【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】後編
「ヴァイスは? 意識は戻りましたか?」
「戻るも何も、あの子は自分の足で、君達を出迎えたじゃないか・・・・・・ああ、蒼雪は知らないか」
その言葉が意味することに、蒼雪は絶句した。その様子に、シアンは悲しげに首を振る。
「あの子はね、一度も倒れたことがないんだ・・・・・・この十四年間、一度も。今だって、常人なら息をするのも辛いだろうに。あの子をそこまで追い込んだのは、我々だよ」
シアンの暗い瞳に、ヴァイスの感情を失った瞳が重なった。
『私は、神に捧げられた身ですから』
抑揚のない声が、耳の奥で響く。
「ヴァイスは・・・・・・今・・・・・・」
「礼拝堂にいたから、ベッドに押し込んでおいた。支部長命令だと言ってね。思いの外素直に聞き入れてくれたよ」
蒼雪は、安堵と腹立たしさを同時に覚え、ぎこちなく頷いた。ヴァイスが礼拝堂にいたのは、皆を案じてのことだろう。けれど、こんな時くらい、自分の身を一番に考えてもらいたいところだ。
シアンは、またぼんやりと視線をさまよわせる。
「・・・・・・あの子達は、何時になったら解放されるのだろうね」
「え?」
「家族から引き離され、隔離されて、辛い目に遭わされて。「神の子」なんて、実際は異形への生け贄じゃないか」
「支部長」という立場にはふさわしくない言葉に、蒼雪はシアンの抱える苦悩を垣間見た気がした。シアンは眉間に皺を寄せ、虚空を睨みつける。
「それでも、彼らの力を借りなければ、異形に蹂躙されるだけだ。僕らは皆、共犯なのかもしれない・・・・・・」
作品名:【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】後編 作家名:シャオ