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妖アパ 千晶x夕士 過去捏造

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翌日、携帯を見ると、メールの着信が入っていた
差出人を見ると、『千晶センセ』の文字
開いて内容を確認すると、「帰ってきたのなら連絡しろ」と一文のみ

「いやぁー、今しようと思ってたんだって!」
液晶画面に向かって返事をしたところで、相手に伝わることもなく…

連絡しようと発信ボタンを押して、俺はすぐに切った
思い出したのだ。半年前のことを
正確には、半年前の"千晶とのやり取りのこと"を、だ

『稲葉、帰ってきたら、もう一度お前に伝えたい』

千晶に逢ったら、何て返事をすればいい?
まだ俺の気持ちは明確な答えを出していない

キスまでしておいて、何も答えられないとは男らしくない

古本屋との四年間の旅路で、奇想天外な出来事や、地元集団との激戦を潜り抜け
気力、体力、精神力は成長をしたと感じている

しかし、色恋沙汰に関しては初心者だ

異性(無論、同性も!)とお付き合いしたことはない
もちろん初恋もまだだと思う(幼少期は覚えていない)

俺は握っていた携帯を一旦机の上に置いて、「さて、どうするかな」と思案した



結局グダグダと考えているうちに、メールを受信してから二週間が過ぎていた

二週間ずっと千晶のことを考えていた訳ではない
実は、旅行中にアップしていたブログを「本」にしないか?と誘いを受け
帰国早々に計画が進行していた

素人の旅行記だが、生活感溢れていて面白いとの評価を受けての結果だ
担当編集者との挨拶やら、コンセプトなど、基本自由気ままな一冊にしたい旨を伝え
朝から出版社へ出向き、アパートへ帰る頃にはクタクタになっていた

「あら、新人作家様、おかえり〜」と詩人が縁側で酒を飲みながらニヘラと笑った
「ただいまっス」
体力には自信はあるが、長時間の慣れない打ち合わせに疲労感を隠し切れない

詩人の隣に座ると、るり子さんが熱燗を用意してくれた
一口飲んで「うーーー五臓六腑にしみるーー」と唸ると、「そうだ、夕士くん」と
詩人は"今思い出しました!"とい表情で、ニヤニヤ笑いながら話しかけてきた

「昼間、千晶センセから電話があったよ〜」
「え?!」
「なんかね〜、携帯に連絡しても繋がらないって言ってたけど〜」

俺はカバンの中の携帯を手に取ると、充電が切れていた

「戻ったら連絡が欲しいって伝言受けたけどぉ〜」
チラリと覗き込まれ、「ウッス、ちょっと電話してくるッス」
その場を慌てて離れ、自室へ入った



少し短いが充電ケーブルを伸ばしつつ、千晶の携帯番号を発信した
3コール、4コール…
運転中かもしれないし、着信が取れる状態ではないかもしれない
10コール目で無機質な留守番電話サービスが起動する直前でガタガタガタ…と
携帯を落とす音が聴こえた

「ん?千晶??」
耳を澄ますと、ガサガサと音が聞こえ『ちょっと待て』と小さく声が聞こえた

暫く待つと『すまん。稲葉』と少し息切れで千晶が出た

「かけ直した方がいいか?」
『いや、大丈夫。』
「そっか。今日はわりーな、充電切れだった」
『毎日充電しとけよぉ〜』
「いやー、ついつい忘れちゃって」
『忙しいのか?』
「まーね。」
『メールの返事も送信できないぐらい?』
「いや…それは別って言うか…」

シドロモドロ答えると、千晶は『つれないわね、ダーリン』と拗ねた口調で答えた

『逢いたい』
「お…おう」
『今から…ダメ?』
「え?今?!」
『迎えに行く』
「まぁーいーけど…」
『着いたら連絡するから』
「わかったけど、安全運転で来いよな」
『りょうーかい、ダーリン』



電話を切って、30分もしない内に千晶は本当に来た
詩人に「外泊ぅ〜?気を付けてねぇ〜」とからかわれながらアパートを出る

門を出たところに、赤いシトロエンがハザードを出して停車している
「稲葉」
と声をかけられ、俺は軽く右手を挙げ「よ、千晶」と挨拶する

そのまま助手席に滑り込み、千晶はハンドルを切って発進した

「なんですぐに連絡くれなかったんだよ、ダーリン」
「いや…メール受信した日に連絡しようと思ったんだけどさ…」
「だけど?」
「なんて言うか…どうあんたと向い合えばいいかわからなくって…」
「俺のこと、イヤなのか?」
「そうじゃねーよ。そうじゃくてだな…まぁー複雑な心境ってヤツだな」

俺は右側のドアにもたれ掛るような体制で窓の外を眺めた

「複雑…ね」

ポツリとつぶやいた千晶の言葉は、走行中の雑音に消され、俺の耳には入らなかった