ある夜の不毛なる攻防
寝台の上で居住まいを正したプロイセンは、息を大きく吐き、鼻をぐずぐずと鳴らしながら、汗や涙でぐしゃぐしゃの顔を寝巻の袖でぬぐった。
彼の傍らには寝落ちしたハンガリーが無防備に肢体を投げ出している。
結局、プロイセンは注ぎ込まれる恐怖に打ち勝てず、彼女を跳ね除ける事も出来ないまま、ハンガリーが睡魔に負けるまでの小一時間、苦行を味わった。
人をわっしゃわっしゃと撫でながら耳元で延々続く恨み言。まさに真綿で首をじわじわと締め上げられるような苦痛。誰かに愚痴ろうにも情けなさ過ぎて愚痴れやしない。それなのに、この珍事の報告、どうしてくれよう。
なんだか色々な思いを十二分に込めて、プロイセンはもう一度深く息を吐いた。疲れた。それに尽きる。
動悸も徐々に治まり落ち着いてくると、冷や汗で肌に張り付いた寝巻が不快になってきた。
夜の肌寒さに身震いしながら、プロイセンは寝台からそっと降りる。無論、ハンガリーを起こしたらなんか怖そうだからである。ど畜生。
自分の気持ちの落とし所をどうしてくれようかと悩みながら、プロイセンは着替え終えた。
奪われた寝台の上、すうすう眠るハンガリーが視界の端にどうしても入ってくる。
シーツに広がる金の髪。自分に比べて細く華奢な四肢。そのくせふっくらとした頬や体つき。それら全てが今は静かに息づいて、まるで絵に描いたような可憐さだ。
そしてその可憐さに反比例した行動力と所業を、プロイセンは今さっきまで、心底味わわされたばかり。
女帝は、ハンガリーの事をお転婆と、まあ可愛げのある表現をしたらしいが、控えめにみなくてもじゃじゃ馬である。
どうやらプロイセンへの八つ当たりしか頭に無かったようだし、朝になれば流石に勝手に帰るだろう。それはいい。が、それまでをどうするか。
ハンガリーが目覚めるか、夜明けまでこの部屋に鍵をかけ、見張っておく。それが一番いいのはプロイセンにもわかる。わかるが正直、面白くない。それではやられっぱなしではないか。
抜き足差し足で寝台に近づき、ハンガリーの様子を観察する。よく見ると眠りながらも眉間に強烈な皺を作っていて、夢の中でまで怒っていそうだ。
恐る恐る頬をそっとつついてみる。起きない。今度は若干強めにつく。さっきの冷たさが嘘のように暖かくて、ぷにぷにしていて、さわり心地が実に気持ちいい。ではなく。
これで起きないのなら、慎重に扱う分にはハンガリーは眠ったままだろう。ならばやる事はひとつ。
仕返しだ。
ハンガリーの襲撃を受けて以来、悄然としていたプロイセンの相貌が活力を取り戻す。
こんな馬鹿げてやたら疲れる夜襲に、最もふさわしい復讐を。
作品名:ある夜の不毛なる攻防 作家名:on