真夜中のスーパー・フリーク
人間、切羽詰まれば多少の怪しさには目を瞑り、後ろ暗い事をつい引き受けてしまう者もいる。そうした連中を多数使い、トカゲのしっぽ切りの要領で容易に本体を掴ませないようにしている、という訳だ。力任せの行動の目立つそういうゲリラ的な組織の中では、珍しい部類に入るのではないだろうか。
「今追っかけてるあいつも、もしかしたらただの尻尾かもしれん。ま、それはそれでかまわねぇさ。尻尾なら尻尾で、東部で暴れる種一つ摘んどきゃ良いだけの話だからな」
「確かにそんな連中に潜られたら面倒ですねー…」
「だろ。だからここで抑えときたいんだって」
ハボックはここしばらく行動の無い、つまりはそろそろ動いてもおかしくなさそうな組織をいくつか思い描いてみた。
…が、何処ともそぐわない気がする。
毛色が違う。何となくそう思うのだ。
・・・下手をすれば何かもっと大物が釣れてしまいそうな気配がする。
どうもその回答はヒューズもお気に召したらしい。
納得したように首肯されて、慌ててまだ感覚的なもんだと付け足しても、あっさりとオレもそうだからと返される。
そして彼は意味ありげににやりと笑って付け加えた。
「ちなみにロイも同意見だ」
うわを。
…ああ、なんか今更何でご指名くらったのか判ったような気がしてきた。
「まーまー、そんなしけた顔しないで」
その辺おいおい楽しくなってくるから、って。何だこりゃ。何かさり気なく何かを踏み外す方向へ持って行こうとしてないか、この人。
殆ど直感で返そうとしたその一言を、不意に視界を過ぎった光景が遮った。
自分の中でスイッチが切り替わるのが判る。
「――――中佐」
「…きなすったか」
この件は保留だな。
ヒューズは鏡の中を、ハボックは話す振りをしながら通りの奥、暗い光に照らされた宿へ意識を向ける。
どうみても野郎の2人連れ。しかも辺りの様子を窺う様は、真っ当な素性の者とは思えない。辺りに人影の無い事を確認すると、するりと店の中に消えた。
2人は同時に席を立つ。
視線をかわして一つ頷くと、ハボックはさり気なく先に店を出た。
ヒューズはカウンター越しに店主に勘定を支払うと、陽気な調子で店のカウンターに置いてあるマッチに手を伸ばして、一箱取り上げた。
「なぁマスター、これ入れといてくれる?」
店主はちらりとヒューズを一瞥すると、無愛想な顔を崩さず一つ頷いてみせる。
それを確認すると、宜しく、と片手を上げて軽い足取りでハボックの後を追った。
作品名:真夜中のスーパー・フリーク 作家名:みとなんこ@紺