み物をしていた女性は、顔を上げて明るい笑顔を見せた。
「まあ、シアンの? 嬉しいわ。どうぞ、お掛けになって」
赤みがかった金色の髪、濃い緑の目。北の地方出身だと示す外見。ノアールの両親とは逆だなと、蒼雪はぼんやり考えた。
案内の女性が行ってしまうと、マルーンは、バーミリオン支部の人かと聞いてくる。蒼雪は一瞬ギョッとしてから、すぐに平静を装い頷いた。
作品名:【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】後編 作家名:シャオ