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No.017
No.017
novelistID. 5253
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ピジョンエクスプレス

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 彼らの知り合いだったのか、とカケルは思った。
 そうしている間に三人を待たせていた男が到着した。一番背の高い男が怒鳴り散らし、眼鏡の男がまぁまぁと怒りを静めた。遅れてきた男は気にする様子もなく無表情で無反応だ。なんだかぼーっとした人だなぁとカケルは思った。そして、一番小さな男が三つ子をつれて合流した。
 するとちょうどよく時計台がボーンボーンと鳴って朝六時を告げた。同時にギィーと音を立てて駅の門が開く。どこからかアナウンスが聞こえてきた。

「皆様、本日は朝早くからようこそお集まりくださいました! 列車はこれより十分後に出発いたします。お早目の乗車をお願いいたします」

 にわかに群集が動き出した。
 駅の構内を見るとそこには黒く光る列車らしきものが見える。あれがイベントに使う車両なのだろうか。カケルはもっとよく見ようと背伸びをした。

「おい、アンタ」

 突然、七人組の一番背の高い男が声をかけてきた。あの怒鳴っていた男だ。
 僕? と言わんばかりに自分に指さすカケルに男は続けた。

「早くしないといい席とれないぜ」

 そして、男は強引にカケルの腕をつかんだ。

「な、何するんですか!」
「お前を見ていてうっかり乗り遅れるんじゃないかと心配になってきた。オレ様がいい席にエスコートしてやるから付いて来い!」
「ちょ、ちょっと!」

 戸惑うカケルを男は気にも留めない。
 男に引っ張られながら後ろを見ると一番小さな男が申し訳なさそうにこっちを見た。眼鏡の男はやれやれという顔をした。遅れてきた男は無表情のまま黙っていた。
 背の高い男が叫ぶ。

「おい、三つ子! お前らひとっ走りして席とっておいてくれ。一番前八人分な」

 すると三つ子のうちの二人が目を輝かせた。

「よーし! どっちが早くつくか競争な!」
「今度は負けないぞ!」

 二人は群集をかきわけものすごい勢いで走り出した。

「ま、待ってよう!」

 残された一人も走り出した。

「よっしゃ、行くぞ」

 背の高い男はカケルの腕をつかんだままぐんぐんと群集をかきわけて進んだ。カケルは抵抗できないままどんどん群集の中を進む。そして、とうとう列車の前に立ったのだった。
 さらに、列車を見てカケルは驚いた。黒く光って見えていた列車は蒸気機関車だったと知ったからだ。今どきこんな旧世代の乗り物がコガネシティにあろうとは。

「最新のリニアに対して、こっちはレトロに蒸気機関車、おもしろい趣向じゃないですか」

 眼鏡の男が納得したように言った。
 蒸気機関車かぁ、写真では見たことがあったけれど…カケルが感心して眺めていると、背の高い男がまだ叫んだ。

「さあ、乗った乗った! 三つ子が席とって待ってるぜ」

 結局、背の高い男に無理やり席に座らせられたカケルは、この七人組と同席することになってしまった。
 席は真ん中の通路を隔てて二人分ずつ並んでいる形式だ。さらに、1列目と2列目、三列目と4列目…という風に席が向かい合っている。
 そして、一番前の右側の向かいあった席にカケル、背の高い男、眼鏡の男、そして小さな男、左の向かい合った席には遅れてきた男と三つ子が座った。
 なんだかおかしな展開になってしまったなぁとカケルは思った。そんなカケルをよそに車内アナウンスが入る。

「えー、全員ちゃんと乗りましたね?乗れてない人は手を挙げてください。はい、いませんねー。それではこれより出発いたします!」

 マイクの切れる音と同時にプシューっと列車の扉が閉まった。

 ポオォォォッーーーーーーーーーーーーーーーー! 

 威勢よく汽笛が鳴って蒸気が噴出す。

 シュシュシュシュシュシュシュ…

 カケルの席に振動が伝わってきて列車が動き出した。

「皆様、本日はご乗車誠にありがとうございます」

 ガタンガタン、ガタンガタン。
 ゆれながらどんどん速度が増していく。
 そして、アナウンスが続けた。

「”特急ピジョン”の旅、どうぞごゆうるりとお楽しみくださいませ」




6.車掌

 窓は風景を切り取る額縁だ。車窓はその風景がテレビアニメの動画のようにどんどんどんどん変化していく。
 やがて車窓の風景は市街地から牧場へと変わってきた。若い緑の風景が一面に広がる。その中にピンクと茶色の点がまばらに散らばっている。あれはミルタンクとケンタロスだ。

 ポオォォォッーーーーーーーーーーーーーーーー! 

 列車はますます煙をあげて速度を増していく。一同はしばし、車窓の変化する風景に見入っていた。

「すっげー!」
「速いねぇ」
「僕らとどっちが速いかな」

 席に座ってぼーっとしている遅れてきた男をよそに三つ子は身を乗り出して外の風景を眺めている。

「こらこら、あんまり窓から頭出しちゃいけませんよ」

 本を読んでいた眼鏡の男がそれに気が付いて注意した。

「もう、あなたもこの子達と同じ席ならちゃんと監督してくださいよ」
「………」

 遅れてきた男は無言で無表情だ。聞いていないのかもしれない。

「…あなたに期待した私がバカでした」

 眼鏡の男はあきらめて、また本を広げて読み始めた。

「うおーすっげー! 速いなぁ!」
「速いですねぇ」

 見ればこっちの席の背の高い男と小さな男も窓から身を乗り出している。

「ちょ、ちょっと、あなたたちまでそんなことやってるんですか。特にそこ、窓から首を伸ばしすぎです。どうなっても知りませんよ」
「うるせえなァ、だいたいお前はテンション低すぎなんだよ。もっと楽しめよ」
「余計なお世話です。私は私なりに楽しんでいるのです」

 背の高い男に返されて、眼鏡の男はむっとした様子だったが、また本を開いて読み始めた。
 カケルはカケルで彼らの観察を楽しんでいた。まったく騒がしい人たちだ。それによく見てみれば格好もなかなか個性的だ。眼鏡の男は5月だというのに厚手のセーターを着込んでいるし、背の高い男は髪を赤く染めていた。来ているジャンパーの襟はふさふさの毛に包まれている。なんだか旅先でバトルした暴走族みたいだ。町の裏道でこんなのにからまれたら怖いだろうなぁ…。
 それに比べると小さな男はきわめてノーマルだ。 ニ人が個性的過ぎるのかもしれないが。
 カケルがそんなことを考えていたら、今度は目の前の運転席の扉が開いてこれまた派手な男が顔を出してカケルは驚いた。耳がやけにとがっていて、濃いピンク色に染まったロングの髪は後ろで一つに結んでいる。目から頬にかけて歌舞伎役者の隈取のような黒いペイントがしてあって顔のほうもなかなかの美形だ。ビジュアル系とでも言えばいいのだろうか。
 男はこちらの目線に気が付ついたらしくにっこりと微笑んだ。

「楽しんでおられますか」
「…は、はい」

 カケルは緊張しながら返事をした。同時に車内アナウンスはこの男の声であると理解した。座席のメンバーも彼に気が付き、注目する。

「誰だいアンタ」

 切り出したのは背の高い男だった。

「この列車の車掌をしております」

 男はそう言うと鉄道員であることを示す帽子を頭にかぶった。

「…ふうん」