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No.017
No.017
novelistID. 5253
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ピジョンエクスプレス

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 ポオォーーーーーーーーーーーーーーーーーーォ! 

 カケルたちだけになった列車は威勢良く煙を噴き、雲の上に敷かれたレールの上を勢いよく走る。雲の成分が、なみのりをする水ポケモンが上げる水しぶきのように上がった。
 カケルはさっきからあのホームを見守っていた。小さな男と他の乗客が降りたホームはもう豆粒のようになってしまっていた。
 客のいなくなった車内は静まり返っていた。カケル以外のメンバーもしばらくホームのほうを見守って、しばらくは誰も話そうとしなかった。(遅れてきた男はあいかわらずだったが)

「とうとう私たちだけになってしまいましたね」

 沈黙を破ったのは眼鏡の男だった。
 それを合図に各々は一旦窓から首をひっこめて席に着いた。それを見て車掌が待っていたとばかりに言った。

「ポッポ駅以降は、みなさまの貸切となります。今回の旅も残り少なくなってまいりましたが、どうぞ最後までお楽しみください」
「ふん、いよいよ大詰めか。めんどうなことに付き合わせやがって」

 と、背の高い男が言った。

「まぁまぁ、この旅は最後が見ものなのです。ここまで来た以上は最後までつきあいましょう」

 と、言って背の高い男をなだめたのは眼鏡の男だった。なんだかこの二人はこの旅の結末を知っているような口ぶりだった。
 カケルは隣の席を見た。三つ子たちが窓際で何やら話しこんでいた。カケルは聞き耳を立てた。三つ子たちは

「まだかな」
「もうすぐだよ」
「はやくしろよ」

 と、言っていた。三つ子たちもやはりこれから何が起こるかを知っているらしかった。
そして視線をシフトさせ、遅れてきた男の様子も見る。男はあいかわらずの様子だったが、おそらく彼も知っているんだろうな、と、カケルは思った。
 そして、カケルは車掌の顔を見上げた。視線に気が付いて車掌はにっこりと微笑む。カケルは車掌に問うた。

「車掌さん、僕たちはどこへ向かっているのですか」
「おのずとわかりますよ」

 と、車掌は言った。
 カケルはつづけて聞いた。

「では、これから何が起こるんですか」
「風が吹きます」

 と、車掌は言った。

「風?」
「そう、風です」

 車掌はそこまで言うと、濃いピンク色の長い髪をたなびかせて進行方向を向いた。そして、

「窓から進行方向を見てごらんなさい」

 と、続けた。
 カケルは席を立ち窓から顔を出すと、進行方向を見た。なにやら進行方向に、あの雲に浮かぶ駅のように浮いているものがあることに気が付いた。

「あれは鳥居です。赤い鳥居」

 車掌が説明する。

「鳥居…? いったいなんのために」
「別に深い意味はありません。我々にとっては目印のようなものです」
「目印ですか」
「ええ、あそこまで行くと、大きな風が吹く」
「風が吹いてどうなるんですか」

 だんだん近づいて形があらわになる鳥居を見ながらカケルはさらに問い詰めた。

「貴方の望みが叶います」

 車掌はにっこりと笑って答えた。

「望みが叶う?」

 意外な返答にカケルは神妙な顔をして車掌を見つめた。

「そうです。あなたはずっとこのときを待っていたじゃないですか」
「待っていたって…何を」

 カケルがそこまで言うと、黙って聞いていた同乗者たちが一斉に口を開く。

「そう、あなたはずっと待っていた」と、眼鏡の男が言った。
「なかなかそのときがこないんで、何度も聞かれて困ったよなぁ」と、背の高い男。
「先輩に、今はまだ時期じゃないって言われてたよね」
「うん、言われてた」
「言われてたねぇ」と、三つ子たち。
「……」と、遅れてきた男。

 カケルはびっくりして皆を見つめた。なんでこの人たちがそんなことを知っているのかと。
 さらに、車掌が続ける。

「手違いでね、今まで"彼"のもとに切符が届かなかったのです。だから、今までお待たせすることになってしまった。カケル様にも"彼"にもとんだご迷惑をおかけいたしました」

 車掌は帽子を取るとそれを胸にあててお辞儀した。

「この列車には本来、私たちの種族しか乗れないことになっているのですが… せめてものお詫びにカケル様とお連れの方々をご招待いたしました」

 ポォオーーーーーーーーーーーーーーー! 

 列車が鳥居の横を通過したのはその直後だった。
 次の瞬間、カケルの背後、窓の外をぶわっと風が、大きな風が吹いたのがわかった。
 車掌が声を上げる。

「さあ、風が吹きましたよ! 窓の外を、風が吹いてくる方向を御覧なさい!」

 カケルは再び窓の方向を向くと、窓の外に身を乗り出した。
急激な、だけどどこか優しい風がカケルの髪をなぜる。風は列車の進行方向と同じ方向に吹いていた。それは、さっき大勢の乗客を降ろしたポッポ駅のほうから吹いているようだった。

 カケルは風の生まれる方向に眼をこらした。
 すると無数の影が大きな群れをなしてこちらへ近づいてくるのが見えた。影たちは風に乗って、すいすいとこちらに向かって飛んでくる。
 カケルはその影に見覚えがあった。

 それは、自分がはじめて捕まえたポケモンのシルエットだった。ずっと一緒に旅をして、バトルにはいつも一番に出して、見慣れたシルエット。
 カケルは叫んだ。

「ポッポだ! ポッポの群れが近づいてくる!」

 そして影が、ポッポたちがカケルの目の前を通過しはじめた。カケルはポッポ達を目で追いかける。

 そして、先頭のポッポが列車の頭を追い越したそのとき、その身体が光を纏ったかと思うとぐんぐん大きくなって――

「ピジョーーーーーーーーーーーーーッ」

 と、雄たけびを上げ光を弾いた。
 光を弾いた時に見えたその姿は、もはやポッポではなくなっていた。

 そして、後に続くポッポたちが、次から次へと列車を追い越して、同じように光を纏ってゆく。さらに、背後から聞き覚えのある声が近づいてきて、カケルははっと後ろを見た。

「クルルゥッ!」

 声の主は風に乗ってカケルの横を通過したかと思うと、またたくまに列車の頭を追い抜いた。
 それはカケルが旅の苦楽を共にしたパートナーであった。

「アルノー!」

 カケルが叫んだときアルノーもまた光を纏った。両翼が左右にぐんぐんと伸び、扇を開くように尾羽が開く。短かった冠羽が笹の葉のように伸びてたなびいた。そして、ぱっと光をはじいた時には、もうピジョンの姿になっていた。 大きな翼でより多くの風をとらえたアルノーは列車をさらに引き離した。

 そして、なだれ込むように後陣のポッポたちが後に続き、光を纏ってゆく。光が飛散し、あちらこちらから進化の喜びを表現する雄たけびが上がる。

「大変お待たせしました。次の駅はピジョン、ピジョンになります」

 列車内に車掌のアナウンスが響いた。
 ピジョンたちが飛び交う列車の進行方向に、雲に浮かぶ次の駅が小さく見えてきた。




13.次の駅で

 すべてのポッポが列車を追い越したころ、列車は減速しはじめた。それはまた次の駅に列車が止まると言うことであり、もうこの旅が終わるということを意味していた。