【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】後編
「やあ、蒼雪。もう動けるのかい?」
疲れた笑顔で、シアンが机の向こうから声を掛けてきた。僅か一日で、十歳は老け込んだように見える。撫でつけた黒髪に、幾筋もの白が混じっていた。薬指に光るリングに目を留めた蒼雪は、ジェネラルの言葉を思い返す。
『あっちも、色々抱え込みすぎてるから』
全員出動停止という決断は、どれだけの波紋を広げただろう。彼が最後に自宅に戻ったのは、一体何時のことだろうか。
「お疲れのようですね」
蒼雪の視線に気づいたのか、シアンは指輪に目を落として、
「さあ・・・・・・僕よりも、僕の周りのほうが、余程疲れているよ。僕は実に頼りないからね。支部長としても、夫としても」
乾いた笑いをあげる相手に、蒼雪は首を振った。
「貴方が支部長で、幸運です」
シアンはぼんやりと視線を宙に向けてから、「もしもの話だけど」と呟く。
「モモが目の前で異形に襲われてて、君には助ける手段がなくて、助けられるはずの者達は都合で来られませんと言われたら、蒼雪は納得するかい?」
蒼雪は身を堅くして、シアンを見つめた。その例え話が荒唐無稽なことではないと、分かっていたから。
今、異形が出現しても、誰も助けに行けない。
「・・・・・・僕の決断は、誰かを不幸にする。確実に」
「ですが」
蒼雪の言葉を、シアンは手で遮った。
「君が動けるということは、モモは大分回復したということだね。ヴァイスが医務室へ連れていってくれたんだ」
ヴァイスの名前を出されて、蒼雪はハッとする。サイレンスがあれだけのダメージを受けたのだから、彼も無事では済まないだろう。
作品名:【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】後編 作家名:シャオ