妖アパ 千晶x夕士 過去捏造
「ご主人様。起きてください。ご主人様」
フールが耳元で俺を呼んでいる。
薄らと目を開けると、フールが「お目覚めですかな?」と覗き込んできた。
いつの間にか寝ていたらしい(こんな状況でも寝れる俺って成長したと思う)
「どうした?何かあったのか?」
「いえ。古本屋殿が"穴"を発見したご様子」
「"穴"?」
「はい。"穴"でございます」
古本屋の姿を探すと、少し離れた場所にしゃがんでいた。
俺はリュックをそのままに、古本屋に近づいた。
「おう。夕士。起きたのか。」
「何か気になることでもあったんスか?」
すると、古本屋は「んー」と顎を触りながら、ぽっかり空いた穴を見た。
「"穴"っスね」
「そうなんだよ。"穴"なんだよなぁー。覗いても底が見えない"穴"なんだよなぁー」
「なんでこんなところに"穴"なんて空いてるんスかね?」
「落とし穴でも掘ってたのかなー」
「んなハズないっしょ」
「だよなぁー」
俺も古本屋と一緒に、穴を覗き込んだ。
大きさは直径一メートル程度の丸い穴だ。
覗き込んでも暗く、底が見えない。
何か落としてみるか?それとも…
「正義。ホルスの眼!!」
「ホルスの眼。魔を看破する神の眼でございます!」
ページから青白い放電が起こり、バレーボールのような目玉が現れる。
「ほー。その手があったか」
古本屋は関心そうにホルスの眼を見て頷いた。
「"穴"の底まで、あらゆるものを見てこい」
主の命を受け、ホルスの眼はシュッと"穴"の中へ消えて行った。
*
暫くすると、ホルスの眼が戻ってきた。
「いいぞ。映してくれ」
ホルスの眼は見てきた映像を自分の表面にザーッと再生し始めた。
「なんか壊れたテレビみたいだな」
実際、映し出された映像にはチャンネルの合わない番組を見ているかのような
ノイズが入っており、鮮明とは言い難い。
永遠と続くかのような暗闇の映像の後、急に視界が開け明るくなった。
「どこだ?」
食い入るように映像を見ていると、「あれれ?」と古本屋がつぶやいた。
「どうかしたんスか?」
「ちょっと巻き戻してくんない?15秒ぐらい手前から。後、コマ送りで」
まるで録画されたビデオを見るかのような口ぶりで言われ、
渋々ホルスの眼に命ずる。
そもそもそんな高等ワザできるのか?と思っていたが、ホルスの眼は命じられた通り
15秒ぐらい手前からスローで再生を始めた。
「ここ!ここだよ。ストップ!!」
古本屋が興奮しながら俺の方をバシバシ叩く。
慌てて、「一時停止」と声をかけると、古本屋は前のめりになりながら
「見ろよ。夕士。これ千晶センセじゃね?」
と、ホルスの眼の真ん中に指をさした。
「あーそれっぽいですね。身体の線とか似てます。」
「だろ?」
「って言うか、ココ条東商の屋上っスね」
鮮明な画像ではないが、丁度千晶が屋上から校舎へ入るところの映像だった。
「ってことは、この穴は日本に繋がってるってことっスか?」
「んーどうだろう。今回は日本だったって感じじゃないか?」
「更に付け加えると、時間軸も分かりかねますな。」
「どういうことだ?フール」
「この場所は時空の狭間でございます。過去、未来、現在と繋がっております。」
「あーそうだな。確かに"現在"とは限らないな」
古本屋は「ふむ」と顎を擦りながらもう一度映像に目をやった。
「よし!夕士!行って来い!」
「ハァーー?!何言って…「良いから!行って来い!朗報を期待する!」」
「ちょっ!!」
俺は抵抗する暇もなく、古本屋に穴へ突き落された。
作品名:妖アパ 千晶x夕士 過去捏造 作家名:jyoshico