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みとなんこ@紺
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真夜中のスーパー・フリーク

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 辺りの取り巻きの男たちも一瞬呆けたように思考を止めた。
 そして、そんな隙を逃すはずがない。

 空気が凍ったその瞬間、ガラスの弾ける派手な音がして室内の灯りが消えた。

 軽口を叩く前から、さり気に下げられていたヒューズの手の動きに気付いたのは自分だけだろう。
 袖口から覗く、硬質な光。
 ヒューズの台詞に連中の気が逸れた瞬間、ハボックは傍らに転がっていた椅子を連中に向けて思い切り蹴り飛ばす。
 同時にヒューズの手元から鋭い光が閃いて、つり下げられていたシャンデリアの根本に突き刺さった。
 瞬間屋内が暗闇に包まれる。
 飛び交う怒号と銃を制止する声、手近にいた男の腹に肘を打ち込んで声の方へ向けて投げ飛ばす。おまけにもう一つ椅子を蹴りこんでから、窓から身を躍らせた。
 流石に取り上げられたベレッタを拾う余裕はなかったが、そう言えばさっき蹴り倒した見張りの銃が…って。
「少尉、こっち」
「本っ当に早いッスね、中佐…」
 さっきのスローイングダガーといい、暗器持ちなんて物騒な。あんたホントにデスクワーク派なんですか。
 聞いてみたいのは山々だが、状況が許してはくれない。彼はさっさとさっき放り出しておいた銃を接収すると1丁を手渡してくる。
「あー…あんまマガジン持ってねぇぁ、こいつら。ホントにやる気あんのかね」
「いや、あんまやる気あってもしょうが…ねッ!」
 すぐ傍での跳弾に慌てて像の影に飛び込んだ。
 続けて連射が来た。室内で期待した同士討ちはあんまりならなかったらしい。それとも何処かにまだ仲間がいたのか、結構な人数な気がする。
「…ヤバイですねー…」
「そーだなぁ…」
 余程アタマに来てるのか、なりふり構わず乱射してきているお陰で身動きが取れない。
玄関前の車寄せから門までは遮る物なしの一直線だし、壁を越えようものなら的にされることウケアイだ。
 とりあえず寄って来られると困るので散発的に撃ち返してはいるが、十倍返しで弾が返ってくる。
 こちらの弾のストックも殆どないも同然だし、状況は最悪だった。
 さてどうしよう。
「ご近所の皆さんが変だと思って通報してくれませんかね」
「通報されてからの出動じゃ遅いなぁ」
 いや、そんなのんびり返されましても。
 この期に及んでヒューズに焦った様子はない。庭の街灯の明かりにすかして時計なぞ確認している。
 と、その時、壁際に沿うようにあった街灯が流れ弾を喰らったのか、派手な音をして割れた。
 ざっと辺りを見回す。さっきの街灯が割れたため、庭木に隠れるその辺りは暗闇に閉ざされていた。もうそこしかない。
「・・・中佐、今の内あっちの壁越えて応援呼んできて下さい」
 ヒューズはす、と目を細めてハボックを見遣った。
「お前は?」
「奴ら、市街地に出すワケにはいかないでしょ。…ちょっとの間くらいなら逃げ回れますから」
 こんな所でくたばるつもりはありませんし。
 だから、と先を示す彼の表情はいっそサバサバしたもので。…こんな時、普通多少なりとも悲壮感ってものが出るんじゃないだろうか。
 それとも本当に何とかなる、と思っているのか。
 何となく似たようなものを前に見たなぁと思いながら、ヒューズはこの場にそぐわない程楽しげに笑った。
「こんな所に借り物置いてったら後でオレが燃やされる」
 いやいやいや!
「そーゆー問題じゃ…!」
「――――それにこんな所でこんな奴の為に、妙な自己犠牲の精神なぞ使わんで良い」

 お前には似合わん。

 ・・・・・・。

 横合いから、さり気に挟まれたその声は、至極聞き覚えのある物だった。




「…な…ッ」
「な?」


「何であんたがここにいるんですかー!!」


 後に彼は、思わずその場に仁王立ちして力一杯叫んでもしょうがないだろう!?と熱く同僚に語っている。
 ちなみにその場は、思わぬ行動に流石に一瞬慌てたらしい彼の人に、思いっ切り足払いを喰らって転がされたが。
 直後にアタマの上を銃弾が通り過ぎていくのと同時に、馬鹿かお前は、とのありがたいお言葉を頂戴する頃にはようやく頭が冷えてきた。
 避けさせるにしてももうちょっと他にやりようはあっただろうに、わざわざ地面に転がしてくれた張本人は、やはりどう見ても直属の上官で。
 先程の問いをもう一度繰り返せば、彼は不機嫌そうに眉を潜めた。
「応援を呼べと言ったのはお前だろう」
 いや、それは言いましたけど。
「やー、良かった。おっさん電話すんの忘れてたらどーしようかと思ったぜ」
「その前にお前、いい加減人をマッチ呼ばわりするのを止めろ。何度言ったら判るんだ」
 いやいやいやいや!
「じゃなくてあんた指揮官でしょーが!こんなとこまで一人で来てどうすんですか!」
 ずるずると傍まで寄ってきたハボックを煩そうに見下ろしながら、追加、と持ってきた銃とマガジンを手渡してやる。
「最小の力で最大の成果を、だ。効率化の基本だろう」
 彼はそう事も無げに言い放った。

 ・・・思わず地面に突っ伏した自分を誰が責められようか。
 確かに、以前から現場に出て行くのが好きな人だなとは思っていた。
 普通今までに接してきた指揮官は、奥に引っ込んで率先して出てくるものでもなかった。主導権はどちらかというと小隊長などの方に渡り、上とうまく連携の取れない部隊も多く見てきたから、珍しい所もあるもんだ、くらいに思っていたのに。
 彼が何故現場に拘るか、そこに根ざす物までは考えた事もなかった。なかったが…ここまで見せつけられれば考えざるを得ないじゃないか。
 もの問いたげな視線を素で受け流し、彼は軽く肩を竦めて見せた。
「聞きたい事があるなら解説するが?」
 懇切丁寧に。
「‥‥やめときます」
「何だ、今更遠慮するな」
「聞いたらもー戻れないような気がするんで」
 慣れ親しんだベレッタに持ち替え、マガジンを突っ込むとハボックは深々と嘆息した。
 その答えに、彼は珍しく目を軽く瞠り、
 それから目を眇めて小さく笑った。
「何だ、戻る気があったのか」
 う、と思わず詰まってしまった。
 もういい。もう考えるのは後にしよう。
 小さく数を数えながら、ゆっくり意識を切り替える。
「――――ご命令を?」
 それに満足したように彼は笑った。
「前衛連中を片付けるから、片っ端から仕留めろ」
「了解」
 するり、と優雅な動作で持ち上げた右手は白い手袋で覆われている。
 軽く摺り合わされた指先から小さな火花が散る。その甲に描かれた赤い蜥蜴がまるで呼吸をするように、赤い光が走った瞬間。
 視界が赤に閉ざされた。